本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

次世代原子力発電技術開発の状況

二酸化炭素(以下、CO2)を排出しない発電方式としてこれまで脱炭素に大きな貢献をしてきた原子力発電は、2011年3月の福島第1原子力発電所事故以降、その扱いがこれまで以上にデリケートな電源となりました。事故で被害を受けた人々に思いをはせれば、それは至極当然であるし、安全性や放射性廃棄物の問題に向き合わずに推進することは社会にも受容されないでしょう。
その一方で、高い安全性を備えたうえで、再生可能エネルギーとの共存や水素製造へ熱を利用できるなど、脱炭素へ高い貢献が期待できる次世代原子力発電技術の開発も着実に進んでいます。

その代表とも言えるのが、小型モジュール炉(SMR)です。現在の商用炉に比べ小型・低出力で、プラントの大部分を工場で製造する「モジュール工法」を志向した炉型の総称です。小型化により炉心の冷却効率が高まるため安全かつシンプルな構造となり、モジュール製造により高い施工品質が見込まれます。
また一部のSMRは電力の使用状況に応じて出力を変える「負荷追従運転」にも対応しており、再生可能エネルギーの調整弁になれる可能性があります。離島などの遠隔で小規模な需要のある場所に設置し、電気だけでなく排熱を利用するような活用法も考えられます。
SMRは米、英、カナダを中心に大手重電メーカーのみならずスタートアップ企業も参画し、さまざまな炉型・プロジェクトが模索されています。
SMRのなかでも高温ガス炉(HTGR)は冷却材に化学的に不活性なヘリウムを、減速材には耐熱性に優れる黒鉛を使う非常に安全性の高いと言われている炉型です。その名のとおりセ氏900度以上の高温が得られ、発電のみならず高効率な水素の製造や、化学プロセスへの活用が期待されています。この炉は古くから日本が研究開発をリードしている領域でもあります。

さらに将来期待される技術として、核融合発電の開発も進んでいます。ウランなどの重い元素の核分裂反応ではなく、水素などの軽い元素同士の核融合反応をエネルギー源とするものです。よって放射性廃棄物を大幅に低減でき、かつ構造上、不具合時に過酷事故を生じ得ない炉型になっています。過酷事故が起き得ないのは、高電圧で1億度以上にして核融合させているため、電源喪失などの際には、その温度を保つことができなくなるからです。
これまで巨大国際プロジェクト「国際熱核融合実験炉(ITER)」が中心となり開発してきましたが、昨今では巨大テック企業創業者の出資を受けたスタートアップ企業も台頭し、開発が加速しています。
これらの新技術では、技術的課題の解消もさることながら、合理的な経済性が達成できるのかが最大の論点でしょう。また、SMRについては放射性廃棄物が発生する点など商用化・普及に向けての道のりはまだ遠いと考えられますが、脱炭素の切り札の1つとして次世代原子力技術は注目に値すると言えます。

小型モジュール炉の特徴

・小型でシンプルな構造のため、現在の商用炉より安全性が高い

・離島など需要が小さな地域でも設置、運用ができる

・一部は柔軟に出力を変えることができ、再エネの調整弁の役割を担える

・高温ガス炉と呼ぶ種類は高温を水素製造や化学反応に活用可能

日経産業新聞 2021年10月27日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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