デジタル施策の推進に必要なデジタルリテラシー

内閣府が提唱するSociety5.0やデジタル庁の創設といった国の指針や動向に加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受け、社会全体のデジタル化・リモート化が急速に進むなか、IT・DX(デジタルトランスフォーメーション)人材育成の必要性が高まっています。そのなかで、企業・自治体におけるDXの推進では、まず自組織のデジタル化への取組みがどこまで進んでいるかについて、ベンチマークも含め客観的に評価・分析・把握することが重要です。そこを起点として自社のDX課題を特定し、その課題を解決するためのDX施策の立案とロードマップの策定を行うことが、全社DXのスタート地点となります。
ただ、ここで1つ懸念が浮上します。立案したDX施策とロードマップを、果たして企業内の既存リソースで予定どおり進めることができるのか、という点です。掲げたDXの目標に向けて、通常なら主たる推進役となり得そうな社員・職員のデジタルリテラシーの成熟度も重要な要素になります。そのため、次のアクションとしては、社員・職員のデジタルリテラシーの現在位置の把握がキーポイントとなります。

デジタル時代において求められる全社・全庁でのDX推進では、情報システム部門のみならず事業部門やコーポレート部門も広範囲かつ、一定水準のデジタルリテラシーを備えるべきであり、まさに全社・全庁参加的に、社内外のステークホルダーとの共通言語として、デジタルにかかわる知見の具備を前提としたコミュニケーションの必要性が高まっていくと考えます。まさに全社・全庁でのデジタルリテラシー向上に待ったなしの時代が到来しつつあると言えます。

社員・職員のデジタルリテラシーの現在位置の把握

前述したように、全社DX推進の起点として、まずは社員・職員のデジタルリテラシーの現在位置を把握していきます。当該領域の可視化は、なるべく網羅的に、客観性を持って現在位置を確認することが重要です。KPMGコンサルティングでは、ビジネスパーソンに求められるデジタル知識や技能、情報、活用能力などの度合いを数値で可視化する「デジタルリテラシー診断」(アンケート調査・分析)を行っており、企業のデジタルリテラシーの現在位置を可視化するのみならず、DX人材の育成を支援しています。それらの知見を活かし、自治体向けとして初めて、静岡県裾野市役所の職員を対象に本診断を実施しました。今回は当事例の紹介とともに、デジタルリテラシー診断の解説を進めます。

※デジタルリテラシー診断は、地域のDX人材(企業の社員や自治体職員、スマートシティの実行主体者など)向けにも、適用可能な汎用性の高いアセットとして構成されています。

(1)デジタルリテラシー診断(構成)
図表1は設問の一例ですが、「デジタルのトレンド」「デジタルを活用したビジネスへの貢献」「デジタルリスク態勢」「デジタル教育と投資」の4つの知識領域(視点)にかかる34の設問を定義し、アンケート調査と分析を通じて診断します。各項目についてLevel1~4といった4つの選択肢を設定し、Level2が標準スコアとなるよう設計しており、もしLevel2より低い知識領域があれば、そこを重点的に強化していくようデジタル人材教育の計画立案を支援していきます。
なお、アンケート調査を実施する際は、調査対象者の社員・職員番号やeメールアドレスの入力が必須となりますが、これは、調査対象者の「部門」「役職」「勤続年数」「年齢」など、デモグラフィック情報を後の分析用に取得するためです。

【図表1:デジタル診断項目例】

視点 No 診断項目(全34項目から抜粋)
デジタルのトレンド 1 デジタルをベースとした新たなビジネス形態への適応ができているか
2 先端技術(IoT/ドローン/ブロックチェーン/AI(Cognitive)/RPA/AR・VR/5G等)を理解・活用できているか
3 利用・構築しているシステムの意義・目的を理解できているか
4 自社の各種システムの特徴・用途を理解できているか
5 クラウド技術を理解・活用できているか
デジタルを活用した
ビジネスへの貢献
6 デジタルを用いた業務効率化を理解・実践できているか
7 業務上で収集したデータの再取得・分析・活用の手法を理解できているか
8 社内の業務プロセスモデルを理解できているか
9 Excel/Word/PowerPoint/メールソフトの機能を理解・活用できているか
10 ツールを用いた業務データのグラフ・チャート化ができているか
デジタルリスク態勢 11 自社の個人情報の社内外へのデータ共有リスクを理解・遵守できているか
12 社内データへの外的アタック(不正アクセス、ウイルスによる情報漏えい等)リスクを理解・把握できているか
13 自社の情報セキュリティポリシー(ファイルパスワード、PC端末ロック、紙資料の保管等)を理解・遵守できているか
14 自社のコンプライアンス(社内SNS上のモラル、ハラスメント、LGBTQ等)対応を理解・遵守できているか
15 自社のデジタルデータの保管ルールを理解・把握できているか
デジタル教育と投資 16 デジタル技術導入に特化した新しい開発手法(アジャイル型開発等)を理解できているか
17 デジタルプロジェクト管理の意義、目的、考え方、手法を理解できているか
18 システムの構成、処理形態(集中/分散)、利用形態(バッチ/リアルタイム等)の特徴を理解できているか
19 システムの性能(処理速度、キャパシティ等)や経済性(費用対効果)を理解できているか
20 外部デジタルベンダーとの各種規約(NDA、SLA)や、業務遂行に関する法規(下請法等)を理解できているか

