アップデート!非財務情報開示の今 第7回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2021年12月までの動向)

「週刊経営財務」(税務研究会発行)3540号(2022年1月24日)に「アップデート!非財務情報開示の今 第7回 非財務情報の開示を巡る国内外の動向(2021年12月までの動向)」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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この記事は、「週刊経営財務3540号」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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1.はじめに

本連載企画「非財務情報の開示を巡る国内外の動向」では、各月における国内外の非財務情報に関する最新動向について解説している。本稿では、2021年12月における動向について、以下に焦点を当てて解説する。

(国内の動向)

  • 金融審議会/Disclosure Working Group(DWG)における審議
  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の設立及び SSBJ 設立準備委員会の設置

(国際的な動向)

  • ISSB審議会の設立に向けた動き
  • 価値報告財団(Value Reporting Foundation:VRF)からの公表物

本文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることを申し添える。

2.金融審議会/DWGにおける審議

2021年9月から、金融庁に設置された金融審議会/DWGで、有価証券報告書における開示要求の拡充を視野に入れた検討がされている。同会議は、概ね1か月に一回のペースで開催されており、これまでESG要素のうち「E(地球環境)」と「S(社会)」に関する開示のあり方について検討が実施されていたが、2021年12月の会議では、「G(ガバナンス)」に係る開示のあり方について審議がされている。具体的には、事務局から、有価証券報告書について以下のような問題提起が示されたうえで議論がされた。

  • 取締役会、指名委員会・報酬委員会それぞれの活動状況の記載欄を設け、「開示頻度」、「主な検討事項」、「出席状況」等について開示を求めてはどうか
  • 監査に対する信頼性を確保するため、監査上の主要な検討事項(KAM)に関する監査役等の検討、監査役等の視点による監査の状況の認識と監査役会等の活動状況、デュアルレポーティングの有無を含む監査の実効性等について説明を求めてはどうか
  • 政策保有株式等について、業務提携等を行っている場合の説明や政策保有株式の議決権行使の基準の説明について開示を促してはどうか
  • 純投資目的の株式についても、重要性を考慮しつつ、一定の開示を求めてはどうか

DWGの会議では、これらの点について全体として賛意が示されており、概ね上記の方向性に沿って検討が進められていくことが想定される。金融審議会/DWGにおける審議は、少なくとも、2022年春頃までは続けられ、春から夏にかけて報告書(提言を含む。)が公表されることが予定されている。

3.SSBJの設立及びSSBJ設立準備委員会の設置

本連載企画の第6回(No.3536 2021年12月20日)で解説した通り、IFRS®財団は国際的なサステナビリティ開示基準を開発する主体として「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB審議会)」を設置することを公表している。これを踏まえ、日本でも、国際的なサステナビリティ開示基準の開発に対して意見発信を行うとともに、国内基準の開発を行うための体制を整備することが必要との見解が市場関係者から示されている。

こうした状況を踏まえ、2021年12月20日に、公益財団法人 財務会計基準機構から、「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)」を設立する旨が公表されている。SSBJは、2022年7月1日に設立される予定であるため、当面の対応として、2022年1月1日に「SSBJ設立準備委員会」を設置することも併せて公表されている。今後、SSBJが設立されるまでの間、SSBJ設立準備委員会が中心となって国際的なサステナビリティ開示基準の開発に向けて意見発信を行うことが予定されている。

4.ISSB審議会の設立に向けた動き

IFRS財団は、国際的なサステナビリティ開示基準を速やかに開発する必要があるというステークホルダーからのフィードバックを踏まえ、急ピッチでISSB審議会の設立とIFRSサステナビリティ開示基準の開発に向けた準備を進めている。

特に、2021年12月16日に、ISSB審議会における基準開発の舵取り役として、Emmanuel Faber氏を議長に選任する旨が公表されている。Faber氏は、2014年から2021年5月までフランスを拠点とする大手食品会社であるダノン社のCEOを務めており、在任中、マルチステークホルダー主義を掲げ、サステナビリティ情報の開示に熱心だったことで知られている。また、2019年9月の国連気候行動サミットで創設された生物多様性に係る大手企業の自主的な取組みである「One Planet Business for Diversity」で議長を務めていた等、サステナビリティ関連の国際的な活動において重要な役割を果たしていたことでも知られている。IFRS財団は、今後、ISSB審議会の副議長を速やかに選任し、審議会の活動をスタートさせるほか、ボードメンバーの選任プロセスを開始することを予定している。

