新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により大打撃を受けた観光業は、WithコロナのなかでGo Toトラベル事業をはじめとする施策を、都道府県別の感染者数データの分析や利活用を行いながら、タイムリーに実施してきたことは記憶に新しいかと思います。
訪日外国人観光客の訪日要件の緩和やイベントでの人数制限等の撤廃で、観光業はようやく本格稼働となりました。
本稿では、地域活性化の切り札と位置付けられる観光産業において、必要とされるデジタル化・スマート化について考察します。

1.新型コロナによってさまざまな対応を余儀なくされた観光地

新型コロナによる人の移動の制限により、大きな影響を受けた産業の1つに観光・旅行業が挙げられます。訪日外国人観光客の訪日要件の緩和、イベントでの人数制限の撤廃等の新型コロナとの共存方法が見つかり、ようやく、長いトンネルを抜けようとしています。ご承知のように、新型コロナ流行以前(2019年以前)は、訪日外国人観光客数の爆発的な増加によって、日本における観光産業の位置付けは、「地域活性化の切り札」と呼ばれたように非常に高いものでした。
では、地域活性化のメインターゲットの1つであった訪日外国人観光客の受け入れが実質不可能となっていた観光地は、Withコロナにおいてどのような対応を余儀なくされたのでしょうか?

図表1の散布図は新型コロナの影響を受ける前の2019年と直近の2022年の延べ宿泊者数の伸び率を、県外からの延べ宿泊者数の伸び率を右軸に、全体での延べ宿泊者数の伸び率を左軸にとったものです。山口県と栃木県を除き「県外からの宿泊者数の減少によって2019年を下回る」結果となっていることがわかるかと思います。つまり、Go Toトラベル等の旅行需要喚起のための刺激策があっても、インバウンドを含む県外の観光客に大きく依存していた都道府県は、2019年の水準までには回復しなかったことがわかります。
一方で、近場の観光地の魅力を再発見して楽しむといったコンセプトのマイクロ・ツーリズム促進策である県民割等の施策の結果、近場の観光客の比率を大きく増加させたことも事実です(図表2参照)。

新型コロナ以前に訪日外国人観光客誘致に大きく舵を切っていた地域は、Withコロナのなかでは近隣住民へのアプローチに苦労をされたと推察しますし、また、リモートワークの浸透によって大幅に減少したビジネス出張需要に支えられていた都市部も、大きな打撃を受けたことと思われます。

【図表1:2019年から2022年の都道府県における観光客の質的変化】

地域活性化の切り札となる観光地におけるデジタル化・スマート化とは_図表1

出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」を基にKPMG作成(延べ宿泊者数の伸び率:県外からの延べ宿泊者数⦅右軸⦆、延べ宿泊者数全体⦅左軸⦆)

【図表2:延べ宿泊者数に占める県内からの延べ宿泊者数の構成比の比較(2019年 VS 2022年)】

地域活性化の切り札となる観光地におけるデジタル化・スマート化とは_図表2

出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」を基にKPMG作成

2.観光地のデジタル化・スマート化

前述のとおり、ターゲットとする観光客をタイムリーに変更した好例として、訪日外国人観光客が実質ゼロになった状況のなか、インセンティブを付与することで国内観光客の需要を刺激したGo toトラベル事業が挙げられます。当事業の実施中に新型コロナへの感染者数の増加が見られた地域は対象から除外する等の措置が取られましたが、こうした臨機応変な意思決定を支えたのは、数値の収集・検証・分析といった情報分析基盤整備であり、デジタル化やスマート化でした。

観光・旅行業は需要側の経済に依存しており、新型コロナや昨今のエネルギー資源の高騰、物価高等の影響を受けやすい業界です。需要側の動向だけでなく、航空や鉄道等の供給側の状況等の速やかな状況把握が必要となります。今後、さまざまな面でEBPM(Evidence-based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)による迅速な施策展開がカギとなることは言うまでもありません。 

観光庁では、観光分野のデジタルトランスフォーメーション(以下、観光DX)を、「業務のデジタル化により効率化を図るだけではなく、デジタル化によって収集されるデータの分析・利活用により、ビジネス戦略の再検討や、新たなビジネスモデルの創出といった変革を行うもの」と位置付けています。具体的には、混雑回避・人流分散による消費拡大を目的としたデジタル技術の活用による旅行者の利便性向上周遊促進事業や、地域と観光客との間のエンゲージメント※1を高め消費拡大を促すCRM(Customer Relationship Management)事業、宿泊事業等のバックエンド※2の業務効率化および観光デジタル人材の育成・活用等を推進することとしています。

このほかにも、各都道府県等でBIツールを活用した観光客の動態の可視化や民間の人流データを活用した観光客の動態把握等のデジタル化が実施されており、着々と観光分野のデジタル化・スマート化が進められています。

【図表3:観光分野におけるデジタル実装(観光庁)】

地域活性化の切り札となる観光地におけるデジタル化・スマート化とは_図表3

出所:観光庁「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」を基にKPMG作成

3.観光にかかわる社会的アジェンダ に対するデジタル化・スマート化

観光庁が進めているデジタル実装は、観光地における経済効果を増加させるためのデジタル化・スマート化として捉えることができる一方で、観光客に対する取組み以外にも地域住民や自然環境、文化遺産等のアジェンダに対するデジタル化・スマート化が求められています。

新型コロナの流行によって人の移動が制限されたことで、ここ数年問題が顕在化していませんでしたが、今後、観光客数が地域の受け入れキャパシティを超えてしまう状態であるオーバーツーリズム対策や自然・文化遺産の保護と活用との両立に対する対策、また、地域住民の観光に対する意識(受容性)の把握も重要な課題となってくるでしょう。こうした社会的なアジェンダに対してもEBPMが求められることは言うまでもなく、情報収集・分析・打ち手の立案・打ち手の検証といった一連の流れにおいてデジタル化・スマート化が非常に重要になると考えます。また、それらのデータを地域や業界等の垣根を越えて連携させていくことも重要となるでしょう。

【図表4:観光にかかわる社会的アジェンダに必要となる対策とデジタル活用のイメージ(例)】

  必要となる対策 デジタル活用のイメージ(例)
オーバーツーリズム ・観光客の引き起こす騒音やゴミ、渋滞の軽減

・GPS、センサー技術等を用いた人流・車流の把握やシミュレーション(パークアンドライド施策等)

・ダイナミック・プライシングの活用による混雑の緩和、ピークの平準化 等

自然・文化遺産の保護と活用との両立 ・自然遺産・文化遺産に対する負荷の軽減(入域人数の制限、観光客の行動の把握、外来種の所在の把握等)

・GPS、センサー技術等を活用した人流・車流の把握・シミュレーション

・ダイナミック・プライシングの活用による混雑の緩和、ピークの平準化

・GPSによる外来種の所在の可視化 等


※1 観光客の地域に対する愛情度のこと、企業や商品、ブランドに対するユーザーの愛着度として利用されることが多い
※2 ソフトウェアやシステムを構成する要素のなかで、利用者や他のシステム、ソフトウェアから見えないところでデータ処理や保存を行う要素のこと
参考:観光庁「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 渡邉 浩良

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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