アップデート!非財務情報開示の今 第12回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2023年1月~3月までの動向)

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3603号(2023年5月8日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第12回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2023年1月~3月までの動向)」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3603号(2023年5月8日)にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「週刊経営財務3603号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

1.はじめに

本連載企画「非財務情報の開示を巡る国内外の動向」では、国内外の非財務情報に関する最新動向について四半期を目途にその動向について解説を行っている。本稿では、2023年1月~3月の動向について、以下に焦点を当てて解説する。

(国内の動向)

  • 金融庁による「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の公表
  • サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という。)による「現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画」の公表

(国際的な動向)

  • 国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」という。)によるIFRS®サステナビリティ開示基準(案)の審議の状況
  • 欧州における企業のサステナビリティ情報の報告に関する指令(以下「CSRD」という。)の発効を踏まえた対応

なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを予めお断りする。

2.金融庁による「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の公表

金融庁は、2023年1月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)及び「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(以下「本改正」という。)を公表した。また、これらと併せて、「記述情報の開示に関する原則」の別添(サステナビリティ情報の開示に関する原則)が公表されている。

本改正は、2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告における提言を受け、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有報等」という。)の記載事項について改正がされたものであり、2023年3月期に係る有報等から適用される。

本改正では、主に以下の事項について、有報等における開示が拡充されている。

サステナビリティに関する企業の取組の開示

(1) サステナビリティ全般に関する開示
(2) 人的資本、多様性に関する開示

コーポレート・ガバナンスに関する開示

(3) 取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況等

(1)サステナビリティ全般に関する開示

企業のサステナビリティに関する考え方及び取組の状況について、有報等に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設したうえで、当記載欄に以下の事項を記載することとされた。

図表1 サステナビリティ全般に関する開示項目

記載の要否 項目 内容
必須の記載項目 ガバナンス サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続
リスク管理 サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程
重要性に応じて記載する項目 戦略 短期、中期及び長期にわたり会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組
指標及び目標 サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報

出所:開示府令第二号様式「第二部 第2【事業の状況】」及び同様式 記載上の注意(30-2)ab等に基づき作成

(2)人的資本、多様性に関する開示

国際的な動向を踏まえ投資家の投資判断に必要な情報を提供する観点から、人的資本(人材の多様性を含む。)に関して有報等に以下の事項を記載することが必須とされた。

図表2 人的資本(多様性を含む。)に関する開示項目(いずれも必須の記載項目)

記載欄 項目 内容
「サステナビリティに関する考え方及び取組」 戦略 人材育成(人材の多様性の確保を含む。)に関する方針及び社内環境整備に関する方針
指標及び目標 上記で記載した方針に関する指標の内容、当該指標を用いた目標及び実績
「従業員の状況」 指標 女性活躍推進法に基づき、「女性管理職比率」、「男性育児休暇取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する有報等の提出会社及びその連結子会社に関して、これらの指標

出所:開示府令第二号様式「第二部 第2【事業の状況】」及び同様式 記載上の注意(30-2)c、(29)d~f等に基づき作成
 

上記2点の「サステナビリティに関する企業の取組」の開示項目の全体像を示すと以下となる。

図表3 サステナビリティ開示の概観

アップデート!非財務情報開示の今 第12回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2023年1月~3月までの動向)-3

出所:内閣府、計画実行・監視専門調査会(第18回)配布資料3「金融商品取引法に基づく男女間賃金格差の開示について(金融庁説明資料)」を加工して作成

また、これらの新たな開示の前提となる考え方として、主に以下の点が「企業内容等開示ガイドライン」において明確化されている。

  • 有報等に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではない。
  • 「サステナビリティに関する考え方及び取組」又は「コーポレート・ガバナンスの概要」の記載に当たっては、補完する詳細な情報について任意の開示書類を参照することができる。
  • 参照先の書類に虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があっても、直ちに虚偽記載の責任を負うものではない(ただし、参照先の書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照していた場合等を除く)。

さらに、サステナビリティ開示における望ましい開示に向け、企業に期待される取組が「記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-」において示されている。

  • 戦略や指標及び目標(ただし、人材の多様性・人的資本の投資に関する必須記載項目を除く。)について重要性がないものとして記載しない場合には、重要性の判断やその根拠の開示が期待される。
  • TCFD又はそれと同等の枠組みに基づいて開示をした場合、適用した開示の枠組みの名称を記載することが考えられる。
  • サステナビリティ情報にはE(環境)、S(社会、従業員、人権の尊重、データセキュリティ)、G(腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ)に関する事項が含まれ得ると考えられる。
  • Scope1、2のGHG排出量について、積極的な開示が期待される。
  • 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結ベースでの開示に努めるべきである。

(3)コーポレート・ガバナンスに関する開示

コーポレート・ガバナンスについては、新たに以下の3点を有報等に記載することが定められている。

図表4 コーポレート・ガバナンスに関する開示項目

記載項目 内容
(1)取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況
  • 提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会並びに企業統治に関して任意に設置する委員会その他これに類するものの活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況等)
(2)監査の信頼性確保に関する開示
  • 提出会社の監査役及び監査役等の活動状況について、具体的な検討内容
  • 内部監査の実効性を確保するための取組(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組みの有無を含む。)
(3)政策保有株式等に関する開示
  • 保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要

