2025年9月、「企業価値を高めるこれからのウェルビーイング」第2回分科会を開催しました。
同年8月に開催した第1回では、企業としてウェルビーイングを向上させる必要性を議論しましたが、第2回では、社員のパフォーマンス向上につながる具体的な施策と、その推進役である人事部の役割についてディスカッションを通して深めていきました。
1.ウェルビーイング施策の検討で抑えておきたいポイント
具体的な施策案の検討に向け、社員のパフォーマンスを向上させ、企業価値の向上を図るために、ウェルビーイングには3つの捉え方があることをKPMGは提唱しています。
- 心身のウェルビーイング:心身ともに健康であり、ワークライフバランスが取れている状態
- 個の力を最大化する仕事のウェルビーイング:一人ひとりの能力が向上し、成長実感が持てる状態・自身の仕事にやりがいを感じる状態
- 組織への求心力を向上させる組織貢献のウェルビーイング:企業・組織のパーパスや方向性に共鳴し、自身の能力を使ってほかではないその企業・組織に貢献することが幸福である状態
【人事部門が捉えるべき3つのウェルビーイング(施策検討の切り口)】
「個の力を最大化する仕事のウェルビーイング」と「組織への求心力を向上させる組織貢献のウェルビーイング」とは具体的に何を指すのでしょうか。
「個の力を最大化する仕事のウェルビーイング」は、従業員一人ひとりが持つスキル・能力を最大化し、成長実感とやりがいを創出する支援を指します。たとえば、
- 人材を事業戦略に適応させる組織的な教育機会を提供するリスキリング
- 現場で働く社員一人ひとりのキャリアや成長へ寄り添うHRBPの機能化
- 戦略的人事への移行を実現するための人事内のオペレーションの効率化
などが挙げられます。
ディスカッションにおいては、リスキリングへの注目が高まるなか、社員がキャリアを自らデザインできるツールを提供し、社内外での自己実現を企業が支援する取組みや、社員が自ら学習テーマを設定し、企業は学習に必要な補助を行うなど、主体性を引き出す取組みも紹介されました。
一方「組織への求心力を高めるウェルビーイング」とは、企業や組織で働く魅力を高める取組みです。社員が企業のパーパスや方向性に共感し、自分の貢献を誇りに思える状態を目指します。主な施策では、
- リーダーシップの向上
- パーパスや企業理念の浸透
- DE&Iの推進
などが挙げられます。
今回の分科会では、ビジョン・ミッション浸透に向けた社内ワークショップの開催に加え、経営層が自ら管掌外の部門に足を運び、パーパスを自分の言葉で語る機会を設け、経営層自身の意識改革にもつなげているという施策が共有されました。
2.ウェルビーイングを“経営課題”にするために、人事ができること
ウェルビーイングの推進における課題と人事部が果たす役割について、考察を進めます。
今回の分科会におけるワークでは、「仕事・組織貢献」に関するウェルビーイングの自社での取組みと課題について、参加者同士で議論を深めました。ワークのなかで挙がったのは、以下のような課題です。
- 経営層の関心が業績に集中する傾向にあり、ウェルビーイングの対話が進んでいない
- ウェルビーイングの施策は整備しているが、社員に浸透しておらず活用が進んでいない
人事部としてウェルビーイングの推進に取り組んでいるものの、経営層や現場の十分な理解が得られず、施策の展開が思うように進まないという課題に共通する背景には、「ウェルビーイングに対する経営方針の不在」があるのではないでしょうか。
具体的には、ウェルビーイングを経営戦略に組み込み、持続的成長を実現する必要性を十分に認識できていない状況が想定されます。経営層がウェルビーイングを“経営課題”として捉え、語ることができれば、推進の方針が明確になり現場での施策も円滑に展開されていくと考えられます。
しかし、経営層にウェルビーイングの重要性を理解してもらうことは、人事担当者にとって容易ではないでしょう。まずできることは、現在進行中の施策の中で生まれる“小さな変化”を丁寧に蓄積し、人事として経営に対して継続的に伝えていくことです。
その背景には、人事部門の役割が変化していることが挙げられます。人事部門は、企業活動を支えるオペレーション中心の役割から、経営層への提言を通じて企業価値の向上に貢献する組織変革の推進役としての役割が期待されています。このように、人事部門はプロアクティブな部門として経営・現場目線に立った施策を経営層に提言することが求められています。
特にウェルビーイング施策の推進においては、風土や感情といった“ソフト面”の強化が不可欠です。施策の導入だけではなく、組織文化そのものを変革していく視点が求められます。エンゲージメント調査の結果やパーパスの浸透状況など現場で起こっている、いわば従業体験(EX:Employee Experience)の変化は、ウェルビーイングの兆しが数多く含まれています。従業員の「会社への信頼感」や「心理的安全性」が向上しているといった定性的なフィードバックや、離職率の低下、社内コミュニケーションの活性化などの定量的なデータは、ウェルビーイング施策の効果を示す重要な指標です。
こうした変化を人事が敏感にキャッチし、施策との因果関係を整理したうえで、経営層に「ウェルビーイングが業績や組織力にポジティブな影響を与えている」ことを具体的に伝えることが重要です。
たとえば、
- エンゲージメント調査の「成長機会」のスコアが高い若手社員は、定着率が高い
- パーパスの浸透が、従業員の自律的な行動やイノベーションの創出につながっている
といった事例を積み重ねることで、ウェルビーイングを単なる「健康経営」と捉えるのではなく、「経営戦略の一部」であることを示すことができます。
このようなボトムアップのアプローチにより、経営層の理解を促すだけでなく、現場の声を経営に届けることで、施策の改善や意思決定の質を高める好循環を生み出します。
3.施策の企画・検討に向けて、“すぐ”できること
これまで、ウェルビーイング施策を企画・推進するための視点や課題、人事の役割を考えてきました。しかし、実際に取り組むとなると難しく感じることもあるでしょう。人事担当者自身が「ウェルビーイングを通じて、どんな組織をつくりたいのか」を自分の言葉で語れることが重要です。その言葉が現場の共感を生み、経営層との対話の起点になります。
会社を主語にしたウェルビーイング施策を考えることが難しい時は、まず「自分にとってウェルビーイングとは何か、どういう状態か」を、等身大の言葉にしてみることがおすすめです。
最終回となる第3回では、どのように担当者自身の「ウェルビーイング」を言語化するのかについて議論しました。個人のウェルビーイングを深め、自分を起点に自社の目指すウェルビーイングを再定義した方法を紹介します。
KPMGでは、パーパスの浸透やDE&Iの実行など、ウェルビーイング施策をより戦略的に展開していくためのサービスを提供しています。
執筆者
シニアコンサルタント 栗村 愛美
コンサルタント 二村 薫