アップデート!非財務情報開示の今 第15回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2023年10月~12月の動向)
「週刊経営財務」(税務研究会発行)3639号(2024年1月29日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第15回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2023年10月~12月の動向)」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
「週刊経営財務」(税務研究会発行)3639号(2024年1月29日)にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
この記事は、「週刊経営財務3639号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
ハイライト
1.はじめに
本連載企画「非財務情報の開示を巡る国内外の動向」では、国内外の非財務情報に関する最新動向について四半期を目途にその動向について解説を行っている。本稿では、2023年10月から12月の動向について、以下に焦点を当てて解説する。
(国内の動向)
- サステナビリティ基準委員会(SSBJ)による審議の状況(第22回~第28回会議)
- 金融庁によるサステナビリティ関連開示に関する「記述情報の開示の好事例集2023」の公表
(国際的な動向)
- 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による改定版SASBスタンダードの公表
- ISSBによる教育文書「気候関連のリスク及び機会の自然及び社会に関する側面」の公表
- 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)による欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の適用ガイダンス草案の公表
なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを予めお断りする。
2.SSBJによる審議の状況(第22回~第28回会議)
(1)審議状況の概要
2023年10月~12月の間、SSBJは第22回~第28回の会議を開催し、IFRS S1号及びS2号に相当する日本基準(以下「日本版S1基準」及び「日本版S2基準」という。)の開発に向けて図表1に記載した論点が審議された。
図表1:SSBJによる審議の状況(日本基準の開発の論点に限る)
回次 | 開催日 | 審議事項 |
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第22回 | 2023年10月2日 |
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第23回 | 2023年10月16日 |
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第24回 | 2023年11月2日 |
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第25回 | 2023年11月16日 |
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第26回 | 2023年11月28日 |
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第27回 | 2023年12月11日 |
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第28回 | 2023年12月25日 |
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出所:SSBJによる議事概要(2023年12月25日)
SSBJでは、日本版S1基準及び日本版S2基準の公開草案の目標公表時期を2023年度中(遅くとも2024年3月31日まで)、確定基準の目標公表時期を2024年度中(遅くとも2025年3月31日まで)としている。日本版S1基準及び日本版S2基準策定にあたっての主要な論点はIFRS S1号及びS2号で規定された各項目に従ってリスト化され公表されているが、2023年12月現在、論点リストに記載の論点のうち、発効日及び経過措置以外の論点については審議が一巡している。SSBJでは引き続き2024年3月末までの公開草案の公表に向け審議が行われる予定である。
(2)GHGプロトコルと法域における他の法令等との関係
図表1で示した議題のうち、第22回及び第26回で審議された「GHGプロトコルと法域における他の法令等との関係」に関する審議状況について追加で説明する。
論点概要
IFRS S2号ではGHG排出量の算定方法について、原則としてGHGプロトコル1に従うとしつつも、各法域で当局等が要求する異なる方法による算定も容認されている。
我が国においては、2006年から温対法等2に基づき一定量以上のGHGを排出する企業に対してGHG排出量の算定と報告を義務付けていることから、日本で温対法に基づく報告を行っている企業においてもGHGプロトコルに基づく測定が必要となるかどうかが論点となる。
審議状況
現状、SSBJでは以下の方向で審議が進められている。
- 日本版S2基準においてもIFRS S2号と整合的に、原則としてGHGプロトコルによる算定を求める一方、各法域で当局等が要求する異なる方法での算定も容認する。
- ただし、容認規定を用いて温対法等に基づく排出量データを利用する場合であっても以下の取扱いが議論されていることから、留意が必要である。
- 報告企業の海外子会社など、温対法等の適用外である企業を排出量開示に含める必要が生じる可能性がある。
- IFRS S2号ではスコープ3の開示が求められる一方、温対法等ではスコープ3の開示は求められていないため、温対法等によりGHG排出量を報告している場合、GHGプロトコルによりスコープ3を測定し開示する必要が生じる可能性がある。
- GHG排出量データの算定期間は、公表承認日までに既に当局等に提出した最も直近のデータを用いる。算定期間がサステナビリティ関連財務開示の報告期間より1年超乖離している場合は、一定の追加開示3が求められる(日本版S2基準での追加規定)。
- 重要性がある場合、他の基準により測定したGHG排出量とGHGプロトコルにより測定したGHG排出量の区分開示が求められる(日本版S2基準での追加規定)。
上記のとおり、現在我が国の温対法に基づくGHG排出量の測定を行っている企業においても、一定の追加対応が必要となる可能性がある。このため、影響を受ける可能性がある場合、SSBJによる今後の審議状況について引き続き留意が必要と考えられる。
3.金融庁によるサステナビリティ関連開示に関する「記述情報の開示の好事例集2023」の公表
2023年12月、金融庁は2023年1月に公布した改正「企業内容等の開示に関する内閣府令」で追加された有価証券報告書の記載項目「サステナビリティに関する考え方及び取組等」に関する、「記述情報の開示の好事例集」(以下「本事例集」という。)を公表している。
