アップデート!非財務情報開示の今 第9回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年4月~6月までの動向)

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3565号(2022年7月25日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第9回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年4月~6月までの動向)」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3565号(2022年7月25日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第9回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向」に関する記事が掲載されました。

この記事は、「週刊経営財務3565号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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1.はじめに

本連載企画「非財務情報の開示を巡る国内外の動向」では、各月における国内外の非財務情報に関する最新動向について解説している。2022年については、四半期を目途にその動向について解説を行っていく。このため、本稿では、2022年4月~6月の動向について、以下に焦点を当てて解説する。

(国内の動向)

  • 金融審議会によるディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「DWG報告」という。)の公表
    (国際的な動向)
  • IFRS®財団による統合報告フレームワークと統合的思考原則の開発に向けた声明の発表
  • 欧州財務報告諮問グループ(以下「EFRAG」という。)による欧州サステナビリティ報告基準(以下「ESRS」という。)に係る公開草案の公表
  • 英国財務報告評議会(以下「FRC」という。)による戦略報告書に係るガイダンスの改訂
  • 国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB審議会」という。)のボードメンバーの選任

なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを予めお断りする。

2.国内の動向(金融審議会によるDWG報告の公表)

2022年6月、金融庁に設置されている金融審議会よりDWG報告が公表された。ディスクロージャーワーキング・グループにおける審議では、企業経営や投資判断においてサステナビリティの重要性が高まっていることや、コーポレートガバナンスに関する議論の進展といった変化を踏まえつつ、成長と分配の好循環を柱とする「新しい資本主義」の実現に向けた議論が進んでいることも踏まえた検討が行われた。具体的には、現在の資本主義が抱える、持続可能性の欠如、中長期投資の不足、気候変動問題の深刻化といった諸課題を踏まえ、資本市場の機能発揮を促すという観点から企業情報の開示のあり方が議論され、DWG報告が公表されている。以下、主な提言について概要を記載する。

(1)サステナビリティに関する企業の取組みの開示

DWG報告では、サステナビリティに関する全般的な事項を報告するため、有価証券報告書にサステナビリティ情報に関する「記載欄」を新設することが提言されている。当該提言は、欧米において法定年次報告書の一部としてサステナビリティ情報を開示する議論が進んでいることを踏まえ、国際的な資本市場整備の観点から、当該情報を法定書類において開示することが適当と考えられたことがその理由の一つとされている。また、サステナビリティ情報を有価証券報告書において開示する事例がある一方で、企業により開示箇所が異なったり、報告書の中で情報が分散して記載されている事例もあり、開示情報の明瞭性と比較可能性を確保することが考えられた旨も理由として挙げられている。

また、サステナビリティ情報の開示にあたっては、【ガバナンス】、【リスク管理】、【戦略】及び【指標と目標】という4つの構成要素に基づく開示とすることが提言されている。これは、国際的な比較可能性を考慮し、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下「TCFD」という。)の提言やISSB審議会の公開草案と同様の枠組みとすることが適切と考えられたことによるものである。このうち、【ガバナンス】と【リスク管理】については、リスクの影響を評価する上で必要な背景情報であることから、全ての企業が開示する一方で、【戦略】と【指標と目標】については各企業が重要性を考慮し、開示の要否を判断することが提言されている。ただし、開示不要と判断した場合でも、当該判断とその根拠は投資家にとって有用な情報であることから、積極的な開示を行うことが強く期待される旨が示されている。

さらに、人的資本については、【人材育成方針】、【社会環境整備方針】が記載項目として提言されている。新しい資本主義の実現に向けた議論では、人的投資が持続的な価値創造の基盤であることについて、企業と投資家で共通の認識を持つことの重要性が強調されており、中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえ、新たな開示項目として提言されたものである。

加えて、多様性について、【男女賃金格差】、【女性管理職比率】、【男性育児休業取得率】を有価証券報告書における開示項目とすることが提言されている。なお、これらの指標については、女性活躍推進法や育児・介護休業法等において人的資本の有効活用を促すための情報開示が求められていることを踏まえ、企業の負担にも配慮し、その他の法律の定義や枠組みに従ったものとすることに留意すべきとされている。

