会計・監査ダイジェスト 会計及び監査を巡る動向 2020年9月号

会計・監査ダイジェストは、日本基準、国際基準、修正国際基準及び米国基準の会計及び監査の主な動向についての概要を記載したものです。

会計・監査ダイジェストは、日本基準、国際基準、修正国際基準及び米国基準の会計及び監査の主な動向についての概要を記載したものです。

ハイライト

今月は、主に以下のような留意すべき情報が公表されています。
 

2021年末のLIBOR公表停止を見込み、LIBORを参照する金融商品についてヘッジ会計に関する特例的な取扱いを設けるものである。

「会社法の一部を改正する法律」等の施行に伴い、株式交付に関する定めの追加や、取締役等の報酬等に関する定めの新設等を提案している。

事前交付型と事後交付型に区分して基本的な会計処理及び開示を提案している。

 

1.日本基準

法令等の改正

【最終基準】
ASBJ、「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」を公表

ASBJは2020年9月29日、実務対応報告第40号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」(以下、「本実務対応報告」)を公表した。本実務対応報告は、2021年12月末をもってLIBORの公表が停止されることが見込まれていることを受けて、LIBORを参照する金融商品について必要と考えられるヘッジ会計に関する特例的な取扱いを設けることにより、金利指標改革に起因するLIBORの置換に直接関係のある契約条件の変更・契約の切替えについてヘッジ会計の継続が可能となるような取扱いを定めるものである。

具体的には主な内容は次のとおりである。

  • ヘッジ会計の原則的処理方法(繰延ヘッジ)

ヘッジ対象となる予定取引の実行可能性の判断に際しては、ヘッジ対象の金利指標が既存のLIBORから変更されないとみなすこと、また、ヘッジの有効性評価に関する事前テストの実施においては、ヘッジ対象及びヘッジ手段の参照する金利指標が既存の金利指標から変更されないと仮定することを認めている。

さらに、事後テストにおける有効性評価の結果、ヘッジの有効性が認められなかった場合であってもヘッジ会計の継続が認められる。この扱いはヘッジ対象及びヘッジ手段の双方の契約において後継金利指標への置換が生じた時点以降についても適用が可能であり、2023年3月31日以前に終了する事業年度まではヘッジ会計の継続適用が認められている。2023年4月以降の事後テストの取扱いは公開草案には明記がなかったが、有効性評価の算定起点について原則はヘッジ開始時としつつ継続適用を条件に金利指標置換時も認めることが今回新たに明記された。

また、ヘッジ会計が金利指標改革とは関係なく中止された場合で、ヘッジ対象に本実務対応報告の対象となる契約切替が生じた場合でも、ヘッジ会計は終了とはならず、切替え後の契約に基づきヘッジ対象に損益が認識される時点までヘッジ手段の損益等の繰延処理は継続されることが、公開草案へのコメントを受けて新たに明記された(本実務対応報告第17項)。

  • 時価ヘッジ

公開草案では時価ヘッジの取扱いが明記されていなかったが、本実務対応報告では時価ヘッジを適用する場合にも、繰延ヘッジと同様の取扱いを認めることが明記されている。

  • 金利スワップの特例処理

金利スワップの特例処理についても繰延ヘッジに準じた措置を設けることで、2023年3月31日以前に終了する事業年度までの継続適用を可能とする対応がされている。

  • 振当処理

振当処理についても同様に、2023年3月31日以前に終了する事業年度までは当処理の適用の継続を可能とするための措置が定められている。

本実務対応報告は公表日以後適用できる。ただし、公表日より前にヘッジの中止又は終了が行われたヘッジ関係には、上述の本実務対応報告第17項を除き適用できない。また、本実務対応報告の取扱いはヘッジ関係ごとに適用を選択できる。

なお、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動については不確実な点が多いことから、本実務対応報告の公表から約1年後に金利指標置換後の取扱いについて再度確認する予定であることが明らかにされている。

あずさ監査法人の関連資料: ポイント解説速報(2020年10月7日発行)

【公開草案】
法務省、「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正案」を公表

法務省は2020年9月1日、「法務省関係政令及び会社法施行規則、会社計算規則その他法務省令の改正案」(以下、「本改正案」)を公表した。

本改正案は、「会社法の一部を改正する法律」等(2019年12月4日成立、同月11日公布)の施行に伴い、関連する会社計算規則や会社施行規則等の改正を行うためのものである。

会社施行規則については、役員等の報酬に関する事項、役員等賠償責任保険契約や補償契約に関する事項等について、事業報告における開示事項の拡充を提案している。

一方、本改正案で提案されている会社計算規則の改正は主に以下のとおりである:

