本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
脱炭素の動きを受けて広がる資金調達手段
脱炭素の取組みは新市場の開拓など一般的な企業戦略と比べて将来的な収益の拡大が見通せるものばかりではありません。社会的には重要ですが、先行き不透明な事業のために資金をどう調達するか、企業には従来とは違ったやり方が求められます。
脱炭素の動きを受けて広がっているのが、環境に配慮した事業に使途を特化した債券や融資であり、その代表が、グリーンボンド(環境債)とグリーンローン(環境融資)です。両方合わせてグリーンファイナンスとも呼ばれ、2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で2020年以降の温暖化対策「パリ協定」が合意されたことなどを契機に欧米でまず広がり、日本でも普及してきました。
グリーンボンドと認められるには一般的に、欧州発の金融業界団体、国際資本市場協会(ICMA)が2014年に策定し、逐次改訂しているグリーンボンド原則(GBP)の基準を満たす必要があります。
GBPは対象とする事業区分として「再生可能エネルギー」「エネルギー効率」「汚染防止および抑制」など10分野を例示。確認項目として「資金の使途」「事業の評価と選別プロセス」「調達資金の管理」「報告」の4要素を示し、第三者(外部)による評価を求めています。
さらに日本では環境省が2017年に策定したグリーンボンドガイドラインに準拠させることも多く、グリーンボンド発行を検討している企業は自社の取組みがGBPと環境省の指針に適合しているか、まず確認する必要があるでしょう。また、実際に利用する際は環境省による外部評価コストへの補助金制度なども活用したいところです。
一方、グリーンローンの方も国際的な基準に合っているか、外部評価を求めている銀行が多々あります。
グリーンボンド・グリーンローンとも利用が急増しています。環境省のまとめでは、日本での2021年のグリーンボンド発行額は10月8日時点で1兆20億円と4年前の2017年通年と比べて4.5倍に、グリーンローン組成は9月24日時点で1,010億円と同6倍となりました。
しかし、グリーンボンド・ローンは認定基準が厳しく、使いにくい側面もあります。そこで、登場したのがサステナビリティ・リンク・ローンです。グリーンボンド・グリーンローンが事業を対象としているのに対し、排出量削減などの改善目標「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)」を対象としています。目標の達成度合いに応じて金利を変動させることなどにより、柔軟に融資できるようにするものです。最近、特に地方銀行での取扱いが目立ちます。
最も新しい仕組みはトランジションボンド(移行債)・トランジションローン(移行融資)です。短期的な温暖化ガス削減が難しい企業でも利用しやすいように、脱炭素に向けた中長期的な移行戦略を対象としています。国も後押ししており、経済産業省や環境省などが2021年5月に公表した「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」のなかで枠組みを示しています。欧州と比べて石炭火力依存の高い日本企業の脱炭素移行の起爆剤となる可能性があります。
このほか、企業が活用しやすいように簡素化した脱炭素の独自金融商品を銀行が発行している事例も登場しています。脱炭素転換に関連する資金調達手段が増えることで、多額の資金が必要なカーボンニュートラル実現に近づくことになるでしょう。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 馬渕 裕貴
日経産業新聞 2021年11月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
展望・脱炭素ビジネス
- 第1回:エネルギー業界におけるイノベーション創出の必要性
- 第2回:スタートアップ企業によるエネルギー開発の取組み
- 第3回:エネルギー媒体として期待される「水素・アンモニア」の可能性と課題
- 第4回:次世代原子力発電技術の取組み
- 第5回:CO2削減に向けたテクノロジー ~CCSとCCUS
- 第6回:排出量管理を最先端デジタル技術で高度化・効率化
- 第7回:エネルギーの地域内循環に向けた熱と電力の活用
- 第8回:スマートシティにおけるCO2削減の取組み
- 第9回:再生可能エネルギーにおける日本の課題
- 第10回:再エネ時代の次世代電力プラットフォームとは
- 第11回:ESG投資の観点から見る脱炭素化
- 第12回:脱炭素で注目すべきプレーヤーたち
- 第14回:スタートアップ「クリーンテック」投資の動向
- 第15回: 再エネ比率100%を実現する方法とは
- 第16回:カーボンプライシングへの備え
- 第17回:脱炭素化におけるオープンイノベーション
- 第18回:脱炭素化に向けた組織変革とは
- 第19回:AI×脱炭素 ~新規事業開発のポイント
- 第20回:持続可能な未来へ向けた挑戦