本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

スマートシティとエネルギー対策

世界でスマートシティの開発が進んでいます。国際的な定義は定まっていませんが、共通項があります。「デジタル技術とデータを活用し、効率的な運営が可能な都市」がそれであり、その目指すところは、市民のウェルビーイング(心身の幸福)の向上とされることが多くなっています。
では、具体的に何を目指しているのでしょうか。たとえば、都市を持続可能にする温暖化ガスの削減もその1つでしょう。実際、KPMGが日本とアジアの主要都市を対象に2020年1月に実施した「スマートシティに関する住民の意識調査」の結果にもそれが表れています。「都市の継続的な成功のための主要な開発分野」として「エネルギー・資源の方法の改善、二酸化炭素(以下、CO2)削減」を挙げる人が、日本では「交通機関とモビリティ」と並んで2番目に多かったのです。ちなみに、最も多かったのは「病院など医療サービスの受けやすさ、提供内容の改善」でした。

海外のスマートシティでもCO2削減に取り組むところが目立ちます。デンマークの首都コペンハーゲンは2025年にカーボンニュートラルな都市になることを掲げ、市民の75%が徒歩や自転車、公共交通機関を使うことを目指しています。また、オランダの首都アムステルダムではスマートメーターを使って各家庭や商業施設の省エネ化に努めているようです。
スマートシティは2010年頃にもブームがあり、デジタルというよりも「環境対策に先進的に取り組む都市」という位置付けでした。当時からスマートシティ化を進めている欧州などで、環境を切り口にしているところが多いのはこのためと考えられます。
最近のスマートシティでは、デジタル技術も駆使したCO2削減策も増えています。車両位置や信号情報などのデータを分析・制御し、交通渋滞の緩和につなげる対策もその1つです。シェアリングやオンデマンドバスなども同様で、ガソリン車がまだ多いなかでは有力なCO2削減策になるでしょう。

さらに進んで、市民の行動を変容させる研究も活発になっています。市民がより低炭素な生活を選ぶように、自分がどの程度炭素を出しており、何をすればどの程度減らせるかを示すと同時に、インセンティブ(報奨)で促すのです。
インセンティブとして有力なのがデジタル地域通貨です。環境配慮活動にポイントを付与する取組みは以前からありますが、これらは決まった行動に一定のポイントを付与し、商品と交換する対策でした。これをデジタルデータとデジタル地域通貨を活用して進化した対策に発展させるのです。
すでに一部自治体でCO2フリー電気を契約した住民にデジタル地域通貨を付与する試みが始まっています。今後はスマートメーターで確認できる情報などから生活起因の炭素排出量をリアルタイムで算出し、削減量に応じて付与することなども考えられます。
デジタル地域通貨はインセンティブとしての汎用性が高く、さまざまな分野で応用が可能です。この仕組みをいかに活用するか、自治体の政策力が問われることになります。

デジタル地域通貨で低炭素行動を促すサイクル(例)

(1)個人の活動状況をセンサーなどでモニター

(2)そのデータから二酸化炭素の削減量を算出

(3)削減実績に応じてデジタル地域通貨を付与

(4)地域通貨を求めて、より低炭素な行動へ

 

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 山中 英生

日経産業新聞 2021年11月2日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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