1.地域の移動を支えるバス事業

公共交通機関の1つである鉄道ですが、国土交通省で行われた「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会※1」によると、地域鉄道事業者95社の内、74事業者すなわち約8割が赤字ということです。また輸送人員も平成3年度をピークに令和元年では約22%減少していることがわかります。
一方JR旅客6社においては、国鉄が分割民営化されるときの特定地方交通線に指定される1つの要件であった輸送密度4,000人未満の路線が昭和62年度では36%程度でしたが、令和2年では57%となっています。このため同検討会では、「輸送密度が低い路線はバスなどへの転換も含め、検討を進めるべき」とする提言がまとめられました。
少子高齢化および人口減少の傾向が続く日本では、地域の移動手段を確保することは住民のQOLを保つためにも重要です。
バスには乗合バス、コミュニティバスなどがありますが、地域公共交通を支えるバスには、これまで以上に期待がかかっている状況です。

2.地図アプリでバスの運行状況がわかりますか?

内閣府が行った「公共交通に関する世論調査※2」によると、 鉄道とバスの利用者は「ほぼ毎日利用する」が12.3%、「1週間に数回利用する」が8.3%、「1か月に数回利用する」は14.6%となり、合計35.2%でした。マイカーが普及した現在では日々の公共交通機関の使用頻度そのものが落ちている状況です。
この世論調査で注目したいのは、「鉄道やバスの乗り換えに感じる不便さ」の質問のなかで、「鉄道やバスと乗り換える際の接続が悪く、長時間待たなくてはならない」を挙げた人の割合が34.7%と最も高い回答となった点です。
普段の移動では、多くのユーザーがスマートフォンにインストールした地図アプリ等を利用して目的地への移動手段を探しているのではないでしょうか。鉄道であればほとんどのケースで、目的地までの最短ルートや所要時間などを事前に地図アプリ等で知ることができますが、検索しても出てこない情報があります。それは、バスの乗り換え情報です。首都圏や主要都市ではバスの乗り換え情報が地図アプリ等に検索結果として掲載されることが多くなりましたが、コミュニティバスまで含めると、まだまだ地図アプリ等に出てこない情報が多いことも事実です。

3.バス事業のオープンデータ化

国土交通省を中心に「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)※3」の取組みが推進されています。「標準的なバス情報フォーマット」とは、バス事業者と経路検索等の情報利用者との情報の受渡しのための共通フォーマットです。またGTFSとは「General Transit Feed Specification」を意味し、国際的に広く利用されているバス情報フォーマットとなります。
バス情報フォーマットには2種類のデータがあります。停留所、路線、便、時刻表、運賃等の静的データ、バスの遅延、到着予測、車両位置、運行情報等の動的データです。
では、バス事業のオープンデータ化を行うことのメリットにはどういったものがあるのでしょうか。まず前述の「鉄道やバスと乗り換える際の接続が悪く,長時間待たなくてはならない」という不満の解消です。バス情報フォーマットでまとめられた情報は地図アプリ等にて検索が可能となります。結果として乗り換え等の接続の最適ルートをユーザーがあらかじめ知ることができ、待ち時間も有効に使える可能性が出てきます。さらにバス事業者側にもメリットがあります。バス事業者がバス情報フォーマットにてオープンデータを提供することにより、掲載費不要のPR手段にもなります。地図アプリ等を使用したユーザーのスマートフォンにバス経路が出てくることにより、交通事業者は無料でPRを行うことができるのです。

【標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)】

バス事業のオープンデータ化_図表1

出所:国土交通省「経路検索の充実とバスロケデータの利活用 ~標準的なバス情報フォーマットの拡充~」を基にKPMG作成

4.バス事業のオープンデータ化の課題

国土交通省によると、バス事業のオープンデータ化に参画しているバス事業者および自治体は全国で382事業者(2021年3月時点)です※3。また、公益社団法人日本バス協会の「2021年度版(令和3年度)日本のバス事業※4」によると、乗合バス事業者数は全国に2,321事業者ですので、オープンデータ化に参画しているバス事業者は16%程度となります。オープンデータ化が進まない理由として、バス事業者のコスト負担となる経費面での課題と、またオープンデータ化作業に対応可能な従業員の確保の課題があります。
海外でも同様にバス事業のオープンデータ化は進められています。イギリスではバス事業者が時刻表や運賃、ロケーション情報をオープン化することを法的に義務化(同時に公的資金投入)し、250以上の事業者のデータ、18,000台以上のバスの位置情報が更新(5〜30秒ごと)されるシステム(民間企業が開発・運用)となっています※5。経費面の課題は公的資金からの捻出、オープンデータ化作業の課題についてはバス事業者ではない外部の力を借りて行うということが、イギリスの事例から学べるのではないでしょうか。

【UKでのバス事業オープンデータシステム】

バス事業のオープンデータ化_図表2

出所:「Bus Open Data Service」(GOV.UK)のデータを基にKPMG作成

5.バス事業のオープンデータの将来

今後バス事業のオープンデータは、国土交通省が進める「国土交通データプラットフォーム※6」にも統合され、その他のデータと連携することにより、スマートシティ実現に向けて活用されることが期待されています。さらにバス事業のオープンデータを活用した新規事業創出の取組みも行われています。自治体やバス事業者が使いたくなる商品・サービスを作ることを目的として行われた「群馬県公共交通オープンデータハッカソン」が代表的な取組みの1つです。またKPMGも参画したプロジェクトにおいて十勝バスで実証実験として行われた、バスが移動販売店となる「マルシェバス」のようなビジネス※7も、オープンデータと組み合わせることにより、さらに多くのユーザーを獲得できるのではないでしょうか。
冒頭にも述べましたが、少子高齢化および人口減少の傾向が続くなかで、移動手段を確保することは地域住民のQOLを保つためにも重要です。今後もバスは地域公共交通の要として存続させていく必要があります。そのためには、さらなる業務効率の向上と新しい価値を生み出すことが重要です。バス事業のオープンデータは、バス事業の将来を支える重要な要素と言えるのではないでしょうか。

※1 「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会について」(国土交通省)
※2 「公共交通に関する世論調査」(内閣府)
※3 「経路検索の充実とバスロケデータの利活用 ~標準的なバス情報フォーマットの拡充~」(国土交通省)
※4 「2021年度版(令和3年度)日本のバス事業」(公益社団法人日本バス協会)
※5 「Bus Open Data Service」(GOV.UK)
※6 「国土交通データプラットフォーム」(国土交通省)
※7 本連載第13回:「KPMGが取り組む地域創生型スマートシティ」(KPMG)

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 轟木 光

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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