本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

太陽光・洋上風力・地熱発電における日本の課題

政府は2021年10月22日に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」で、2030年度に再生可能エネルギーの電源構成比率36~38%を目指す野心的な目標を掲げました。2050年の脱炭素に向けた実行計画「グリーン成長戦略」でも主要14分野の1つに「太陽光・洋上風力・地熱発電」を定め、再エネを重視しています。ただ、再エネ普及には課題も多く、今回は、その解決の鍵となる技術の動向について解説したいと思います。

まず太陽光発電についてですが、日本は海外と比べて平地が少なく、適地の確保が大きな課題となっています。固定価格買取制度(FIT)などにより設置が急速に進み、資源エネルギー庁が2021年3月にまとめた資料等によると、太陽光発電の導入容量において日本は2018年時点ですでに中国、米国に次ぐ世界第3位なっています。その結果、平地面積当たりの太陽光・陸上風力による発電量で日本は世界最大になっています。
今後の適地として有望視されているのが、ビルの壁面や窓、工場の屋根、自動車などの移動体です。ただ、こうした場所に設置するには、さまざまな形に柔軟に対応し、狭い面積でも効率よく発電する太陽光電池が必要になります。それを実現する次世代型太陽電池の開発も進んでいます。軽くて曲げることができるフィルム状の「ペロブスカイト型」や、2層にして軽量化し、効率を高めた「タンデム型」などがその代表です。

洋上風力発電にも日本特有の難しさがあります。1つが気象条件で、年間を通じて偏西風の強い風が吹く欧州と違い、日本は通常の風は弱い半面、台風など極端に強い風の日もある点です。日本は海上の立地条件も厳しく、基礎の設置に適した遠浅な海が少ないのも特徴と言えるでしょう。
この課題を解決する方法の1つが、深海域でも設置できる「浮体式洋上風車」です。産業競争力強化に向けた官民協議会が2021年4月にまとめた「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ」でも、今後のアジア展開を見据えて、浮体式の商用化を含めた技術開発を加速するとしています。

また、太陽光発電や風力発電は天候で出力が変わり、電力網を不安定にさせることが共通課題となっています。これを克服する方法の1つが蓄電池です。充電スピードが速い「全固体リチウムイオン電池」のほか、据え置き型の「レドックスフロー電池」や「ナトリウム硫黄(NAS)電池」などがあります。タイプによって一長一短があり、関連各社で低コスト化や高性能化を競っています。

地熱については、日本は世界第3位の資源量がありますが、活用しきれていません。その理由の1つが、調べるまでどのくらい発電できるのかわからない開発のリスクと、そのためのコストです。その解決に向けて石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が中心となって地下探査精度を高める研究をしています。
次世代の地熱発電技術も期待されます。マグマに近い高温の地熱資源を使う「超臨界地熱発電」、深い岩盤のなかに注水して熱水を作って発電に使う「高温岩体」などの方法があり、国の研究機関などが中心となって開発を進めています。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 出井 武志

日経産業新聞 2021年11月4日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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