本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

AIを活用した脱炭素の取組み

企業の脱炭素の取組みで人工知能(AI)を活用する事例が増えています。その1つが、エネルギーを大量消費するデータセンターの効率運用です。気象データをAIに学習させて冷却システムを最適化し、気温が低下しそうな場合は冷却装置を弱めるなどして電力消費を抑えているケースも見られます。
気象データは太陽光発電や風力発電における発電量予測にも活用されており、予測した発電量に対して需要をコントロールして電力消費の最適化が進められています。
物流分野でも脱炭素に向けたAIの活用が盛んです。その1つがAIを使った配送ルートの最適化で、トラックの走行距離や時間などを減らし、二酸化炭素(CO2)排出量の削減につなげるものです。
一方、ディープラーニング(深層学習)の登場によりAIによる高精度な処理が可能となっていますが、計算量が爆発的に増大していることもあり、エネルギーを大量消費するという問題も生まれています。このため、ディープラーニングの軽量化技術の研究も進められており、AI自体の電力消費の最適化が図られようとしています。

さまざまな例を挙げましたが、これらは大規模設備を持つ企業に絞られます。より多くの企業がAIを使い脱炭素の取組みをビジネスに転化できないでしょうか。最後にAIによる情報探索により、それを実現する方法を解説します。

新規事業開発のポイントは自社の強みに別の技術やサービスなどの要素を組み合わせ、新たな価値を創出することです。しかし、組み合わせる情報は大規模かつ多岐であり、人が網羅的に組み合わせを検証することは非現実的です。その時に役立つのが、AIで膨大な自然言語情報を分析する手法です。最近急速に進化しているその能力を活用し、ニュースや公開論文などの多様な情報と、自社の強みを紐付けていくのです。
自社の得意分野の特許をニュースと突き合わせることで、意外な応用の糸口を得ることができるかもしれません。さらに脱炭素の情報を紐付けることで、自社の強みを生かした脱炭素に寄与できる事業につなげられる可能性もあります。

たとえば、新素材のセルロースナノファイバー(CNF)についてAIを使い特許や論文を解析すると、軽量性、強度、耐久性、超極細等の性質をつかめ、航空機や自動車、家電等の産業で応用が検討されていることを把握できます。また生体適合性もあり、人工臓器や再生医療での研究も進められているようです。さらに「森から生まれる素材」という異名を持つ自然由来の素材で、CNFの製造と森林経営というキーワードを紐付けることもでき、脱炭素への貢献につなげることができるのです。

CNFは比較的知られている素材なだけに、ここで挙げた探索例はすでに知っている方も多いと思いますが、あまり知られていない自社の強みを探索し、こうした事例が出てきたらどうでしょう。すぐ脱炭素ビジネスを起こせるわけではありませんが、新事業のヒントになり得るのではないでしょうか。

日経産業新聞 2021年11月19日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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