POE照明とは何か?

「節約と制御がもたらすネットの光」
POE照明とは、「Power Over Ethernet」という電力とデータを1 本のイーサネットケーブルで照明デバイスへ伝送する技術を指す。POE技術を使用すれば、ネットワークのケーブル接続だけで済むため、コンセントを使わずにネットワーク通信環境であるLANケーブルを通して電力を供給することができる。POE技術によってコンセントの確保が困難な屋外や天井に取り付けるPOE照明の導入が容易になった。

電力とデータをケーブル一本で伝送する技術は、POE以外にもUSBと光・メタル複合ケーブルもある。図表1は一体型ケーブルの技術スペックを比較したものであるが、電力・通信速度と接続距離でトレードオフが生じる。POEは電力と通信速度は相対的に低いが接続距離は長い。一方、USBと光・メタル複合ケーブルは、電力と通信速度は相対的に高いが接続距離は短い。このことからPOEは一つ一つの機器が離れている場合でも効率的にネットワークを構築できるため、照明・音声通信・監視カメラといった用途に適用できるため、ビルディングオートメーションへのイノベーションが期待される。

図表1:一体型ケーブルの技術スペック

図表1:一体型ケーブルの技術スペック
出所:各種公表情報・有識者インタビューに基づきKPMG作成

POE照明は、あらゆる建物で適用可能性がある。温度・湿度のリアルタイムな把握、セキュリティアクセスとの連動、導線分析などが可能であり、データセンター・小売店・病院・工場において適用可能性がある。

​データセンターでは、POE照明に接続されたセンサーによって温度や湿度を自動で測定し、IT機器が正常に作動しているのかをモニタリングすることや、セキュリティを守るために誰が来たのかを把握する必要があるため、センサーを使って人の流れを把握し、人が来る時だけ自動で照明をオンにすることで照明利用を最小化することができる。小売店では、POE照明におけるセンサーを通じた来店顧客の導線分析により、来店顧客が集中する時間帯や利用シーンに合わせて効率的に照明を制御し、通常のLED照明と比べ約30~40%のエネルギーコストの削減が可能となる。病院では、照明センサーによって病棟や手術室の動きを分析することで、活用していない場所は自動調整により消費電力を削減し、また、病室毎に患者に合った照明のパーソナライズ化や医師や看護師等が入ってきたときのみに照明を明るくするといった個別シーンに合わせた照明制御も可能になる。工場では、建屋全体に照明を使用するのではなく、作業エリアにフォーカスした自動での照明制御ができる。

POE照明の技術課題と技術ブレークスルー

POE照明の技術課題として顕著なものが電力効率である。消費電力については、従来の電力線方式は有線・無線(Wi-Fi等)ともセンサーを通じたデータの収集・解析により消費電力を最適化できるが、POEは送電時にロスが発生することから、節電効果は建物の構造に依存する。電力線の配線においても電力線方式は機器を直列接続することで、効率的な配線ができるが、POEはスター型配線1となるためケーブル総長は長くなりやすい。

1. ​​ハブなどの機器を中心に放射状にコンピュータをつなぐ配線形式。各デバイスは個別に通信するため、他のデバイスの影響を受けずに通信が可能。大規模なネットワークでは、多くのケーブルが必要になるため、配線のコストが増える。

​POE照明の節電効率は、単一のコアスイッチが給電可能な範囲当たりの受電デバイスの密度と点灯・消灯の頻度に依存する。よって、範囲当たりの「受電機器の密度」「送電方式とトポロジー」「消灯・点灯の頻度」の3つの要件の最適化が検討されている。(図表2)

​範囲当たりの受電機器の密度が低いとケーブル総長が長くなりロスが生じ、スイッチ自体の電力消費もあるため節電効果が低減する。よって、メーカーとポート数にもよるが、1つのPOEハブに最大50~200程度の受電デバイスを接続し、100m円の中の受電デバイス数をPOEスイッチの接続可能数上限に近づけることで、照明機器あたりのスイッチ数を減らし、ケーブル総長を短くすることが考えられている。

図表2:「将来像と工程表」の改訂に向けて

図表2:PoE照明の節電効果を最大化するための検討項目
出所:有識者インタビュー、各種公知情報を基にKPMG作成

送電方式とトポロジーは、降圧回数を減らし送電ロスを緩和することが検討されている。具体的には、従来のPOEネットワークであるリング式は、POE従来の用途であるIP電話やカメラの接続には適するが、消費電力の多い照明では電力ロスのデメリットが大きい。よって、POEハブを並列化するハイブリッド方式にすることで、POEハブへの給電を最初から低電圧まで降圧し、一度の降圧で済ませ電力ロスを低減する方式が提唱されている。