(2)コーポレートガバナンスに関する開示

コーポレートガバナンスについては、取締役会の機能発揮に関する報告として、【取締役会、指名委員会・報酬委員会の活動状況】を記載項目として追加することが提言されている。これは、取締役会・委員会等の活動について、コーポレートガバナンス報告書や任意の開示において一定の進展がみられたこと、また、欧米諸国においては、法定書類において取締役・委員会等の活動状況を報告する実務が定着していること等を踏まえ、有価証券報告書の記載項目とすべきと考えられたものである。

(3)その他

DWG報告では、上記のほか、四半期開示について四半期決算短信への「一本化」の方針が示されているほか、「重要な契約」の開示のあり方についての明確化や、英文開示の促進についても提言が示されている。このうち、英文開示については、コーポレートガバナンス・コードの改訂も踏まえ、プライム上場企業には積極的な英文開示を行うことが期待されているが、現状、有価証券報告書を英文で開示する企業は少数にとどまっている。このため、DWG報告は、まずは利用者のニーズが特に高い項目(例:【事業等のリスク】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】、【コーポレート・ガバナンスの概要】、【株式の保有状況】)について英文開示を行うことが重要としているほか、新たに「記載欄」を設けるサステナビリティ情報についても、英文開示が期待されるとしている。

3.国際的な動向

(1)IFRS財団による統合報告フレームワークと統合的思考原則の開発に向けた声明発表

IFRS財団は、価値報告財団(以下「VRF」という。)との組織統合を進めている。当該過程において、2022年5月に、国際会計基準審議会(以下「IASB審議会」という。)及びISSB審議会の両議長から、VRFがこれまでに開発した統合報告フレームワーク及び統合的思考原則の将来の役割、これらに係るガバナンス及び開発の計画について共同声明が公表されている。共同声明の主な内容は次のとおりである。

(統合報告フレームワークについて)

  • 統合報告フレームワークはIFRS財団の文書となる。
  • IFRS財団並びにIASB審議会及びISSB審議会(以下「両審議会」という。)の議長は、企業に対して統合報告フレームワークの適用を積極的に奨励する。
  • IFRS財団とVRFの統合に伴い、両審議会は統合報告フレームワークに関する責任を引き継ぐ。
  • 両審議会は、基準開発に際し、統合報告フレームワークの原則及び概念を活用する。

( 統合的思考原則について)

  • 統合的思考原則は、IFRS財団の文書となる。
  • IFRS財団及び両審議会の議長は、統合的思考原則の継続的な利用を奨励するとともに、統合的思考原則をコーポレートガバナンス及び企業報告の質を改善する実務ガイダンスとしていくうえでステークホルダーが関与することを奨励する。

(統合報告評議会について)

  • VRFの統合に伴い、従来、VRFに設置されていた統合報告評議会はIFRS財団及び両審議会の諮問機関となり、財務報告とサステナビリティ報告をどのように統合していくのか、また、統合報告フレームワークの原則を両審議会による関連するプロジェクトにおいてどのように考慮すべきかについて助言を行う。この役割は、当初2年間とし、その後、別個の評議会が必要か否かについて検討を行う。

両議長は、共同声明において、統合報告フレームワークにより、企業報告が高品質なものとなるほか、財務諸表とサステナビリティ関連財務開示の間の結合性が促進され、投資家に提供される情報の質が改善すると考えており、統合報告フレームワーク及び統合的思考原則の継続的な利用を強く奨励するとしている。

(2)EFRAGによるESRS公開草案の公表

2022年4月、EFRAGよりESRSの公開草案の第1弾が公表された。これは、EUにおける企業によるサステナビリティ報告に関する指令の提案(the proposal for a Corporate Sustainability Reporting Directive。以下「CSRD(案)」という。)に従い、サステナビリティ報告を行う場合に開示すべき内容を規定するものである。今回公表された草案の全体像は図表1のとおりである。

図表1 今回公表されたESRSの公開草案

基準コード、基準書
ESRS
ESRS1 一般的な原則
ESRS2 全般、戦略、ガバナンス及び重要性の評価
ESRS E ESRS S ESRS G
E1 気候変動
E2 汚染
E3 水と海洋資源
E4 生物多様性と生態系
E5 資源の利用及び循環経済
S1 自社の労働力
S2 バリューチェーンの従業員
S3 影響を受けるコミュニティ
S4 消費者と最終利用者
G1 ガバナンス、リスク管理及び内部統制
G2 企業行動