本事例集は、金融庁が2018年から毎年、「記述情報の開示の好事例に関する勉強会」での議論に基づき公表している事例集の最新版であり、今後「コーポレート・ガバナンスの概要」等の項目の追加が予定されている。
本事例集では有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組等」の記載に関して、どのような開示が投資判断にとって有益と考えられるのかを投資家・アナリスト・有識者及び企業からなる勉強会で議論された内容に基づき、(1)全般的要求事項、(2)気候変動関連等、(3)人的資本、多様性等、(4)人権、(5)個別テーマに区分した延べ90例超の開示例並びに好事例として着目したポイントのほか、投資家・アナリスト・有識者が期待する主な開示のポイントや、好事例として採り上げた企業の主な取組み内容が紹介されている。
本事例集は、今後有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組等」における記載内容の充実を検討する上での参考事例となることに加え、記載情報の利用者が開示に期待するポイントを理解する上でも有用な内容と考えられる。
4.ISSBによる改定版SASBスタンダードの公表
2023年12月、ISSBは国際的な適用可能性を向上させることを目的として改定したSASBスタンダードを公表している。
SASBスタンダードは2018年に米国のサステナビリティ会計基準審議会(SASB)により公表されたものの、その後組織統合を経て4、現在はIFRS財団がSASBスタンダードの維持・向上等に関する責任を担っている。こうした経緯から、SASBスタンダードには法域(主に米国)固有の法令等に基づく指標等の開示要求が存在していた。一方でIFRS®サステナビリティ開示基準において、SASBスタンダードは開示対象とすべき「サステナビリティ関連のリスク及び機会」を識別するための情報源として考慮することが要求されているため、ISSBはSASBスタンダードの国際的な適用可能性を向上させるための改定作業を進めてきた。
SASBスタンダードのうち気候関連の指標等は2023年6月にIFRSサステナビリティ開示基準の公表に併せて改定作業が完了しており、今回は気候関連以外の指標等に関する改定が公表されている。
今回の改定内容は2025年1月1日より適用され、早期適用も可能とされている。
5.ISSBによる教育文書「気候関連のリスク及び機会の自然及び社会に関する側面」の公表
2023年12月、ISSBは教育文書「気候関連のリスク及び機会の自然及び社会に関する側面」を公表した。
同教育文書は、IFRS第S2号を適用して気候関連の開示を行う場合、気候関連リスク及び機会が自然や社会に関連する側面をどのように考慮すべきかについて利害関係者から疑問が提起されたことを受け開発された。同教育文書はIFRSサステナビリティ開示基準の一部を構成するものではなく、図表2のとおり、一定の仮定を置いた設例により、IFRS S2号およびIFRS S1号の要求事項をどのように適用することがあるかを示している。
図表2:教育文書における設例
番号 | 設例表題 | 概要 |
---|---|---|
設例1 | 気候関連のリスク(自然についての側面)に関する分解された情報の開示 | 農作物産業を営む企業が、特定地域の小麦の生産が気候変動に起因した水不足の影響を受けるリスクを識別し、地域ごとに分解した開示を行う事例 |
設例2 | 気候関連の機会(自然についての側面)に対する企業の対応に関する情報の開示 | 森林管理産業を営む企業が、温室効果ガス削減を目的とした建築材料規制強化により生じる木材需要の増大を、「機会」として識別する場合の事例 |
設例3 | 気候関連のリスク(社会についての側面)に対する企業の対応に関する情報の開示 |
発電事業者である企業が、低炭素経済への移行のために廃止を計画する石炭発電所において雇用する労働者について、適切な労働機会を最大化する方法による「公正な移行」を要求する規制の導入が見込まれ、当該労働者の管理に関する規制リスクを識別する場合の事例 |
出所:ISSBによる教育文書を基礎として筆者作成
6.EFRAGによるESRSの適用ガイダンス草案の公表
2023年12月、EFRAGはESRSの最初の適用ガイダンスとして、下記図表3に示す3つの公開草案を公表した。
マテリアリティ評価およびバリュー・チェーンに関しては、ESRS適用者にとって検討優先度が高いと考えられること、またデータポイントのリストは初年度適用にあたり既存の開示項目との差異分析や開示事項の体系的理解に有益と考えられることから、優先的に開発が進められ公表に至ったものである。
図表3:EFRAGにより公表されたESRS適用ガイダンスの公開草案
番号 | タイトル | 概要 |
---|---|---|
IG1 | マテリアリティ評価に関する適用ガイダンス | ESRSにおけるマテリアリティ評価に関する要求事項及び適用ステップに関するガイダンス及びFAQ |
IG2 |
バリュー・チェーンに関する適用ガイダンス |
ESRSにおけるバリュー・チェーンに関する要求事項及び報告範囲に関するガイダンス及びFAQ |
IG3 | ESRSのデータポイントに関する適用ガイダンス | ESRSにおける全てのデータポイントを網羅したエクセルファイル及び説明文書 |
出所:EFRAGによる公表情報より筆者作成
EFRAGは上記公開草案に関して、2024年2月2日を期限としてコメントを募集している。
7.おわりに
本稿では、2023年10月から12月における、非財務情報の開示に関する国内外の動向について概観した。2024年3月末までに公開草案の公表を目指しているSSBJによる日本版S1基準及びS2基準については、大部分のトピックについて既に審議がなされている。特に一部でIFRSサステナビリティ開示基準と異なる扱いについても議論されているため、影響把握の観点からは早期の段階から情報収集を行い、審議状況をフォローしておくことが望まれる。
ESRSやIFRSサステナビリティ開示基準に関して公表されたガイダンスや教育文書についても、一度概観し活用余地について検討することを推奨したい。
1 温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準(2004年)
2 「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」
3 (a)当該定めを用いている旨、(b)当該定めを用いたGHG排出量の算定期間、(c)(b)の末日と一般目的財務報告書の報告期間の末日の間に発生した、企業自身のGHG排出に関連する重大な事象又は環境の変化がある場合、その影響
4 SASBとIIRC(International Integrated Reporting Council)の合併により2021年6月に設立されたVRF(Value Reporting Foundation)は、2022年8月にIFRS財団に統合されている。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
開示高度化推進部 久松 洋介
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