(2)デジタルリテラシー結果の分析、ギャップの特定と方向性の検討
4つの知識領域にかかる34の設問の回答を回収した後は、「部門」「役職」「勤続年数」「年齢」などのデモグラフィック情報別に分析を進めます。図表2は、実際に裾野市役所向けに実施した部門別のデジタルリテラシー診断結果の平均点を相対的なヒートマップにしたサンプルです。縦軸をデジタルリテラシー設問、横軸を部門としたマトリックスであり、寒色系が高スコア、暖色系が低スコアを表しています。我々の経験上、この結果には組織特性に裏付けられたデジタルリテラシーの結果が如実に現れ、それぞれ全く異なる傾向・結果が得られます。図表2のサンプルでは、弱み(赤番号)が2つ、強み(青番号)が3つ抽出されているのがわかると思います。

【図表2:裾野市役所に実施したデジタルリテラシー診断結果(部門別)のヒートマップ例(一部抜粋)】

デジタルリテラシー診断_図表1

それぞれの強み・弱みにおける部門別の現況を示唆するだけでなく、そこから「今後どこのポイントを強化すべきか」「どのような工夫をしてレバレッジを最大化するか」を仮説立てていく(図表3)ことで、今後の全社・全庁でのデジタルリテラシーの強化、つまり、社員・職員の成長、教育方針のプランニングのインプットを得ることができます。またそれを基に、裾野市役所向けには、図表4のように、今後裾野市が目指すべき施策方向性を整理・提言しました。

【図表3:裾野市役所向けに実施したデジタルリテラシー診断分析から導出された課題と強みの仮説例】

デジタルリテラシー診断_図表2
デジタルリテラシー診断_図表3

【図表4:裾野市役所向けに提言した目指すべき施策方向性例】

デジタルリテラシー診断_図表4

(0)行政のあるべき姿を「次世代型近未来都市(SDCC構想)実現のコーディネーター役」と定義
SDCC構想のなかでも、「行政のみならず、市民、関係団体、NPO、企業、大学等、御参画いただく皆さまと共にオール裾野で・・・」「富士山麓の豊かな自然環境のもと、クリエイティブ・マインドを持った市民や企業等がデジタル技術やデータの利活用によりまちをリデザインし、あらゆる分野の地域課題を解決する次世代型近未来都市を目指す」と掲げていることから、SDCC構想の実現に向けてさまざまなステークホルダーと連携し、デジタル技術やデータの利活用により推進していく主体(=コーディネーター役)となることを改めて“全庁で”再認識することが必要と思料した。

(1)行政DXを推進するハブ組織の構築
ローテーションが多いなかで、行政内のDXを企画部がハブとなり、ノウハウを集積・共有する組織構築が必要と思料した。

(2)SDCC構想に関連する市内産業のDXを推進するハブ組織の構築
上記同様、行政内DXだけでなく、各部が対応する市内産業DXにおいても、企画部がハブとなる組織構築が必要と思料した。

(3)人事制度へのデジタル要素の盛り込み
人事・企画部で連携しながら、来年4月改定予定(案件当時)の「裾野市人材育成推進計画」 「裾野市人材育成基本方針」において、スキル要件・キャリアパス・人事評価にデジタルに関する項目を盛り込む必要があると思料した。

(4)人材育成ロードマップの策定
上記を基に、迅速に全体平均レベル2.5程度(“プラス1戦略”)に押し上げるための人材育成ロードマップを描くことが必要と思料した。

(5)ITリテラシー診断手法の会得
企画部が、裾野市の事業者および庁内の評価・課題抽出を独力で行うためのツールとして習得するべきと思料した。

(6)デジタル関連教育の企画
ロードマップおよび該当する計画・方針に則り、職員のレベルアップに必要な教育カリキュラム・マテリアル・指導者の整備が必要と思料(横展開施策も考慮)した。

まとめ

来たるデジタル時代に向けて、進めるべきDX施策を明確に立案することは重要な第一歩ですが、自社の社員・職員がその推進を主体的に進められるか否か、ということも並行して検討する必要があります。社内人材のデジタルリテラシーの現在位置の可視化に加え、デジタルリテラシーをどのようなアプローチで向上させるのか、また、企業・自治体全体のDX戦略を行使し、全社ビジネス・自治体経営へ貢献するという正しいゴールへ到達できるようなデジタル人材をどう育てるかという計画策定も、重要なデジタル施策の1つなのです。

※本稿の内容に関しては、静岡県裾野市役所の許諾を得て掲載しています。
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執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 塩野 拓

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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