本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

「エネルギーの地域内循環」の取組み

昨今の激甚災害を機に大規模集中型の電力システムの脆弱性が明らかになりました。そこで、その克服に向けてエネルギー供給リスクの分散と二酸化炭素(以下、CO2)排出削減を目的に、地域内の需要を地域内で賄う「エネルギーの地産地消」への関心が高まっています。しかし、発送電システムが整っている電力については、地産地消にすると、かえってコスト高につながる面もあります。そこで注目されているのが、電気だけでなく、遠隔地への供給が難しい熱も併せた「エネルギーの地域内循環」です。

まず押さえておきたいのが、日本のエネルギー消費の状況です。最近、電力・運輸由来のCO2について特に議論がなされていますが、日本の最終エネルギー消費は熱利用を中心とした非電力部門が過半を占めています。さらに60%ものエネルギーが熱として廃棄されており、1次エネルギーが十分に活用できていないのが現状と言えます。
一方で、まだあまり利用できていない天然の熱源も多くあります。地中熱・河川熱・海水熱・太陽熱・温泉熱などの「再生可能エネルギー熱」の持つ潜在的なエネルギー(ポテンシャル)は年間合計約2,396ペタジュール(ペタは1,000兆)と、国内の家庭、事業所などの業務部門の熱需要と同程度とも言われています。

そこで浮上してきたのが、電気と熱を併せた「エネルギーの地域内循環」の取組みです。長距離輸送が難しい熱を含めて地域内でエネルギーを効率的に利用していこうというものです。
「エネルギーの地域内循環」のためには、デジタル技術による需給管理システムを活用しながら、電気や熱などを生み出す分散型エネルギーと蓄電池などの貯蔵装置、利用者などをネットワーク化することが重要となってきます。
たとえば、蓄電池と組み合わせて電気自動車(EV)や住宅間で電力を融通する例や、需要の推移や気象などのデータ分析を基にビルの大型コージェネレーション(熱電供給)設備を活用して地域内の複数の利用者へ電気・熱を供給する例があります。
また、新たなエネルギー源としては、発電所や工場などから出る廃熱の再利用などに加えて、地中熱や河川熱など自然の未利用熱を低コストで利用する技術の開発も進んでいます。

実際、地域内循環の現場実証を進める地域では効果も表れつつあり、国もこうした取組みを後押ししています。2019年に資源エネルギー庁が改定した「省エネルギー技術戦略2016」では、重要技術の1つとして、廃熱を効率的に電力変換する技術や高効率な電気加熱技術など熱の利用に関する事項を追加しました。さらに2020年1月に政府がまとめた「革新的環境イノベーション戦略」では、工場廃熱などの利用に加えて、地中熱・太陽熱・雪氷熱など再生可能エネルギー熱の利用の拡大を挙げています。

エネルギー地域内循環の例

・再生可能エネルギーの面的な利用

・コージェネレーションによる建物間や地域内での熱と電気の共用

・電気自動車と住宅間で電力融通するマイクログリッド

・地中熱や河川熱、太陽熱など自然の未利用熱の利用

・発電所や工場、ごみ処理施設などからの廃熱の活用

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 河江 美里

日経産業新聞 2021年11月1日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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