アップデート!非財務情報開示の今 第10回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年7月~9月までの動向)

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3581号(2022年11月21日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第10回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年7月~9月までの動向)」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3581号に「アップデート!非財務情報開示の今 第10回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年7月~9月までの動向)」に関する記事が掲載

この記事は、「週刊経営財務3581号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

1.はじめに

本連載企画「非財務情報の開示を巡る国内外の動向」では、国内外の非財務情報に関する最新動向について四半期を目途にその動向について解説を行っている。本稿では、2022年7月~9月の動向について、以下に焦点を当てて解説する。

(国内の動向)

  • サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という。)の設立
  • サステナビリティ経営に関連する報告書の公表(国内の動向)


(国際的な動向)

  •  国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB審議会」という。)によるIFRSサステナビリティ開示基準(案)の審議の状況
  • 欧州財務報告諮問グループ(以下「EFRAG」という。)による欧州サステナビリティ報告基準(以下「ESRS」という。)に係る公開草案の審議の状況
  • 金融安定理事会(以下「FSB」という。)による「気候変動による財務リスクに対処するためのFSBロードマップ:2022年度進捗報告書」の公表

なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを予めお断りする。

2.SSBJの設立

国際的なサステナビリティ開示基準の開発等のサステナビリティ開示を巡る議論の進展を受けて、2022年7月にSSBJが設立された。SSBJは我が国におけるサステナビリティ開示基準の開発と国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献を主な目的としている。

SSBJの位置付けは我が国の会計基準の設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)と並列の関係となっている(参考:図表1「SSBJの位置づけ」参照)。

図表1 SSBJの位置づけ

アップデート!非財務情報開示の今 第10回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2022年7月~9月までの動向)-1

出所:SSBJ HP「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)設立記念式典」

SSBJは、設立後、ISSB審議会が公表した2つの公開草案に対するコメント・レターを提出している。SSBJは、今後、ISSB審議会のアウトリーチに参加する等、継続的にISSB審議会との連携を深めていくほか、我が国のサステナビリティ開示基準の開発に着手することを予定している。

3.サステナビリティ経営に関連する報告書の公表

サステナビリティ課題の多様化を踏まえ、企業はこれまで以上に事業環境の急激な変化に晒されるようになっている。また、企業が持続的成長を図るうえでサステナビリティ課題を経営に織り込むことの重要性も増している。こうした状況を踏まえ、2022年8月に、企業がサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)経営を実現するためのポイントを取りまとめた以下の報告書が公表されている。

  • 人的資本可視化指針(内閣官房 非財務情報可視化研究会)
  • 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)(経済産業省)
  • 価値協創ガイダンス2.0(経済産業省)

これらの報告書は、SX経営の実現という共通の目的のもと一体的・整合的に活用することが推奨されている。報告書の概要は、図表2のように整理しうる。
 

図表2 SX経営の実現に関する報告書

報告書の名称 概要
人的資本可視化指針 人的資本に関する資本市場への情報開示のあり方に焦点をあて、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について包括的に整理した手引きとして位置づけられている。「人材戦略」の在り方について提言した「人材版伊藤レポート(2020年9月)」及び「人材版伊藤レポート2.0(2022年5月)」と併せて活用することで相乗効果が期待されている。
伊藤レポート3.0 企業や投資家等が協働して長期的かつ持続的な企業価値を向上させるため、SXの要諦を整理し、その実現に向けた具体的な取組み(長期経営に求められる内容や、企業と投資家等の建設的・実質的な対話の在り方を含む。)を取りまとめたものである。
価値協創ガイダンス2.0 「伊藤レポート3.0」で示されているSXの要諦を踏まえ、SXの実現に向けて経営を強化し、企業と投資家が建設的・実質的な対話を行うためのフレームワークとして位置付けられている。

4.ISSB審議会によるIFRSサステナビリティ開示基準(案)の審議の状況

(1)基準の最終化に向けた審議の状況

ISSB審議会から、2022年3月にIFRSサステナビリティ開示基準について、以下2つの公開草案(以下「ISSB公開草案」という。)が公表されていた1

  • IFRSサステナビリティ開示基準第1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(案)」
  • IFRSサステナビリティ開示基準第2号「気候関連開示(案)」

ISSB公開草案について2022年7月を期限とするコメント募集が行われた結果、1,400を超えるコメントが寄せられた。この中には、企業の対応や準備状況には差があり、いくつかの開示要求事項(案)への対応が困難であるとの指摘も多く含まれていた。実務上の対応が困難と指摘された開示要求事項(案)には以下が含まれる。
 