また、ISSB審議会の設置に先立って設けられたTechnical Readiness Working Group(TRWG)による作業について、IFRS財団からウェブキャストを通じて説明がされている。TRWGは、ISSB審議会の設置後、直ちに基準開発が進められるように技術的な準備を行うことを目的として、IFRS財団の主催により、気候変動開示基準審議会(CDSB)、IASB審議会、VRF、TCFD及び世界経済フォーラム(WEF)がメンバーとして参加しているほか、証券監督者国際機構(IOSCO)及び国際公会計基準審議会(IPSASB)がオブザーバーとなっている作業グループである。TRWGは、IFRS財団に対して提言を提出するために8つの領域について検討を行っており、ウェブキャストでは、各領域について図表1に示した説明がされた。

図表1 TRWGからの提言の概要

No 領域 提言の概要
1 全般的な開示要求のプロトタイプ 本連載企画の第6回(No.3536 2021年12月20日)を参照
2 気候関連の開示要求のプロトタイプ 同上
3 基準開発における概念のガイドライン
  • ISSB審議会における基準開発、及びIFRSサステナビリティ開示基準に従って報告する作成者の作業を支援することを目的として、IASB審議会の概念フレームワークを基礎として、概念のガイドラインを定めるべき。
  • 詳細については、図表2参照。
4
基準の構造
  • IFRSサステナビリティ開示基準は、全体として、(1)全般的な開示要求の基準、(2)テーマ別の基準、(3)業種別の基準によって構成されるべき。
  • 各基準は、(1)ガバナンス、(2)戦略、(3)リスク管理、(4)指標と目標によって構成されるべき。
5 作業計画についての検討事項
  • 気候関連の開示基準に加えて、人的資本、水資源、生物多様性、エコシステム、人権等の開示基準について優先順位を検討すべき。
  • マネジメントコメンタリーのほか、気候関連のリスク、無形資産、汚染価格メカニズム等の基準について、ISSB審議会とIASB審議会が共同プロジェクトを実施すべき。
6 基準開発におけるデュー・プロセス
  • 透明性が確保され、十分な協議を経た上で基準開発がされ、十分な説明責任が果たされるよう、基準開発において必要なデュー・プロセスが定められるべき。
7 デジタル技術の活用
  • ISSBタクソノミーのあり方やデジタル技術を活用した基準の提供のあり方等について検討すべき。
8 ISSB審議会とIASB審議会が開発する基準の関係性
  • ISSB審議会とIASB審議会は、ガバナンスや基準開発の具体的な作業段階を含め、多層的な段階で調和が確保できるよう、相互に協働すべき。


また、図表2は、基準開発における概念のガイドライン(IFRS会計基準とIFRSサステナビリティ開示基準の概念フレームワークの関係性を示したものを含む。)に関するTRWGからの提言を図視化したものである。

図表2 基準開発における概念のガイドライン

図表2 基準開発における概念のガイドライン

(出所)TRWGのウェブキャストによる説明資料

5.価値報告財団(VRF)からの公表物

本連載企画の第1回(No.3516 2021年7月26日)でも紹介した通り、国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が統合し、2021年6月に価値報告財団(VRF)が設立されている。VRFは、設立の経緯から、IIRCのフレームワークとSASBの基準を管理・維持している。

VRFは、このうちIIRCの作業領域に関して、2021年12月に「統合的な思考に関する原則(Integrated Thinking Principles):総体的な意思決定の支援(Supporting Holistic Decision-Making)」のプロトタイプを公表している。同プロトタイプでは、図表3に示した内容について説明がされている。

