本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

エネルギー関連におけるスタートアップ企業の状況

温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するには、国を挙げての研究開発が欠かせません。このため、政府が2020年12月にまとめた脱炭素への工程表「グリーン成長戦略」(2021年6月改訂)では、「グリーンイノベーション基金」として2兆円の基金を新設しました。今後10年間にわたって企業が推進する脱炭素に向けた技術開発・実証・社会実装を支援していくものです。
同基金の対象となるのは「洋上風力・太陽光・地熱産業」「水素・燃料アンモニア産業」「次世代熱エネルギー産業」「自動車・蓄電池産業」「カーボンリサイクル・マテリアル産業」など、グリーン成長戦略が掲げる重点14分野で、経済産業省が中心となって運用します。
経済産業省はその配分対象として、「洋上風力発電の低コスト化」「大規模水素サプライチェーンの構築」「CO2(二酸化炭素)等を用いたプラスチック原料製造」「次世代船舶の開発」「食料・農林水産業のCO2削減・吸収」など、主要14分野を具体的な18事業に落とし込んだものも公表しており、すでに一部のプロジェクトでの取組みが始まっています。なかでも力を入れているのが水素関連で、同基金では水素製造・供給の実証に約3700億円を投じる予定です。

しかし、脱炭素分野はまだ実現可能性が見えない技術開発領域が多くあります。そういった不確実な領域にはどのように日本は挑んでいけばよいのでしょうか。その1つの解が、スタートアップ企業による取組みです。実際、海外ではそうした企業が相次いで登場しています。
たとえば、ソーラーパネル上で水を直接電解して水素を作る技術を持つ企業があります。また、従来に比べて低コストで薄くできる次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」を社会実装しようとする企業もあります。大気中からCO2を直接回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」の技術を持ち、さらに回収したCO2を燃料に転換して有効利用しようとする企業も存在します。個別に紹介するには数え切れないほどで、グローバル単位で見るとすでにさまざまな環境分野に関連するスタートアップ企業が生まれているのです。

日本国内では、脱炭素に資する技術に限らず、エネルギー関連の技術を持つスタートアップ企業はまだ多くありませんが、そのなかで期待できるのが、大学発スタートアップ企業と言えるでしょう。電気自動車(EV)の関連技術を開発する都内の大学発スタートアップもその1つです。住宅の太陽光電池で発電した電力をEVの車載電池に充電し、複数のEVを束ねて1つの発電所のように運営する「仮想発電所(VPP)」などの開発に取り組んでいるものです。
ただ、日本の大学は海外に比べて資金が潤沢ではないため、大学の有望技術にリスクマネーを集中させ、社会実装に向けたチャレンジを加速することが求められます。さらに、そのためには「起業人材」の支援・活用も欠かせません。大企業などに属する優秀な人材を、有望技術を活用した「起業」に積極的に参画させ、チャレンジの「数」を確保することが最も重要であると考えます。

【グリーンイノベーション基金 重点14分野】

1 洋上風力・太陽光・地熱
2 水素・燃料アンモニア
3 次世代熱エネルギー
4 原子力
5 自動車・蓄電池
6 半導体・情報通信
7 船舶
8 物流・人流・土木インフラ
9 食料・農林水産
10 航空機
11 カーボンリサイクル・マテリアル
12 住宅・建築物・次世代電力マネジメント
13 資源循環関連
14 ライフスタイル関連

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 渡邊 崇之

日経産業新聞 2021年10月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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