図表3 多くの企業が本基準の適用ができるようにするための措置

措置 内容
代替的な開示の容認 特定の要件を満たす企業に対して代替的な開示を認める、又は特定の開示要求事項を免除する。
追加のガイダンス等の提供 適用を支援するためのガイダンスを提供するほか、既存のプロトコルやフレームワークへの参照を記載することで適用を支援する。
段階的な適用の支援 各法域がIFRSサステナビリティ開示基準を段階的に導入できるよう、“basic”な開示要求事項と“advanced”な開示要求事項を特定する。

(2)今度の予定

ISSB審議会は、今後、以下のような予定に沿って作業を進めることが予定されている。

  • 公開草案に寄せられたフィードバックを踏まえ、2022年末頃までに審議を完了させる。
  • 2023年の可能な限り早い時期(as early as possible)に最終基準を公表する。
  • 2023年の上期に気候関連開示以外に、どのようなトピックについて検討を進めるべきかに関する協議を開始する。

5.EFRAGによるESRSに係る公開草案の審議

EFRAGは2022年3月にESRSの公開草案(以下「ESRS(案)」という。)を公表した2。EFRAGがESRS(案)に対して2022年8月を期限とするアンケートとコメント募集を行った結果、750を超えるコメントが寄せられた。2022年9月末時点で、EFRAGにおいてこれらのアンケート結果及び寄せられたコメントの分析は完了しており、基準の最終化に向けた検討が進められている。

ESRS(案)の提案は、TCFD提言やISSB公開草案と異なる点も多かった。しかし、EFRAGは、 ESRS(案)に対して寄せられたコメントを踏まえ、比較的多くの修正をする方向で検討を実施している。ESRS(案)からの変更点には、例えば、基準の構造をTCFD提言やISSB公開草案で採用されている構造(ガバナンス、戦略、リスク管理および指標及び目標)と類似したものとすること等が含まれている。

EFRAGは、今後、ESRS(案)に寄せられたコメントを踏まえた審議を最終化したうえで、 2022年11月に修正版を欧州委員会(EC)へ提出することを予定している。

6.FSBによる報告書の公表

FSBは、2021年7月に公表した「気候変動による財務リスクに対処するためのFSBロードマップ3」の年次の進捗状況を示す報告書(以下「FSB進捗報告書」という。)を2022年7月に公表した。

FSBは、金融危機直後の2009年に設立された、主要25か国・地域の中央銀行、金融当局、財務省、IMF、世界銀行等の代表が参加する組織であり、金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調の促進に向けた活動等が行われている。2021年7月にFSBから公表されたロードマップは、気候関連の財務リスクに対する国際的な協調や共通の目標・時間軸の設定を目的として作成され、G20ローマサミットにおいてロードマップで示された取組みを進めていくことに歓迎の意が示された。このため、FSB進捗報告書は気候関連の財務リスクへの国際的な対応に関する中長期的な方向性を理解する上で有益な資料であるといえる。

FSB進捗報告書では、気候変動に関する財務リスク(移行リスクを含む。)は長期的な課題やテールリスクではないとの認識が示されている。これは、異常気象の頻度及び深刻度が益々高まっているほか、ウクライナ情勢を受けて将来のエネルギー政策に関する議論が各国で行われる状況を踏まえたものである。

FSB進捗報告書では、サステナビリティ報告に対する保証業務基準についても言及がされている。これは、サステナビリティ情報の開示の信頼性を高めるため、国際的なサステナビリティ保証業務基準の重要性が認識されるようになっていることによる。今後、グローバルな基準設定主体である国際監査・保証基準審議会(IAASB)がその役割を担うことが想定されるが、IAASBによる保証業務基準の開発に関する目標時期が図表4のとおり示されている。
 

図表4 IAASBによる保証業務基準の開発に関する目標時期

作業内容 目標時期
(1)すべてのサステナビリティのトピック(例:気候、人権、生物多様性)や報告基準に関して適用可能な全般的な保証基準の開発  
-公開草案の公表
-最終基準の公表
2023年第4四半期
2025年第2四半期
(2)個別のトピックに関する保証業務基準の開発  全般的な保証基準が公表された後
(3)保証業務の枠組みに対する証券監督者国際機構(IOSCO)による見解(声明)の公表 2022年第4四半期~2023年第1四半期

7.おわりに

本稿では、2022年7月~9月における、非財務情報開示に関する国内外の動向について概観した。海外ではIFRSサステナビリティ開示基準やESRSの公開草案の最終化に向けた検討が着実に進んでいる。また、日本においてもSSBJが設立されたことによりサステナビリティ開示基準の策定に向けた動きが今後進展することが予想される。

このような状況下において、特にプライム市場の上場企業においては、サステナビリティ開示の国内外の動向をタイムリーにキャッチアップし、自社のサステナビリティ開示の準備を進めることが望まれる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アソシエイトパートナー 公認会計士
小林 圭司(こばやし けいじ)

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