本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

「カーボンプライシング」の概要と取組み

2050年の脱炭素に向けた政府の実行計画「グリーン成長戦略」などで「カーボンプライシング」の活用が言及されています。排出する二酸化炭素(CO2)に価格を付けて脱炭素を促す手法で、いくつかの制度が日本にもあります。このカーボンプライシングについて何に対してどのように備えるべきか、概要とともに解説していきます。

炭素は社会的にマイナスの影響があることから、炭素を価格として見えるようにし、その負担を企業に求めることで事業活動でのコストとして認識してもらい、コスト削減の文脈で炭素削減を促す。これがカーボンプライシングで期待される効果の1つです。価格の可視化には、排出量に応じて税を課す「炭素税」や、事前に定めた炭素排出枠に対する過不足を取引する「排出量取引」などの制度・仕組みがあります。
また、関連する取組みとして、規制の緩い国・地域に工場などを移すカーボンリーケージを防ぐための「炭素国境調整措置」、現状の排出水準からの削減量を売買する「クレジット取引」、企業独自に炭素価格を設定して経営管理に組み込む「インターナル・カーボンプライシング(社内炭素価格)」などもあります。

足元では炭素がコストとの認識が広まりつつあるなか、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づき、企業が気候変動の財務上の影響などを情報開示する「シナリオ分析」で、カーボンプライシング推進をネガティブ要因と認識する企業などが出始めています。特に炭素税と排出量取引は企業の関心が高くなっています。国際的に見て高水準のエネルギーコストを負担する企業に追加負担を強いるからです。これらの動向には注視が必要と言えるでしょう。
これまで環境省からは適用範囲や価格水準など合意形成が難しい課題が指摘されてきました。2022年度税制改正に向けた経団連の提言でもエネルギーコストや産業競争力などの観点から炭素税の新規導入には消極的な姿勢となっています。
ただ、気候変動対策に積極的な企業で構成する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)が制度設計などの議論推進を求める意見書を提出するなど前向きな動きもあります。また中国で排出量取引が2021年7月に導入されるなど海外の環境変化も見られます。これらを踏まえ、日本での本格導入を見据えておくべきでしょう。

今後、企業活動で自社が排出する炭素量とそのコストの把握がより一層重要になると考えられます。財務リスク低減に向けた炭素削減目標の設定、削減できない部分の価格転嫁などの判断の前提となるからです。インターナル・カーボンプライシングは2020年時点で118社が導入しており、このような環境変化を見据えたリスク抑制措置と位置付ける企業もあります。
これら一連の取組みは経営管理モデルの転換にほかならず、実現には一定の時間を要します。まずは各データの収集・蓄積、加工、可視化・分析などの仕組み作りが必要となるでしょう。さらに事務コストを抑制した安定的な運用設計も求められます。環境変化に先立ち、早期に取り組み始めることが大切です。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 横山 淳

日経産業新聞 2021年11月16日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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