全国各地でデジタル技術を活用した地域課題の解決(スマートシティやデジタル田園都市国家構想)が進んでいます。AIやブロックチェーンなどの技術革新が新たな地域の変革を促進している一方で、市民にとってスマートシティは遠い存在(自分の生活には無関係と感じている)となっており、社会実装に向けては、市民の巻き込み、日常的に利用できる仕組みが必要となります。
今回は、市民の身近な存在であるコンテンツに注目し、スマートシティ社会実装に向けたコンテンツの重要性について言及します。なお、コンテンツとは、価値のある中身、または目的とされる中身という意味を持ち、音楽、映画、小説、ゲームなど、文学や音声そして映像を用いて表現された創作物を指します。インターネット上の場合は、ホームページに掲載されている文章や画像、音声や動画を指します。
1.コンテンツを核としたスマートシティが必要とされる背景
スマートシティは、技術やエネルギーがベースとして始まったことに加え、定義がわかりにくいことなどもあり、政府・自治体と市民との間にはギャップが存在しています。健康やモビリティの取組みは日常生活に身近なサービスですが、対象が限定的になることが多く、狙ったターゲットに刺さらないという課題もあります。これらに対して、コンテンツは幅広い世代に向けた対応が可能となり、地域特性や市民との接点で重要となります。
コンテンツは文化のなかに位置付けられており、政府では、文化の定義を下記のように定め、ユネスコの国際標準に倣って、文化GDPを算出しています。コンテンツと親和性の高い「E オーディオビジュアル・インタラクティブメディア」は2.6兆円を超える大きな文化GDPとなっています。
しかし、世界と比較すると日本は2018年合計で10.5兆円(総GDP比1.9%)に対して、アメリカ98.5兆円(2017)(総GDP比4.5%)、ドイツ14.5兆円(2018)(総GDP比3.0%)となっており、GDP比で見てもまだ可能性を秘めています。
岸田政権の骨太の方針「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(令和4年6月7日)」(内閣官房)においても、個別分野の取組みで、文化芸術・スポーツの振興が記載されており、経済社会の多極集中化のなかで、一極集中管理の仮想空間から多極化された仮想空間へという項目で、メタバースも含めたコンテンツの利用拡大が明記されています。
2. コンテンツを活用した地域活性化事例
【コンテンツの分類と特徴】
地域活性化事例
社会的価値創出の事例として、2016年、宮城県石巻市では、ポケモンGOを活用したイベントにより11日間で約10万人がレアポケモンの「ラプラス」を目当てに訪れたケースが挙げられます。経済効果は約20億円と推定されており、被災地の現状を多くの人に見てもらう効果もありました。現在でもポケモンはポケモンマンホール『ポケふた』を地域ごとに展開、観光資源となっています。
3.コンテンツを核としたスマートシティの社会実装に向けて
都市/観光におけるコンテンツ活用は今後も広がると想定され、地域×コンテンツにより経済効果を生み出す取組みは増えていくと予想されます。観光地として魅力がある地域では、より高い経済効果があり、一方で、公序良俗に反するコンテンツ、クオリティの低いコンテンツでは地域にネガティブに働く可能性があります。
デジタルコンテンツの活用事例として「聖地巡礼」や「謎解きイベント」、「Vtuberの活用」などが挙げられますが、これらのデジタルコンテンツを活用しつつ、リアルな町との連携、町歩きを促すことでの地元商店などへの経済効果、歩行や運動による健康効果が期待されます。
コンテンツは市民にとってわかりやすいため、スマートシティやまちづくりを進めていくためのきっかけとしてポテンシャルが高く、日本としての独自性も打ち出しやすくなります。また観光や健康、メタバースのような汎用性の高いソリューションとの親和性も高いため、横展開も期待できます。
アニメ、マンガ、ゲームだけでなく、アートやスポーツなど他のコンテンツを核としたまちづくりを進める事例も多数あり、今後のスマートシティへの展開が期待されます。
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執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 大島 良隆
シニアマネジャー 渡邊 崇之
シニアコンサルタント 井手 拓人