図表3 統合的な思考に関する原則(プロトタイプ)の概要

項目 内容
統合的な思考に関する原則の基本的な考え方 組織は、ビジネスモデルを通じて、6つの領域(パーパス、戦略、リスクと機会、企業文化、ガバナンス、業績)のすべてについて適切な対応がされた場合に、はじめて様々な資本について主要なステークホルダーに対して長期にわたる価値を創出することが可能となる。
統合的な思考に関する6つの領域

統合的な思考を実現するうえでは、以下6つの領域について自社のビジネスモデルを検討すべきである。

  • パーパス:組織が社会のニーズにどのように応えられるか
  • 戦略:財務上の利益を確保しながら、顧客のニーズに応えられるように、どのようにリソースを最大限に活用し、リスクを抑え、機会が得られるか
  • リスクと機会:外部環境がビジネスモデル、戦略等に与える影響をどのように評価するか
  • 企業文化:主要なステークホルダーの信頼を得られるような企業文化をどのように確立するか
  • ガバナンス:企業及び主要なステークホルダーの価値を創出できるよう、どのようにボードが貢献するか
  • 業績:どのように業績を評価し、創出した企業価値をどのように投資家及びその他のステークホルダーに伝達するか
統合的な思考の実践

統合的な思考を実践するためには、以下3つのレベルの検討を経ることが考えられる。

  • レベル1:ボードやトップマネジメントのレベルで、上記6つの領域について自らのビジネスモデルについて適切な問いかけを行う。
  • レベル2:シニアマネジメントが当該問いかけについて評価を行う。
  • レベル3:当該評価を踏まえて組織内の仕組みに落とし込んでいく。
統合報告のフレームワークとの関係 統合的な思考に関する原則は、統合報告のフレームワークと密接に関連している。

VRFは、今後、同プロトタイプに対して寄せられたコメントを踏まえ、2022年上半期中に「統合的な思考に関する原則」を最終化することを予定している。

また、VRFは、SASBの基準に関して、以下を公表している。

  • 金属・鉱業、及び石炭関連ビジネスに関するSASB基準の一部改訂(採掘産業における選鉱屑に関するプロジェクトの一環)
  • 資産運用及び顧客資産の預りに関するSASB基準の一部改訂(資産運用に関するシステミックリスクに関するプロジェクトの一環)

SASB基準は、IFRSサステナビリティ開示基準の開発にあたって重要なリソースとして参照されることが想定さている。また、個別のテーマ別及び/又は業種別基準が公表されるまで、企業は同基準に準拠して報告する上で、SASB基準等を参照することが想定されている。このため、IFRSサステナビリティ開示基準に準拠した報告を検討している企業においては、SASB基準に基づく開示を検討するとともに、自社が関連する業種に係る基準の動向について注視することが必要と考えられる。

6.その他

上記のほか、EUにおいてサステナビリティ報告に関する基準を策定している欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)とグローバルなサステナビリティに関する報告基準の開発主体として知られるGRIとが、EUにおける生物多様性に関する報告基準の開発やGRI基準304「生物多様性」の改訂にあたって協働して作業を行うことが公表されている。生物多様性に関する報告基準は、「E」の分野で気候変動に関する報告基準に続く重要な分野とされているものであり、2021年6月に「自然関連財務情報開示タスクフォース」(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)が設立されたこともあり、関係者による関心も特に高い。EFRAGやGRIにおける検討は、今後、ISSB審議会による基準開発にも影響を与えることが想定されることから、TNFDの動きと併せて注目される。

7.おわりに

本稿では、2021年12月の動向について概観した。2021年は、サステナビリティ関連の情報開示に対する関心が飛躍的に高まった一年であった。

本稿で解説したとおり、ISSB審議会の設立をはじめとする国際的な動向を踏まえ、国内でも金融審議会/DWGの審議が進んでいるほか、SSBJの設立が公表されている。こうした点を踏まえると、2022年はサステナビリティ報告のあり方が一気に具体化していく一年になることが予想される。サステナビリティ報告への対応は、これまでの企業報告制度の改革とは違った異次元ともいえる速さで進んでいる。このため、この一年も、国内外の動向を注視したうえで、前倒しで対応を行っていくことが肝要になると考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
関口 智和(せきぐち ともかず)

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