出所:開示府令第二号様式「第二部 第2【事業の状況】」及び同様式 記載上の注意(54)i、(56)a(b)、同b(c)、(58)d(e)等に基づき作成

3.SSBJによる「現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画」の公表

SSBJは、2023年1月に以下の項目を今後の審議テーマとすることを決定している。

  • ISSBのIFRSサステナビリティ開示基準第1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(案)」(以下「S1基準」という。)に相当する基準(日本版S1基準)の開発
  • ISSBのIFRSサステナビリティ開示基準第2号「気候関連開示(案)」(以下「S2基準」という。)に相当する基準(日本版S2基準)の開発

その後、2月にSSBJより「現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画」(以下「本開発計画」という。)が公表されている。本開発計画では、基本的な考え方としてSSBJが開発する基準の範囲とそれぞれの位置付けが、以下のように示されている。
 

図表5 SSBJが開発する基準の範囲とその位置づけ

ISSBの文書のタイプ SSBJでの取り扱い
(1)ISSBが、規範性があると位置付けた文書 原則として、SSBJが開発する基準においても規範性があるものとして取り込むことを検討する。
(2)ISSBが、当初は規範性がないが将来的に規範性がある基準となる可能性があると位置付けた文書
ISSBが、規範性がないと位置付ける期間中は以下(3)と同様に扱う。
 
ただし、ISSBが、規範性があるものとして位置付けた時点で、SSBJにおいても規範性があるものとして取り込むことを検討する。
(3)ISSBが、規範性がないと位置付けた文書
原則として、当該文書の内容は、SSBJが開発する基準において規範性があるものとして取り込まない。
 
ただし、当該文書の内容について、規範性がないガイダンスとして公表することがある。

出所:SSBJ「現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画」より作成
 

SSBJでは今後、ISSBでの審議動向を踏まえたうえで、以下の時期を目標に基準の開発を進める予定としている。

  • 公開草案の公表:2023年度中(遅くとも2024年3月31日まで)
  • 確定基準の公表:2024年度中(遅くとも2025年3月31日まで)

4.ISSBによるIFRSサステナビリティ開示基準(案)の審議の状況

(1)基準の最終化に向けた審議の経緯及び今後の予定

ISSBは、2023年2月の審議において、S1基準及びS2基準について公開草案に対して寄せられたコメントを踏まえ十分な議論及び分析が終了したことを確認し、今後両基準を再公開しないことを決定している。これを受け、現在、S1基準及びS2基準の内容確定のための、書面投票に向けたプロセスが開始されており、2023年第2四半期末(6月末)を目途にIFRSサステナビリティ開示基準が公表される見込みである。

なお、2023年1月~3月の会議において、ISSBは主に以下の事項について暫定決定している(このうち、特に関心が高い「サステナビリティ関連情報の報告時期」については、(2)に詳細を記載する。)

(全般的要求事項に関するもの)

  • サステナビリティ関連情報の報告時期
  • 判断、仮定及び見積りの開示
  • 商業的な機密に属する情報の開示の免除

(気候関連開示に関するもの)

  • 温室効果ガス排出量の開示方法

(2)サステナビリティ関連情報の報告時期に関する暫定決定

ISSBは、IFRSサステナビリティ開示基準を2024年1月1日以降に開始する事業年度から適用することに合意しているが、企業の実務上の課題へ対応するため、適用初年度に限り、財務諸表の公開後にサステナビリティ関連財務開示の公表を認めるという移行のための緩和措置の導入について暫定決定している。

これを踏まえると、企業は以下の手順に従い、サステナビリティ関連情報の報告時期を決定することになる。

図表6 企業のサステナビリティ関連情報の報告時期の決定フロー

アップデート!非財務情報開示の今 第12回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2023年1月~3月までの動向)-6

出所:ISSBの審議資料(2023年2月)を基に作成

5.CSRDの発効を踏まえた対応

2022年12月にEU議会及び欧州閣僚理事会による採択経て官報掲載されたCSRDは、その後2023年1月5日に発効された。発効後、18ヵ月以内にEU各国がCSRDの定めを踏まえた法制化を進めることが予定されている。

また、サステナビリティ報告に含めるべき詳細な項目を定める欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)については、2022年11月に修正草案が欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)から欧州委員会に提出されている。これを踏まえ、2023年6月までに最終基準を採択することを目途として、欧州委員会において検討が進められている。

6.おわりに

本稿では、2023年1月~3月における、非財務情報の開示に関する国内外の動向について概観した。国内では開示府令の改正が2023年3月期の有価証券報告書から適用されることを踏まえ、当該開示への対応が実務上重要となっている。一方で海外では、IFRSサステナビリティ開示基準やESRSの最終化も急ピッチで進められており、いずれも2023年6月を目途に確定が見込まれている。

このような非財務情報を重視し開示を拡充する世界的な潮流は2023年も非常に速いスピードで進む可能性が高いと思われる。企業は自社の事業に関連するであろう各開示基準の動向を見据えつつ、開示義務化に向けた準備を早い時期から進めることが重要と考えられる。サステナビリティに関する自社のガバナンスや戦略等の方針の充実は当然のこと、審議中の開示基準案では多様な項目の開示が予定されており、それらを作成するために必要となる新たな情報収集プロセスや内部統制の検討準備についても全社的な体制の下で進めることが肝要となると思われる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
椎橋 利守

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