BIMとは何か?

「現実と3Dの共鳴」
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピューター上に現実と同じ建物の立体(3D)モデルを再現する技術を指す。BIMは立体モデルに基づき設計を進めるため、完成イメージを視覚的に把握できる。また、3Dモデルや図面上のパーツに様々な情報を付与できるため、部材数量の確認・概算コストの計算・修繕時期の管理といった多様な使い方ができる。

設計業務には、既に設計や技術文書作成に伴う手作業の作図を自動化する3D CADという技術がある。3D CADは、平面図などの図面を作った上で、別途3Dモデルを作成する。よって、図面とモデルが連動しておらず、設計変更があるたびに図面と3Dモデルの両方を修正する必要がある。一方、BIMの3Dモデルは2次元図面と連動しており、それぞれの変更が即時に全てのデータに反映されるため、2Dと3Dの往来がスムーズにできる。

従来の施設の維持・保全という「施設管理」から施設運営の効率化を志向した「ファシリティマネジメント」が注目を浴びている。ファシリティマネジメントは、設備や施設を定期的にメンテナンスすることで劣化や故障を防ぎ、資産価値低下や業務停滞を未然に防ぐ取り組みを指す。建物は竣工から数十年以上に亘って運用されるが、この建物のライフサイクルコストは、設計・建設・施工にかかるイニシャルコスト、保全・修繕費用・水道光熱費等のランニングコストで構成されるが、建物の場合、イニシャルコストは全体の一部に過ぎず、ランニングコストが大半を占める。よって、ファシリティマネジメントは、建物のライフサイクルコスト(LCC)の最適化が重要となる。更に、断熱・除湿効果のある建材の使用やエネルギー消費効率の高い空調・照明機器の活用といった省エネ化、レイアウトや動線の最適化による労働環境の快適性向上、といった効果も期待される。

図表1:BIMを活用したソリューション

図表1:BIMを活用したソリューション

こうした様々な効果を実現するにあたってBIMが有効となる。BIMは上述した通り、3Dモデルや図面上のパーツに様々な情報を付与できる。よって、ファシリティマネジメントにおいて施設管理者は、漏水発生時には、3D情報に基づく発生箇所の即座に特定する、といった効率的な遠隔監視と精度の高い運用管理ができる。メンテンナンス事業者は、設備故障時に、現場で判断していたメンテナンス内容を3Dモデルに基づいて発生箇所や必要部品等を事前に把握する、といった効率的な保守・保全業務が可能となる。

BIMの技術課題と技術ブレークスルー

BIMの技術課題は、2019年に「建築BIMの将来像と行程表」(建築BIM推進会議)で取り纏められている。ここでは7つの課題がロードマップとして体系的に整理されており、起点となる課題が3つ挙げられている。1つ目がBIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備、2つ目がBIMモデルの形状と属性情報の標準化、そして3つ目がBIMの情報共有基盤の整備である。

日本のBIM普及率は、2021年に国土交通省が行った調査によると46%となっている1一方、世界のBIM普及率は、少し古いが2015年時点で、BIM発祥の地アメリカで8割、ヨーロッパ7割、韓国5割となっている2。日本と世界の差は、上述した3つの課題、つまりBIMデータの標準化の進展度にある。欧米も最初の課題は、BIMデータの標準化がなされていないことであった。具体的には、設計・施工・維持管理のプロセス全体のBIM活用(ワンモデル化)にあたるデータフォーマットの標準化やガイドラインが未整備であった。

欧州ではこうした課題を解決すべく、英国、ドイツ、フィンランドを中心に公共プロジェクトでのBIM活用を義務化した。中でも英国は、BIM活用によって2025年までに建設コストとライフサイクルコストを33%削減することを目標とした。北米は活用状況が州ごとに異なるものの、ウィスコンシン州など一部の州では公共プロジェクトにおいてBIM活用を義務化している。日本でも建築BIM推進会議が、「建築BIMの将来像と工程表(増補版)」「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)」を策定し、(図表2)BIM成熟度を段階的に実現していくプロセスとなっており、実現性も備わっている。

1. 国土交通省 「建築分野におけるBIMの活用・普及 状況の実態調査 確定値<概要>(令和3年1月 国土交通省調べ)」

2. 東洋経済オンライン「ゼネコンの未来を変える『3D改革』の衝撃」

図表2:「将来像と工程表」の改訂に向けて

図表2:「将来像と工程表」の改訂に向けて

出所:第13回建築BIM環境整備部会 資料3
『建築BIMの将来像と工程表の改訂について』をもとにKPMG作成 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001573458.pdf

この流れを受けてか大林組が2023年1月に自社のBIMモデリングルールである「Smart BIM Standard」を1年間限定で一般公開している。また、2023年4月に建設コンサルタンツ協会と日本橋梁建設協会が「橋梁技術のデータ連携実装に向けた共同宣言」を発表するといった動きも出てきた。つまり政策主導での義務化により、協調領域としてBIMを活用するという技術ブレークスルーが生じつつある。

BIMのアプリケーション展開状況

BIMは、冒頭で述べた完成イメージを視覚的に把握できること、つまり可視化が基本価値となる。そこから発展した付加価値が解析・制御・予測となる。図表3は、これら可視化と解析・制御・予測といった提供価値がどのようにアプリケーションに展開されるか、を示した建設DXの全体像である。建設DXは、可視化領域の設計・施工BIM、マッチングサービス、維持・管理BIMはアプリケーションとして確立しており、今後は解析・制御・予測領域の5つのアプリケーションへと進化すると考えられる。

  1. 設計解析:設計段階での高度な熱流体・エネルギー使用量・照明解析ソリューション
  2. 施工管理:施工管理の効率化と3D情報にコスト・時間を加えた5Dでの施工シミュレーションによる高度な工程・コスト管理
  3. ファシリティマネジメント:維持・管理BIMの活用による建物・設備情報の3次元での可視化・管理とAIによる診断・予測
  4. ビル分析:建物内部のデータ収集・分析・利活用による空質管理(対人)とエネルギー制御(対物)
  5. エネルギー最適化:建物内部およびグリッド等の外部データの連携・分析によるデマンドレスポンスなど

図表3:建設DXの全体像

図表3:建設DXの全体像

従来のファシリティマネジメントは、設備の遠隔監視・メンテンナス等の運用管理が基本的なサービスで、扱うデータは、設備の稼働状況等のトランザクションデータが主であり、データの種類は限定的であった。BIMを活用したファシリティマネジメントは、設備メーカーや材質等のマスター情報が付与されたBIMの活用によってデータの幅が拡張する。それに伴い、3次元モデルに基づく効率的な遠隔監視と幅広いデータの統合・分析による精度の高い運用管理を実現し、建物のライフサイクルコストの最適化が可能となる。

世界で消費されるエネルギーのうち、ビルや住宅などの建物で消費されるエネルギーは約2割を占めると言われる。エネルギー消費量の収支ゼロを目指すビルを「ZEB」(Net-Zero Energy Building)、住宅を「ZEH」(Net-Zero Energy House)を実現しようと欧米が先行する形で取り組まれている。BIMは、エネルギー最適化や快適性という社会価値と建設DXという新しい事業の創造という経済価値を両立する技術である。BIMは、政策主導による義務化という官民一体となった社会実装が作用因でもある。つまり、技術と経済と制度の社会機能をエコシステムとして、意図的にデザインする取り組みであり、こうしたケースが確立されると、社会的意義の大きいDeep-Techが益々展開されるに違いない。

お問合せ

執筆者