社会課題解決に向けた取組みとして、分野横断のデータ利活用によるサービス提供を推進するスマートシティが挙げられますが、それに加え、社会的インパクトの評価に基づき投資判断を行うインパクト投資も注目されています。
本稿では、インパクト投資の現状や課題について解説するとともに、スマートシティとインパクト投資が相互に発展するために果たすべき役割について考察します。

1.インパクト投資への注目の高まり

持続可能な社会の実現に向けた取組みの1つとして、インパクト投資への注目が高まっています。
財務的なリスクやリターンを主要な判断基準とする従来型の投資に対し、インパクト投資は投資活動による社会や環境へのインパクトも同様に基準とする点に違いがあります。インパクトは、投資した事業によるアウトプットがどのような社会的アウトカムを創出するのか、誰に対してか、規模や期間においてどの程度か、どの程度の蓋然性を持っているか、などの観点で定量的に評価され、「投資家にとっての価値」にとどまらず「投資家を含めた地域・社会全体にとっての価値」の判断材料として提供されます。欧米を中心に投資市場の拡大が進んでおり、日本でもベンチャーキャピタルファンドや官民ファンドの組成に伴い、プライベートエクイティ・ボンドなどさまざまなアセットクラスでインパクト投資が行われています。2018年から2021年までの3年間で確認された投資残高は約3,440億円※1から1兆3,204億円※2に増加しており、投資家による注目度の高さがうかがえます。

投資先の視点では、社会課題解決への意欲など事業理念に賛同する投資家からの資金調達が見込めるほか、インパクト評価レポート等を通した情報発信による企業の認知向上などのメリットが挙げられます。また、インパクト評価を実施するにあたり事業のアウトプットが社会的なアウトカムにどう影響するのかをロジックモデルとして整理することで、事業理念と戦略の整合性を再確認する契機となることも考えられます。
インパクト投資の拡大に伴い期待されるのは、資本循環と連動した社会的インパクトの創出です。経済活動における社会的価値の重視はこれまで、エシカル消費に代表される消費者の取組みやCSR活動をはじめとした企業の取組みを中心に進んできたと言えます。そこに投資家の関与が高まり社会的価値の高い事業への資本の流れが増幅されることで、プレーヤー個別の取組みから経済活動を一貫した社会的インパクト創出が可能になります。

一方で、インパクト投資が今後市場を拡大させていくためには、いくつかの課題が残っています。その代表例が、インパクト評価にかかる負担です。従来の投資とは違いインパクト評価のスキルやノウハウを持つ人材の採用・育成が必要になるのはもちろんのこと、正確な評価を行うためには評価材料となるデータを十分に収集する必要があります。必要となるデータは事業の分野やビジネスモデルに大きく依存するため、投資先により異なるデータの収集から評価までをいかに効率的かつ総合的に行っていくかが重要な論点となります。

2.スマートシティとインパクト投資

順調に発展しつつも課題の残るインパクト投資ですが、スマートシティにおいて果たすべき役割は大きいと言えます。
スマートシティは、データ利活用などスマート技術を活用した暮らしやすさの向上を重要なテーマの1つとしています。デジタル田園都市国家構想をはじめとした政府の後押しとともに、産学官が連携し、IoTデバイスや衛星データなどさまざまなデータを利活用したサービスの検討・実証・実行がヘルスケアから防災まで幅広い分野で進んでいます。市民に焦点を当てた技術革新は今後も加速していくと見込まれますが、スマートシティの大きな課題として持続的なファイナンススキームの構築があります。人口減少や高齢化に伴い自治体の財政が逼迫していくなか、公共性の高い事業を多く含むスマートシティの実現や維持に誰がどのように資金を拠出するのか、ステークホルダーが一丸となって考えていく必要があります。

この解決案として、スマートシティでのデータの利活用の範囲を、事業創出から事業検証へとさらに広げていくことが考えられます。とりわけ、社会課題解決への出資を企図しつつもインパクト評価におけるデータの取得を課題とするインパクト投資は、データの連携や利活用を推し進めつつも資金調達に課題の残るスマートシティと相互補完的な関係性を生み出す可能性を秘めていると言えます。
具体的には、インパクト評価におけるKPI測定手法としてこれまで多く取り入れられてきたアンケートや行動変容を促した人数、特定の施設・設備やサービスの利用回数の集計などに加え、IoTデバイスにより取得したデータ、アプリケーションベースのスマートシティ関連サービスの利用データなどを社会的インパクトの評価材料として組み込むことで、より正確なインパクトの算出、ひいては投資家による投資判断の高度化を促すことが可能になると考えられます。
また、インパクト評価の実施によりスマートシティ実現に携わるスタートアップ等の事業価値がより広く認知され、社会課題解決事業がより大きな規模へと発展していくことも相乗効果として想定されます。

各地で構築が進むデータ連携基盤も活用しながら、事業による社会的インパクトを可視化することで、「データ利活用によるインパクト投資の課題解消」と「社会的インパクトへの資金供給増加によるスマートシティの課題解消」を同時に実現することができれば、社会課題解決の取組みをより強固で持続的なものとすることができるのではないでしょうか。

※1:一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)発行/GSG国内諮問委員会 監督 日本における社会的インパクト投資の現状 2018
※2: 一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)発行/GSG国内諮問委員会 監督 日本におけるインパクト投資の現状と課題 2021年度調査

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 石山 秀明

スマートシティによって実現される持続可能な社会

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