2021年9月より2年半、全24回にわたり「スマートシティによって実現される持続可能な社会」について、さまざまな視点から考察してきました。最終回として、これまでの各視点からの考察を大きく、“人”・“モノ”・“カネ”・“情報”の4つの切り口から再整理します。
なお、本稿の参考となる過去回のリンクを本文内に挿入しています。改めてご一読いただき、スマートシティへの理解の一助としていただけましたら幸いです。

1.“人”:スマートシティ化を推進する主体に関する課題と解決方向

手段としてのスマートシティ化を推進するためには、その推進主体が重要です。KPMGでは、“デジタルPPP”と称して、新たな主体を設立しての推進を提唱していますが、その具体的な形態や参加者には下図のようにさまざまなものが考えられます。

【デジタルPPP】

スマートシティ化による持続可能な社会構築に向けて_図表1

出所:KPMG作成

たとえば、スマートシティ推進主体として株式会社や一般社団法人などの別法人を設立する場合、自治体と関連民間企業が連携するいわゆる官民連携、さらには、そこに大学も参加し、新たな知見を活用する産官学連携も有効な方法の1つと考えられます。また、推進主体には、市民の参加が必要となるケースも多いと考えられます。

スマートシティ推進の担い手の“情報リテラシー”の向上も重要です。KPMGでは“情報リテラシー診断”により、民間企業や役所職員の“情報リテラシー”を定量化し、現状を認識してのレベルアップを支援しています。このような取組みを、市民全体、特にデジタルやスマートフォンが苦手と言われる高齢者等へも展開することが重要です。行政側については、デジタル庁が推進する公共分野のデジタル化に対応して、行政事務・行政サービスのデジタル化(自治体DX)も加速する必要があります。

2.“モノ”:導入すべきハード・ツールに関する課題

スマートシティ化においては、市民が具体的に見たり使ったりできるハードウェア・技術についての実証も進んでいます。たとえばドローンについては、性能・技術面の課題が徐々に解決され、法制度の整備も進み、実用化が視野に入ってきています。地域通貨についても、普及が進んでいるキャッシュレス決済と相まって、地域経済活性化への貢献に期待が高まっています。一方で、いずれも供給者目線での動きが中心であり、市民の理解獲得が今後の中心課題となっています。

スマートシティ化において必要不可欠な通信では、技術面の進展に追いつく形で制度面の後押しも進んでおり、さらに利便性が高まると見込まれています。

国がここ数年推進しているスマートシティ関連施策では、“都市OS”もしくは“データ連携基盤”を活用しての行政サービス・市民サービス向上が志向されています。すでにいくつかの地域において、都市OSと呼ばれるシステムが導入され、その活用が期待されています。一方で、導入した地域でもその基盤を十分に活用できているとは言いがたく、多くの地域では導入そのものも見通せない状況でもあります。これは導入・運営予算のみでなく、データの利活用に関するセキュリティ・市民合意が大きな課題になっています。特に市民合意については、小さな成功体験の積み重ねが重要と考えられます。

3.“カネ”:事業性・資金にかかわる課題

スマートシティサービスの事業性やスマートシティ関連施策を継続的に更新・運営していくには資金面の課題も多いですが、前述のデジタルPPPによる推進は、事業性・資金面の課題解決も視野に入れたものです。
資金調達面では、社会や環境への貢献も目指したインパクト投資の活用も考えられます。多くのスマートシティではさまざまなデータの収集・利活用が想定されており、これが、インパクト投資に必須な定量的評価へ活用できる可能性が高く、インパクト投資が拡大する大きな要因になると考えられます。

4.“情報”:情報の利活用・データ連携に関わる課題

スマートシティ化においては、データの利活用によりさまざまなベネフィットが得られることが想定されます。たとえば公共交通機関です。技術の大幅な進展と低コスト化により、“移動”やその“目的”に関する多様なデータ取得・分析が可能となっており、これによる公共交通計画そのもののアップグレードが見込めます。公共交通機関としてのバスについては、国の施策の後押しもあり、オープンデータ化により、従来のバス交通からの大幅なサービスレベル向の上が期待できます。

ウェルネス領域においても、さまざまなスタートアップがデータ利活用を進めており、今後の拡がりが見込まれています。一方、個人情報に関連する情報が多く、官民連携による課題解決が急務となっています。

情報に関連して、コンテンツ、特にデジタルコンテンツを活用し、観光における経済効果向上への期待も高まっています。デジタルコンテンツの活用は、市民にとって理解しやすいスマートシティ化の第一歩です。観光に関しては、コンテンツ活用に加え、データ利活用によるタイムリーな施策も有効です。

スマートシティを推進する主体の1つである公共においては、EBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)が必須であり、その十分な活用のためには多様なデータが必要です。スマートシティ化により、さまざまなデータが収集・蓄積され始めており、今後のEBPMの進化が期待されます。

ただし、EBPMに関しても、そのデータ利活用におけるプライバシーリスクに適切に対応し、市民の理解を得ていくことが必須なのは言うまでもありません。

5.分野横断での課題解決と領域ごとの課題

スマートシティの実現にあたっては、多くの地域・分野においてこれまで整理してきた、“人”・“モノ”・“カネ”・“情報”での課題解決が不可欠です。加えて、“スマートシティリファレンスアーキテクチャ”を活用した分野横断での取組みも必須です。

一方で、分野ごとのアプローチに加え、その解決すべき問題が異なることも事実です。
たとえば、ウェルネス領域では、病院を核としてスマートシティ化の推進が考えられます。医療分野での課題解決のために病院の統廃合が進められていますが、その動きにあわせてスマートシティ化も推進しようというシナリオです。福祉領域においては、病院だけではなく、地域の公共施設の再編・活用と“コミュニティ”再生も必要になります。さらに、医療介護全体の解決のためには、病院・公共施設統廃合やコミュニティ再生を梃にしたスマートシティ化でだけでなく、情報・データ、特にウェルネスに密接にかかわるEHR(Electric Health Record)・PHR(Personal Health Record)の活用による“人”・“モノ”・“カネ”の効率化が必須です。

6.最後に

KPMGコンサルティングでは、現在、いくつかの地域のスマートシティ化を支援しています。それらの地域で、これまで整理してきた“人”・“モノ”・“カネ”・“情報”あるいは分野別の課題解決に取り組んでいます。そこで得た知見を基に、 “スマートシティ・プラットフォーム”(仮称)の立ち上げを準備中です。この活用も含め、都市の規模や立地を問わず、地域課題を解決し、市民生活を持続可能なものとできるよう、さまざまな支援を続けていきます。

【スマートシティ・プラットフォーム】

スマートシティ化による持続可能な社会構築に向けて_図表2

出所:KPMG作成

執筆者

KPMGコンサルティング
パートナー 馬場 功一

スマートシティによって実現される持続可能な社会