本連載は、日経産業新聞(2021年10月~11月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

次世代電力プラットフォームの取組み

太陽光発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)を主力電源にするには、電力システムの在り方も大きく変えていかざるを得ません。再エネの発電設備の出力は小さく、従来の大規模集中型の発送電方式では効率が悪いからです。再エネ時代は各地域で発電して消費する発送電方式も取り入れていくことになるでしょう。
こうした次世代電力プラットフォームは、送電側と需要側(配電側)の取組みに大きく分かれます。本稿では需要側の取組みについて説明します。

太陽光など電気を使う場所の近くで発電する小規模電源を「分散型エネルギー資源(DER)」と呼びます。風力発電や小水力発電、据置き型の蓄電池などもこれに当てはまります。次世代電力プラットフォームではこれらのDERを使いこなしていくことが鍵になり、そのためには従来の一方通行の電力流通とは異なる新たな制御技術が必要になります。再エネ電源が増えるほど、電圧や周波数がぶれない高品質の電力を安定的に供給するのが難しくなったり、作った電力を使いきれなかったりするからです。この課題を解決するには、デジタル技術を使った高度な制御技術や需給管理技術が求められます。具体的には発電量や使用量などの各種データをリアルタイムで把握・収集・管理・活用するDER制御プラットフォームを構築し、利用者・運用者で共有できるようにすることが欠かせません。
国内外でそうした技術の開発が活発になっており、日本でも予測・制御技術の高度化によるエネルギー利用の最大化、運用の効率化などの取組みが実証事業を通じて進められています。

関連ビジネスも生まれつつあります。その代表が「アグリゲーションビジネス」です。アグリゲーションは「束ねる」という意味で、複数の再エネ電源を1つの発電施設とみなして制御する「仮想発電所(VPP)」や、複数の電力利用者(需要家)の需要を調整する「デマンドレスポンス(DR)」などの事業形態があります。また、工場や家庭などの需要家同士が自ら発電した電力を直接取引する「P2P(需要家間融通)ビジネス」も事業化に向けて検討が進んでいるところです。
これらの新ビジネスの創出を後押しする制度も整いつつあります。2021年4月に経済産業省が立ち上げた余剰電力を売買する「需給調整市場」や、2022年度から導入される市場価格に政府が一定額を上乗せする「FIP制度」などです。
また、電気自動車(EV)の本格普及にも対応する必要があります。充電時間などが集中すると、電力負荷が大きくなりすぎることが懸念されるからです。このため、その時々の需給によって電気料金を変えるダイナミックプライシングなど従来とは異なるエネルギー制御の仕組みが検討されています。
こうした取組みは当面は産業用が中心ですが、将来的には家庭や店舗などでの活用も期待されます。次世代スマートメーターで取得するデータの種類や計測頻度を増やし、家庭や店舗での需給調整などに活用する研究が進んでいます。

【次世代電力プラットフォームの構成要素】

設備面

・大型発電所(原子力などの脱炭素型)

・再生可能エネルギー発電所

・送配電ネットワーク

技術面

・発電所の最適制御

・需要予測の高度化

・分散型エネルギー資源(DER)の最適制御

・家庭など需要家間での電力融通



執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 稲葉 一樹

日経産業新聞 2021年11月5日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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