電動航空機とは何か?

「電磁の羽音」
電動航空機とは、電気エネルギーを使用して飛行する航空機を指す。具体的には従来の熱機関の中核モジュールである「タービン」を電動機関の中核モジュールである「モーター」に置き換えて電力による推力を得る技術と定義できる。但し、一足飛びに電動化することは技術障壁が高いことから、ハイブリッド方式などいくつかの方式が検討されている。(図表1)

完全電動化は、バッテリーがモーターを駆動し、ファンを回転させることで推力を発生させる。飛行中の騒音およびCO2、NOx排気量を最大限削減可能で、機体内で柔軟な配置ができる。しかし、現状のバッテリー容量では旅客用途には足りないという課題がある。よって、完全電動化システムについては、eVTOL・小型機向けの開発から始まっている。

直列ハイブリッドは、熱機関エンジンにより駆動される発電機とバッテリーによりモーターを駆動させ、推力を発生させる。これにより、飛行中のシナリオに応じた熱機関エンジンおよびバッテリー稼働の最適化が図れるものの、発電機の搭載による重量が増加し、完全電動化システムより機器が多く、構造が複雑となる。直列ハイブリッドは、中・大型機向けには既存のtube and wing構造をそのまま使用できる点もメリットとして挙げられる。

並列ハイブリッドは、バッテリーがモーターを駆動し、熱機関エンジンをサポートする仕組みで、離陸・上昇時に必要なピーク出力をモーターで補うことで熱機関エンジンによる駆動を抑えることができる。但し、完全電動化システムより機器が多く、構造が複雑となる。小型機向けには航続距離延長のため、並列ハイブリッドシステムの採用が有力視されている。

図表1:熱機関エンジンと電動化エンジンの変遷と構造

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出所: 各種公開記事を基にKPMG作成

電動航空機の技術課題と技術ブレークスルー

自動車は、内燃機関からハイブリッドエンジン、そしてEVへとシフトすることに多大な資源と時間を投下しているが、未だ発展途上にある。ましてや重力に逆らって空に飛ばす電動航空機となると、その難度は遥かに跳ね上がる。従って、電動航空機の技術課題は山積みしている。

電動航空機の技術課題は、飛行機を飛ばす動力に関わる推進系と飛行機を安定的に運用する装備品系の2つの用途に分類される(図表2)。推進系は、モーター/バッテリー/熱機関エンジン/パワートレインに関わり、装備品系は、デジタル式電子制御器(FADEC1)/電動アクチュエータ(EMA2)/降着装置/空調・与圧系統/全電動化システム(AEA)に関わる。


1. Full Authority Digital Engine Controlの略称。スロットルの動作を電気信号に置換してコンピュータで処理し、燃料制御装置を動作させる技術。
2. Electro Mechanical Actuatorの略称。モーターに機構部品を組み合わせた電気エネルギーを運動エネルギーに変換する装置。

図表2:電動化の技術課題

Japanese alt text:図表2:電動化の技術課題
出所: 各種公表情報、有識者インタビューを基にKPMG作成

まず推進系だが、モーターは2つの課題が挙げられる。一つは、「常電導モーター」の技術革新による出力密度の向上である。具体的には、従来の2倍以上の出力密度である10kw/kgの実現により、商用化が見込まれる数十席のリージョナル機や100席以上の機体の電動推進系への適用が可能となる。もう一つは「超電導モーター」の新規開発による小型・軽量・高出力化である。これは、磁界を発生させるコイルを極低温に冷却すると電気抵抗値がゼロになる超電導線材の適用と常電動型よりも高速回転かつ高出力を実現し、体積と重量をそれぞれ約1/10以下と大幅な小型軽量化することが求められる。こうした課題に対するブレークスルーとして、多重化電動モーターシステムの機能強化が図られている。電動モーターとコントロールシステムを連結させることで故障を自動的に検出し、減少した電動モーターの推力を自動的に回復する。さらに、“Loss of engine power(エンジン出力喪失)”を回避すべく、電動モーターを多重化することで、1つが故障しても推力を安定維持することを可能とする技術である。

