新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や少子高齢化への対策、およびニューノーマルにおける都市・地域経営やSDGsの達成に向け、多様な地域課題の解決や市民サービスの提供が求められています。そのなかで、分野や領域をまたぐデータ連携やサービスが注目されています。
本稿では、それらの基礎となるデータ連携基盤(都市OS)の導入にかかる現状と課題、および今後の展開について解説します。
1.都市OSを取り巻く状況
(1)都市OS導入の経緯
現在、災害の多発や住民ニーズの多様化により、地域課題が複雑化してきています。たとえば、インフラの老朽化によって国民1人当たりの維持管理・運営費が増加し、人口減少下でも経済規模を維持・発展させるための生産性向上が必要となります。これらの地域課題の解決、SDGsの達成、およびニューノーマルにおける都市・地域経営に向け、スマートシティの取組みが再度見直されています。また、内閣府を代表とする各省庁・国の取組みとして、各分野でのスマートシティ構築が進められてきました。今後、より複雑な課題の解決や、市民の利便性を考慮したワンストップ型のサービスの提供が進められるなかで、分野や領域を超えたデータ連携の仕組みが注目されています。
特に、スマートシティ実現のために各地域が共通で活用する基本機能が集約されており、さまざまな分野のデータ連携サービスを容易にするITシステム基盤の総称を「都市OS」と呼んでいます。これは、OS(Operation System)の誕生によって、異なる種類のコンピューターで同一のソフトウェアやデータが利用できるようになったことに由来しています。
(2)官公庁および自治体の動向
内閣府主導で、⼀⼈ひとりが最適なサービスを享受できる都市や地域の実現を目指し、地⽅公共団体や⼤学・⺠間企業と連携して「次世代に引き継ぐ基盤となる都市と地域づくり」を展開しています。国交省など他省庁でもスマートシティに取り組む地方公共団体、協議会等を支援するために、スマートシティ・ガイドブック、およびスマートシティリファレンスアーキテクチャ等の整備を進めてきました。さらに、「スマートシティ・タスクフォース」では、2025年100地域でのスマートシティ実装に向け、全国展開を推進する施策を検討しロードマップを示しています。そのなかで、資金的持続性の確保、グリーン化との協調と合わせて、都市OSの社会実装強化が重要論点として挙げられています。
このような状況下で、国は2017年度より都市OS導入に向けて、補助事業を通じて各自治体における実証を支援してきましたが、現在18地域での実装・運営に留まっています。
(3)自治体における都市OSの導入
現在、都市OS構築に向けて取組みを進めている自治体の多くは実証フェーズの段階にあり、それらの取組みを支える基盤を自治体ごとに構築しています。そのため、都市OSを活用して収集・連携しているデータや展開しているサービスは自治体により大きく異なります。それぞれの自治体の置かれている状況や課題に対して、都市OS導入の目的や適切な導入方法を十分検討し、導入の効果を測定しながら進められています。
2.都市OS導入における問題点
都市OSの構築・運用を進める各自治体においては、人材・資金不足、パーソナルデータを活用したビジネス化の難しさ、自治体ネットワークによるデータ利活用の制限、住民のデータ活用に対する合意形成、といった課題を抱えています。
以下、課題別に状況を見ていきます。
都市OS導入の目的や効果
新しい仕組みを実証実験として導入したものの、本格的な導入に至らない自治体が多く見受けられます。また、支援企業に丸投げする形態でプロジェクトが推進されたため、導入に対する判断ができないまま立ち消えになるケースも散見されます。
人と資金のサステナビリティの難しさ
データ連携基盤導入の取組みを進める中小規模の自治体にとって、データ活用のための横断的な企画・調整の人材確保や、データ連携基盤の構築・運用費用を捻出できないなどの課題があります。また、パーソナルデータを活用して参画事業者から収益を生むビジネスモデルは、有用なサービスを提供することは可能だがマネタイズが難しい、という課題感が浮き彫りになってきています。
既存の国・自治体システムとの連携
自治体庁内のネットワークは、基幹系、LGWAN※(統合行政ネットワーク)系、インターネット系の3領域に分離されています。このため、インターネット上において行政内部で保有する情報を直接連携することができません。また、個人情報以外であっても、行政内部で保有している情報を利用する場合は、LGWANからインターネット環境に物理的にデータを移行して活用する必要があるため、庁内データベースをデータ連携基盤に接続できていない自治体が多くあります。
住民のデータ活用に対する合意形成
新たな仕組みを導入するにあたっては、プライバシーや情報活用の観点から住民説明を行い、データ利用の合意を得る必要があります。また、データ利用の合意状況を常に明示し、簡易に確認・変更が可能な仕組みも要求されます。これは、社会的な風潮のなかで、個人情報を活用して収益を得ていることを開示したくない会社が多いことや、GDPR(EU一般データ保護規則)をはじめとする個人情報の扱いに対する規制が施行され、住民自身の情報に対する意識の向上に起因しています。
※都道府県や市区町村などの地方自治体のコンピュータネットワーク(庁内LAN)を相互接続し運用されている、高度なセキュリティを維持した行政専用のネットワーク。インターネットのパブリックネットワークとは切り離された閉域ネットワークとして構築されている。
3.都市OSの導入において検討すべき事項と今後の方向性
上記に挙げた課題への対応策として、導入メリットおよび効果の明確化、サステナブルな構築・運用モデルの構築、閉ざされた通信網により管理されている自治体・行政データの利活用、個人情報を扱う上での住民の利用合意とセキュリティ対策、といった施策が有効だと考えます。また、新規に導入を検討する地域においては、課題が顕在化するリスクを最小限にするために、事前にこれらの論点を踏まえて取組みを実施していくことが求められます。
都市OS導入メリットおよび効果の明確化
実証から実装へ移行するにあたり、持続可能なモデルを構築するためにも重要なのは、提供者の視点からだけでなく、利用者視点に立った現状の課題やサービスの検討です。その上で、都市間や都市と企業間などでデータやサービスを再利用していく際の導入メリットや効果を明確に定義し、導入していくことが必要です。
サステナブルな構築・運用モデルの検討
各都市が個別にサービスを検討しているため、取組みに必要な共通データ連携モデルを描くことは難しい状況です。したがって、長期的な視点でスマートシティの取組みを推進していくには、導入の目的に合わせて機能を段階的に拡張していくようなステップが必要になります。
また、小規模都市への導入が今後増えていくことを踏まえると、最低限の機能を備えた連携基盤を近隣都市と共同で構築・運用するというモデルが現れると思われます。そこで、サービスを創出する事業者やシビックテック等のコミュニティの形成や育成に注力していくことが必要です。
デジタル庁の動向に準じた自治体・行政データの利活用
デジタル庁の創設に伴い、「デジタル・ガバメント実行計画」のもと、自治体のデジタル化が進められていきます。デジタル庁の動向を注視しつつ、国主導のもとに標準化されていく機能と、各自治体にて整備が必要な機能について理解した上で、自治体内で持つべき仕組みを検討することが重要です。
まずは、オープンデータを一元化してクラウド上に保存し、そこから、ウェブサイトや住民サービスとして展開しているSNSなどのアプリ・チャットボット等に活用するとともに、今後整備するデータ連携基盤にも接続するといった対応が考えられます。
住民の利用合意とセキュリティ対策
今後、都市OSを通じてデータを収集・活用する自治体・事業者がセキュリティの観点から安全・安心な情報の利活用を担保していく必要があります。また、市民の意見・アイデアを集めるために、市民参加型合意形成の手法を導入し、通常のパブリックコメントだけでなく、幅広く意見・アイデアを集めることも重要です。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 大関 洋