本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

CO2削減に向けたテクノロジー開発の状況

脱炭素に不可欠な技術分野の1つが、二酸化炭素(以下、CO2)の分離・回収・貯蔵・再利用に関連する技術です。CO2を回収し貯留するのはもちろん、CO2をリサイクル可能な資源ととらえ、化学品や合成燃料の「e-fuel」やメタンなどの再利用を目的としています。
CO2の回収・貯留技術については「CCS(カーボン・キャプチャー・アンド・ストレージ)」、分離・貯留・活用技術については「CCUS(カーボン・キャプチャー・ユーティリゼーション・アンド・ストレージ)」や「カーボンリサイクル」という用語で表現されることもあります。

CCSは排出されるCO2を分離・回収し、地層深くに貯留する技術です。火力発電所にこの仕組みを導入すれば、CO2の排出量を削減できます。さらに、セメント製造業や鉄鋼業、化学工業など製造過程でCO2が多く発生してしまう業種などの脱炭素の手段としても有効です。この技術は応用範囲が広く、市場規模も2030年には世界で年間6兆円が見込まれています。
CCUSは回収したCO2をさまざまな素材の原料として再利用する技術のことです。CO2を他の原料と反応させることで、ポリカーボネイト樹脂などの化学品、合成燃料、バイオ燃料、メタンやプロパンなどのガス燃料、コンクリートなどを作ることができます。
たとえば、回収したCO2から作った合成燃料を使えば、CO2削減が難しい運輸などでも脱炭素を進められます。また、将来の主力エネルギー媒体とされる水素のサプライチェーンでもCCS・CCUSの技術は重要になります。化石燃料由来の水素でも製造過程でCO2を分離・回収すれば「ブルー水素」として脱炭素に貢献できます。
CCUSについては、実用化されれば、大きな削減効果が見込まれます。国際エネルギー機関(IEA)のレポートによると、カーボンニュートラル達成時においてCCUSは年間約69億トンの削減が期待されています。

こうしたカーボンリサイクル領域では、大学などの研究機関はもちろん、さまざまなスタートアップ企業が開発を急いでおり、技術の社会実装が待たれています。また、2025年の大阪万博では実証実験なども予定されています。世界の石油メジャーも温暖化ガス排出量削減のため、CCUSの技術開発を支援しているといいます。
また、CCSは日本の産学の特許数が世界的にも多い分野です。実装は海外が先行する可能性がありますが、カーボンニュートラルに向け重要な技術分野として、日本発の技術に期待されます。

もう少し長い目で見る分野としては、大気中に0.04%しかないCO2を直接回収する技術「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」が挙げられます。これは多くの業界で待ち望まれている技術ですが、微量のCO2を効率的に取り出すのは難しく、世界的に見ても要素技術を開発している段階です。日本政府の「グリーン成長戦略」では2050年の実用化を目指すと記載されるなど、長期的な目線が必要な技術と言えるでしょう。
課題は低コスト化と、評価手法の標準化です。CCSやCCUSの技術を使ってCO2を結果としてどれだけ削減したのか、固定したのかを評価する手法を国内外で標準化する必要があります。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 渡邊 崇之

日経産業新聞 2021年10月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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