​1日のうち、使うときだけ適宜点灯可能な箇所は節電の効果が大きい。また、多人数が利用する箇所は多くの場合、利用のたびに点灯・消灯をするのが困難な場合も多く、自動消灯の効果が大きい。よって多数の人が出入りし、頻繁に点灯・消灯する箇所に消灯制御を導入することで消灯・点灯の頻度を最適化する方法が検討されている。

POE照明のアプリケーション展開状況

図表3はPOE照明技術の普及度合いをまとめたものである。センサー・カメラとの連動、データ分析に基づく制御、ビル状況のリアルタイムモニタリング、ITシステムとの統合、照明による避難誘導といったアプリケーションが商業化されている。このように大容量のデータ通信が可能なPOEは、照明や空調などをセンサーやITシステムと統合し、リアルタイムの情報収集・分析に基づく精密な制御に活用される。そんな中で期待されるのが双方向送電である。双方向送電が実現すれば、スマートグリッドへの貢献が期待でき、実際、各国で実験中である。

図表3:POE照明技術の普及度合い

図表3:POE照明技術の普及度合い
出所:有識者インタビュー、各種公知情報を基にKPMG作成

双方向送電のユースケースとして挙げられるのが、POEを活用したスマートシティ構想である。この構想で最も期待される効果が、POEにより電灯と信号を接続することで、電力コストの削減と災害に強いシステムの構築である。(図表4) 主に電力供給面とデータ通信面の2つのメリットが挙げられる。

図表4:POE照明技術の普及度合い

図表4:POE照明技術の普及度合い
出所:Mouser Electronics「Bidirectional Power over Ethernet」、有識者インタビューを基にKPMG作成

電力供給面のメリットは3つある。まず1つ目は電力コストの削減である。これは日中、街灯側で発生する余剰電力をハブに送電し、ハブの運用電力として活用することで電力コストが削減できる。2つ目は緊急時のバックアップである。ハブへの電力供給が遮断されても、P2Pの電力供給およびPOE街灯のバッテリーに蓄積した電力を融通することで一時的な運用が可能となる。3つ目は非常設機器への電力供給である。これは電力供給源に直接接続しないデイジーチェーン(数珠つなぎ)接続により、最寄りの街灯から夜間工事用の機器などへ電力供給を可能とするものである。

次にデータ通信面によるメリットだが、こちらは大きく2つが挙げられる。1つ目は災害時の避難誘導である。避難が必要な状況において、街灯・信号を連動させ、市民を特定の方向に誘導するような点滅パターンにより安全性を確保する機能である。2つ目は交通情報のリアルタイム表示である。街灯・信号のセンサーで収集した情報により、渋滞・事故などの状況を即座に把握し、電光掲示板などに反映する。

世界の自然災害件数は、毎年約400件発生している。これは、世界のどこかで1日1件以上生じている状況にある。こうした自然災害時にも効率よく電力が供給され、避難誘導がなされれば、多くの生命を助けることができる。電力照明は約140年前にエジソンがフィラメント(白熱電球)の安定性を実現したことから普及が始まった。そして、その60年後にゼネラル・エレクトリックのニック・ホロニアックが赤色LEDを発明し、技術ブレークスルーが起こった。LEDで白色・フルカラーを発光させるには、青色LEDが必要であった。この青色LEDの開発は、1985年に故 赤崎勇博士(名城大学終身教授、名古屋大学特別教授・名誉教授)と天野浩博士(名古屋大学特別教授)が窒化ガリウムの単結晶化に成功し、1989年に青色LEDを開発。そして、現在のLEDにつながる高輝度青色LEDの量産技術は中村修二博士(カリフォルニア大学サンタバーバラ校材料物性工学部教授)によって1993年に開発された。1995年以降はこの青色LEDから黄色蛍光体を加えた白色LEDが開発され、さらに紫外線LEDとRGB蛍光体による白色LEDも開発されています。これらの功績により三氏は、2014年にノーベル物理学賞を受賞している。

LED照明の普及により、それまで照明インフラを持たない世界の15億人を照らし、世界の全発電量の約7%(原子力発電所十数基分に相当)を削減するという貢献を果たした。POE照明はさらなる電力効率と災害時の避難誘導という付加価値を提供することで、これまでの照明の発展の歴史を紡ぐDeep-techと言えるだろう。

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