バッテリーはエネルギー密度向上が課題となっている。現在のバッテリーは非常に高重量であり、重量比エネルギー密度が低い。これに対応すべく、多機能型バッテリーマネジメントシステム(BMS)が研究されている。BMSは、モニタリング、アラーム、充電状態の推定、通信、バッテリーの健康管理などの機能を実装可能である。因みに、一部の小型電動航空機では、EVメーカーが採用している円筒形リチウムイオン電池を搭載し軽量化を図っている状況にある。

熱機関エンジンは、ハイブリッド化における電動化部品との動作連携が課題となっている。これは、ジェット燃料を燃焼させて、発電後に電動モーターを駆動するため、発電時にエネルギーロスが生じることが問題となる。また、飛行中のシナリオに応じた熱機関エンジンおよびバッテリー稼働のバランス最適化も問われ、エンジンと電動化部品の構造設計要件を一致させることが求められている。この動作連携については、ハイブリッド式電動システムとWETシステムの統合開発が進行している。これは、現行のハイブリッド型と水噴射ターボファン”WET“のシステムを連結させる技術で、燃料効率の向上とCO2排出量の最大25%削減を目指している。

パワートレインは、航続距離に直結するコンポーネントであるため、燃費を削減しつつ、エンジン動力を効率的に駆動輪に伝え、航続距離を安定化させることが目下の課題である。商用化を見込む1,000マイル(1,600km)以上のロングマイル飛行を可能にするには、動力伝達の高性能化を実現するシステム開発が必要となる。また、電力システム制御と熱マネジメントシステムの開発も求められる。具体的には、モーターへの動力伝達時における熱機関エンジンとバッテリーのエネルギー配分最適化を実現するシステム開発と、パワートレインから排出される廃熱回収とエネルギー効率化を実現する材料技術の開発が挙げられる。材料技術開発は途上にあるものの、動力伝達システムについては、ハイブリッド式電動システムの統合が研究開発されている。重要課題となっているピストン式エンジンと高出力発電機からのトルクの動作連携は実現されており、システムを効率的に統合すべく、システム要件を整備するフェーズに移行局面にある。

次に装備品系だが、FADECについては、機体制御システムと電動燃料システムの動作連携が課題である。高温部品に生じる温度上昇や回転数上昇に配慮した上で、エンジンの加減速スケジュール制御や推力応答性の最大化を行い、燃料消費の削減を行うことが求められる。振動・油温などのエンジン状態のリアルタイムデータから故障予測を的確に行うことも重要となる。FADECはエンジンに関わることもあり、熱効率・振動・耐久性とクリアすべき条件が複合的に絡み合っているため、ブレークスルーが非常に難しい。そんな中で期待されるのは、オープンファンアーキテクチャ、ハイブリッド電気機能、電動エンジンアクセサリー、水素推進などの高度な技術を盛り込んだ次世代型エンジンである。これが実現すれば、CO2排出量削減と燃費効率向上の両方が期待できる。

EMAは、電動化では油空圧源が不要になり設備全体はコンパクトにできるが、アクチェータの駆動力が不足するという課題がある。よって、油圧式と同じ出力を実現するためには、モーターサイズが約10倍巨大化してしまうため、これを小型・軽量にすることが何より求められる。

降着装置は、電動タキシングシステムの軽量化と安全性保証が課題となる。前脚車輪または主脚車輪に電動モーターが組み込まれる方式のため、飛行時の重量負担の軽減が求められる。また、離着陸時モーターが回転させられることによって発生する逆起電力の影響軽減も必要となる。加えて、電動脚揚降システムの軽量化と油圧分散システムの設計も求められる。脚揚降システムを電動化することで集中油圧システムを排除可能となり、大幅な質量軽減に繋がるものの、電動脚揚降システム本体重量の最小化がネックとなる。

