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      近年、「ウェルビーイング」という言葉を耳にする機会が増えてきました。ビジネス、教育、医療など、幅広い分野で注目されている概念であり、特に企業活動において重要性を増しています。企業価値の向上や持続的成長の観点からも、従業員のウェルビーイングを高めることが不可欠な要素とされています。

      本シリーズでは、組織にとっての「ウェルビーイング」とは何か考えるきっかけとなるよう、新たな視点を提供していきます。

      KPMGは、2025年8月、ProFuture株式会社が主催する「HRエグゼクティブコンソーシアム」の分科会にて、「企業価値を高めるこれからのウェルビーイング」をテーマとしたセッションを開催しました。第1回では、ウェルビーイングの実態と新しい捉え方を紹介し、企業の推進に関する課題について議論しました。

      「HRエグゼクティブコンソーシアム」は、HRの次世代リーダーが集い、主要な人事課題や先進的な取組みについて研究・議論を行うネットワークです。当分科会にも、国内大手企業から約30名の人事関係者が参加し、企業価値向上に向けたこれからのウェルビーイングについて意見が交わされました。

      本稿では、ウェルビーイングに関して人事担当者が直面する課題や、ディスカッションのなかで交わされた多様な意見、それに対するKPMGの所感を紹介します。


      1.世界で注目される「ウェルビーイング」

      世界では、ウェルビーイングが「健康の本質的な要素」として位置付けられており、単なる病気の有無にとどまらず、身体的・精神的・社会的に良好な状態を意味します。働き方や価値観が大きく変化する現代において、従業員のウェルビーイングは、企業の持続的成長に欠かせない土台と言うことができます。

      また、人的資本経営の観点からもウェルビーイングは重要です。人的資本投資が目指す成果は、生産性や売上高、ROIの向上など多岐にわたりますが、それらの成果のベースとなるのが、従業員一人ひとりのウェルビーイングの向上です。

      2.ウェルビーイングの現在地

      ディスカッションテーマ(1):「自社のウェルビーイングの現状」

      グループワークでは、参加企業のウェルビーイングの現状を共有しました。そのなかで見えてきたのは、「ウェルビーイング」という言葉自体は認識されているものの、その意図や目的がまだ十分に明確になっていないという点です。ウェルビーイングには多様な意味があります。企業が自社にとってのウェルビーイングを定義しないまま進めると、個々の価値観に基づいた解釈が広がり、組織としての方向性がぼやけてしまいます。

      だからこそ、自社にとってのウェルビーイングを言語化し、社内外にしっかりとメッセージを発信することが重要です。さらに、経営層がその価値を自ら語り、実践する姿勢を示すことで、組織全体に共通認識が生まれ、取組みの浸透が進むと考えられます。

      一部の企業では、ウェルビーイングを「エンゲージメント」と同義に捉え、エンゲージメントサーベイのスコア向上に注力しています。もちろん、数値の改善は重要な指標です。しかし、真に価値ある取組みとするためには、「自社にとってウェルビーイングが実現された状態とは何か」を明確に定義し、社内で共通認識を築くことが欠かせません。その理想像を描いたうえで、進捗を測るための基準を設定し、具体的な施策を戦略的に展開することが、ウェルビーイングの本質的な向上につながります。こうした取組みは、単なるスコア改善を超え、企業文化の強化や持続的な成長の基盤を築く力となります。

      ディスカッションテーマ(2):「ウェルビーイングが進まない原因と解決の方向性」

      主な課題として挙がったのは「ウェルビーイングを推進する人的リソース不足」です。多くの企業では、施策のPDCAサイクルを継続的に回すための体制が整っておらず、取組みが一過性に終わってしまうケースが見られます。その背景には、ミドルマネジメント層の負担があります。「現場の管理職は日々の業務に追われ、ウェルビーイングの推進まで手が回らない」という声が多く挙がりました。本来、PDCAを回すには現場の理解と実行力が不可欠ですが、その担い手がリソース不足に陥っているのが現状です。

      しかし、ここにこそ大きなチャンスがあります。ウェルビーイングへの取組みは、現場にとっての多くのメリットをもたらします。特に、若手の定着率の向上はその代表例です。20代以下の退職理由には、人間関係や労働時間などウェルビーイングに関する課題が背景にあることが多く、ウェルビーイングへの対応が離職防止につながると考えられます。

      このように、ウェルビーイングは現場にとって重要なテーマであり、積極的に取り組むべき課題です。経営層にとっても重要なのは、この課題を「コスト」ではなく「投資」と捉える視点です。人的リソースの強化や現場の理解促進は、組織の持続的成長と競争力強化につながります。ウェルビーイングを戦略的に推進することで、企業文化を進化させ、人的資本経営の実現に近づくことができます。