出所:ESRSの公開草案より、筆者作成


このうち、ESRS1は、CSRD(案)に基づき開示されるサステナビリティステートメント全体に適用される概念及び原則を定めた基準である。また、ESRS2は、全般的な事項、戦略とビジネスモデル、サステナビリティに関連したガバナンス、サステナビリティのインパクト、リスクと機会の報告に適用される開示要求である。また、トピック別の基準として、環境、社会、ガバナンスという3つの領域について、サブトピック別に詳細な開示要求が提案されている。

これらの草案は、最終的な基準の一部であるが、より長い公開協議の期間を確保するため、他の基準案に先行して公表されている。今後、2022年11月までに、セクター別の基準、表示の基準、概念に係るガイドラインの公開が予定されている。また、このうち特に広範な概念を定めているESRS1の概要は図表2のとおりである。


図表2 ESRS1の概要

項目 内容
ESRSの報告
  • ESRSへの準拠
  • 標準的な開示と企業固有の開示
  • セクター共通の開示とセクター別の開示
  • 横断的な基準とトピック別の基準の関係
  • 企業に固有な開示の開発
CSRD概念の適用
  • 情報の質(関連性、適正表示、比較可能性、検証可能性、理解可能性)
  • サステナビリティ開示の基本となるダブルマテリアリティ
  • 報告境界とバリューチェーン
  • 時間軸
  • CSRDの下でのデューデリジェンス
事業の遂行に係る開示原則
  • 事業の遂行に係る開示原則の目的
  • 方針の適用、目標、行動、行動計画及び資源配分のための参照原則
サステナビリティ情報の作
  • 表示の一般原則
  • 比較情報の表示
  • 不確実な状況における見積り
  • 報告期間後の事象に関する開示のアップデート
  • サステナビリティ情報の作成及び表示の変更
  • 前期における報告の誤り
  • 不利な影響と財務リスク
  • 選択的な開示
  • 連結報告と子会社の免除
  • 他のサステナビリティ報告のもとでの一部又は全部の追加的な開示
企業報告のその他の部分との関連性の提示
  • 全体的なまとまり
  • 財務諸表との結合性
サステナビリティステートメントの構成
  • サステナビリティステートメントの内容
  • サステナビリティステートメントの構成

出所:ESRS1の公開草案より筆者作成

(3)FRCによる戦略報告書に係るガイダンスの改訂

2022年6月、FRCは戦略報告書に係るガイダンスの改訂版を公表した。戦略報告書に係るガイダンスは、2014年にビジネス・エネルギー・産業戦略省の要請を踏まえてFRCが開発したものであるが、ガイダンスには強制力はない。改訂後のガイダンスには、TCFDの提言に沿った気候関連の財務情報に関するガイダンスが追加されている。

(4)ISSB審議会のボードメンバーの選任

ISSB審議会のボードメンバーについて、2022年6月8日に4名、6月24日に2名が新たに任命されている。その顔ぶれは、Richard Barker氏(学者、イギリス)、Verity Chegar氏(投資機関、アメリカ)、Bing Leng氏(官僚、中国)、Ndidi Nnoli-Edozien氏(大手企業、ナイジェリア)、Jeff rey Hales氏(学者、アメリカ)、MichaelJantzi氏(ESGリサーチ会社、カナダ)である。

このように、学者、機関投資家、官僚、実務家など、多様なバックグラウンドもった人材が様々な地域から選出されている。なお、Hales氏はサステナビリティ会計基準審議会(SASB)の議長、Jantzi氏はVRFのBoard of Directorsの一人である。

4.おわりに

本稿では、2022年4月~6月における、非財務情報開示に関する国内外の動向について概観した。各国/地域における非財務情報開示のあり方は徐々に明確になりつつある。非財務情報の開示を巡る動向からいよいよ目が離せない状況であろう。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アソシエイトパートナー 公認会計士
新名谷 寛昌(にいなや ひろまさ)

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