電動航空機の社会実装とアプリケーション展開の可能性

ICAO(国際民間航空機関)のCORSIA(国際航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム)は、航空業界の脱炭素規制を規定し、2050年までに航空輸送のCO2排出量を2005年比50%に削減することを目標としている。Covid-19パンデミックの影響から回復途上にあるものの、各メーカーは資金不足に苦しんでいる。数年は供給力回復と需要喚起策への対応に追われる見込みで、業界全体として電動航空機に係る研究開発に割くリソースは厳しいと見込まれる。そんな状況ではあるが、グローバルでは、電動航空機の社会実装の枠組みは形成されつつある。(図表3)

図表3:海外技術開発団体の動向3

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Japanese alt text:図表3:海外技術開発団体の動向

出所: 各種公開情報や業界関係者インタビューを基にKPMG分析


推進系・装備品の電動化は、機体OEM・エンジンメーカーが主導することで、各社の連携を促進し、さらに社会実装の蓋然性を高めるべく、プロジェクト・コンソーシアムを組成し、標準化に向けたロビイングも進めている。日本企業もこの枠組みに関与し、社会実装の確度を上げる貢献は加速させるべきであろう。具体的には、先行した技術軌道を経験している自動車業界の要素技術は電動航空機開発に活かせる可能性が高い。
実際、SAE International4は「自動車産業におけるシステム・部品の要素技術の電動航空機向け転用」を期待している。こうしたコンソーシアムでは、参加企業ごとに「この技術は外に開示できる・できない」といった制限があり、連携がスムーズにいかない問題がよく生じる。よって社会実装の第一歩となる標準化においては、キーテクノロジーを有する企業が海外技術開発団体の動きと同様に、自ら主導して連携を促すことも有用と考える。

電動航空機が実現すれば、発展形の事業モデルも視野に入ってくる。具体的には、推進系と装備品電動化部品を統合し、エアライン、メンテナンス業者向けに電動化航空機用部品の提供のみならず、運航管理の支援サービスを提供することが考えられる。(図表4)

3. 標準団体の中でも推進系の電動化は、「SAE E-40」。装備品の電動化については、「RTCA DO-160」が特に重要なコミッティとなる。AIDAは「航空イノベーション推進協議会」の略称。
4. 陸海空のあらゆる動力で動く自力推進の乗り物の標準化推進団体。自力動力により動く機械全てのエンジニアリングに関する標準化機構であり、これには自動車、トラック、船、航空機などが含まれる。Society of Automotive Engineersが正式名称。

図表4:電動航空機の発展形事業モデル

Japanese alt text: 図表4:電動航空機の発展形事業モデル

出所:KPMGデータベース

これには大きくは4つのサービスが考えられる。一つ目は、飛行中の燃料消費量計測・最適化サービスであり、これは、飛行データを取得・分析し、燃料消費量が抑えられる運航モードを選択支援するものである。二つ目は、電動化部品モニタリングサービスである。これは、モーターやバッテリーの状態をリアルタイムでモニタリングすることでエネルギー最適化に寄与する効果がある。三つ目は、スペアパーツの在庫管理である。これはメンテナンス拠点にあるスペアパーツの在庫情報を管理し、メンテナンス計画の立案を支援するものである。最後の四つ目は、フリート管理サービスである。これは、電動化によるステイタイム長時間化に対応する機材繰り計画の策定を支援するものである。

電動航空機は、CO2排出の大幅削減に貢献できることに加えて、騒音も軽減され、都市近郊の空港周辺地域での生活環境改善に寄与すると考えられる。発展形の事業モデルで示したようにIoT技術を活用したソリューションビジネスにより、ユーザーに省力性・自動性といった新たな付加価値が提供できる。こうした省力性と自動性は、ユーザーサイドのエネルギーコストと部材コスト、ひいては資産投資も最適化されることから、サーキュラーエコノミーの実現にもつながる。社会実装にはこれから10年以上の時間を要する。10年以上の年月をかけるからこそ、大きな効果が見込めるわけであり、これからの産学官民連携のあり方を注視したい。

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