      社内全体で改めてウェルビーイング経営の意義を共有し、事業部門の主体的な関与を促すことで、現場と一体となった推進体制の構築が今後ますます重要となります。

      3.ネットワーク型の学びを通じて自社の“最適解”を見出す取組みの意義

      今回の分科会セッションを通じて、改めて浮かび上がったのは、「ウェルビーイング」という言葉の奥深さと、その捉え方の難しさです。健康や働きやすさ、やりがい、理念との共鳴など、さまざまな要素が含まれるため、抽象的で曖昧な印象を持たれやすいのが現状です。

      この曖昧さを放置すると、施策が散漫になり、社員の理解や共感が進みにくくなるリスクがあります。だからこそ、企業に求められるのは、ウェルビーイングを単なる概念ではなく「自社にとっての価値ある状態」として定義し、組織全体で共通認識を醸成することです。

      KPMGでは、従業員のウェルビーイングの定義を以下の3点に分けて考えています(図表参照)。

      • 心身のウェルビーイング:心身ともに健康であり、ワークライフバランスが取れている状態
      • 仕事のウェルビーイング:一人ひとりの能力が向上し、成長実感が持てる状態・自身の仕事にやりがいを感じる状態
      • 組織貢献のウェルビーイング:企業・組織のパーパスや方向性に共鳴し、自身の能力を使ってほかではないその企業・組織に貢献することが幸福である状態

      ポイントは、「仕事のウェルビーイング」と「組織貢献のウェルビーイング」をバランスさせることです。仕事のウェルビーイングが高まった組織では、従業員が当事者意識を持ち、活力をもって社外に目を向け、新たな視点やアイデアを組織に持ち込む“遠心力”が強まります。

      しかし、遠心力だけでは組織としての一体感が損なわれる可能性があります。そこで必要なのが、組織貢献のウェルビーイングを高めることです。これにより、組織に強い結束力をもたらす“求心力”が生まれ、健全なバランスが保たれます。この両輪がそろうことで、組織のパフォーマンスは最大化され、結果として企業価値の向上につながります。ウェルビーイングは、単なる福利厚生や働きやすさの施策ではなく、組織の競争力を高める戦略的な取り組みです。遠心力と求心力のバランスを設計することは、人的資本経営の実現に直結し、持続的な成長の基盤を築く鍵となります。

      【図表:人事部門が捉えるべき3つのウェルビーイング】
      Japanese alt text: Future of HR 2024-25_図表3

      出所:「Future of HR 2024-25」(KPMGコンサルティング)


      今回の分科会では、ウェルビーイングの捉え方に関する議論を通じて、「知見をさらに深めたい」「自社に合った取組みを見つけたい」という参加者の高い関心と熱意が強く伝わってきました。近年、ウェルビーイングは注目度が急速に高まっており、特に人事領域では試行錯誤が続いています。

      一方で、海外と比較すると、日本企業におけるウェルビーイング推進はまだ発展途上であり、自社だけで明確な道筋を描くことは容易ではありません。だからこそ、同じ課題を抱える他社との対話や情報共有は、取組み状況や課題を整理し、自社にとっての「最適解」を見出すための重要なステップとなります。

      このようなネットワーク型の学びは、単なる情報交換にとどまらず、企業文化の進化や人的資本経営の実現につながると考えます。ウェルビーイングを戦略的に位置付け、他社との知見を活かしながら自社モデルを構築することが、持続的な成長と競争力強化の鍵となります。

      次回以降の分科会では第1回である今回整理した「現在地」から「目指すべきゴール」へと至るためのアクションプランの検討に取り組みました。自社におけるウェルビーイングの解像度をより高め、ゴールに向けた具体的な取組みの推進を紹介します。

      4.さいごに:ウェルビーイングは企業文化や人材戦略の根幹にかかわるテーマ

      グループワークを通じて、参加者からは、「講義やグループワークを通じてウェルビーイングに対する多角的な視点を得るとともに、自社の現状を改めて把握することができ、大変有意義な時間となった」「チームでの会話により、各社の悩みや、自分の現在地についても理解が進み、とても貴重な時間となった」との声が寄せられました。今回の分科会を通じて、ウェルビーイングは単なる福利厚生ではなく、企業文化や人材戦略の根幹にかかわるテーマであると再確認することができました。

      KPMGでは、ウェルビーイング向上施策に向けた、「経営理念・パーパス浸透支援」や「DE&I推進支援」、「人材ポートフォリオ策定支援」等のサービスを提供しています。

      また、日本企業の人事部門における今後のトレンドや直面する課題、企業価値の向上に直結する「ウェルビーイングの実現」のために取り組むべきポイントをまとめたレポート「Future of HR(人事の未来)2024-25 ~企業価値を高めるこれからのウェルビーイング~」を刊行しています。あわせてぜひご覧ください。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      コンサルタント 二村 薫

      企業活動にて人事部門が考えるべき「従業員のウェルビーイング」に着目し、取り組むべき2つのミッションと6つのテーマを考察します。

      KPMGは、国内外の多様な実績に基づき、人材の潜在能力を最大限に引き出すような、ガバナンス体系や組織機能の変革を支援します。

      変動するビジネス環境においても成果を出し続ける組織の実現に向けて、リモートワークにおける従業員の“働きがい”向上を支援します。

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      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

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