  • 改正法で株式交付制度が新設されたことを受け、株式交付における株主資本等変動額に関する定めを新設
  • 改正法で取締役又は執行役の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができるようになったことを受け、そのような場合に増加する資本金の額等についての定めを新設

本改正案は、原則として、改正法の施行日(2021年3月1日を予定)から施行される予定である。また、経過措置が設けられる予定である。

コメントは2020年9月30日に締め切られている。

あずさ監査法人の関連資料:ポイント解説速報(2020年9月10日発行)

会計基準等の公表(企業会計基準委員会(ASBJ))

【公開草案】
ASBJ、実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等を公表

ASBJは2020年9月11日、実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」(以下「本公開草案」という)等を公表した。本公開草案では、2019年12月に改正された会社法第202条の2により新たに定められた取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象として、以下の事前交付型と事後交付型に区分して基本的な会計処理及び開示を提案している。

区分 取引の定義の内容
事前交付型
  • 対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行う。
  • 権利確定条件が達成された場合、譲渡制限が解除される。
  • 権利確定条件が達成されない場合、企業が無償で株式を取得する。
事後交付型
  • 契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されている。
  • 権利確定条件が達成された場合、株式の発行等が行われる。

その概要は以下のとおりである:

  • いずれも取引の性質にはストック・オプションとの類似性があることに鑑み、費用の認識や測定については、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」に準じた取扱いを提案している。
    即ち、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて株主資本(事前交付型)もしくは「株式引受権」(事後交付型)を相手に費用計上する。「株式引受権」は、新株予約権と同様の位置づけとして、純資産の部の株主資本以外の項目に今回新設が提案されるものである。
  • 一方、割当日の取扱いや失効等の取扱いについては事前交付型と事後交付型では取引の仕組みが異なるため、取引形態毎の定めを提案している。
  • 開示についてもストック・オプション基準等の取扱いを基礎とした注記事項が提案されている。

本公開草案の実務対応報告は、改正会社法の施行日以後に生じた取引から適用することが提案されている。

コメントの締切りは2020年11月11日である。

あずさ監査法人の関連資料: ポイント解説速報(2020年9月17日発行

日本基準についての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(日本基準)

2.国際基準

新たな基準・公開草案等の公表として、今月、特にお知らせする事項はありません。

IFRSについての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(IFRS)

3.修正国際基準

新たな基準・公開草案等の公表として、今月、特にお知らせする事項はありません。

修正国際基準についての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(修正国際基準)

4.米国基準

会計基準等の公表(米国財務会計基準審議会(FASB))

【公開草案(会計基準更新書案(ASU案))】

ASU案「フランチャイズ企業-顧客との契約から生じる収益(サブトピック952-606):実務上の便法」の公表(2020年9月21日、FASB)

フランチャイズ企業(フランチャイザー)は、加盟店(フランチャイジー)がフランチャイズに加盟する際、フランチャイズ関係の設立や様々な開店前サービスの提供の対価として、加盟料(初期のフランチャイズ・フィー)を一括で受け取ることが多い。当該加盟料の会計処理について、トピック606「顧客との契約から生じる収益」の適用にあたり、非公開のフランチャイズ企業(特に設立後間もない又は小規模の企業)から、収益認識の時期及び金額の分析に関する実務上の困難さが指摘されていた。また、FASBは、いくつかの非公開のフランチャイズ企業が、履行義務の識別にあたり、トピック606へのあてはめを行わずに、加盟料は常にライセンス期間にわたって認識されるとみなしている場合があることを懸念した。

本ASU案は、新たなサブトピック952-606を追加し、非公開のフランチャイズ企業が受け取る加盟料収入の会計処理にあたり、一定の要件を満たす場合、加盟店に提供する開店前サービスを単一の履行義務とみなす実務上の便法を導入することを提案している。また本便法を適用するための設例を含んでいる。本便法により非公開のフランチャイズ企業は開店前サービスが知的財産に係る履行義務と別個かどうかの検討を簡便的に実施できるようになり、多くのケースでトピック606の意図とより近い会計処理が行われ、企業間比較可能性が向上するとFASBは考えている。また、本ASU案は、非公開のフランチャイズ企業に、本便法の適用にあたり、ロイヤルティ(継続的なフランチャイズ・フィー)及び当該ロイヤルティと継続的なサービスとの関連性の評価を要求することを提案しており、もしロイヤルティ収入が、サービスに係る継続的な費用に合理的な利益を加えた額を回収できない可能性が高い場合、本便法の適用が認められないことが提案されている。

適用時期及び経過措置については、企業がまだトピック606を適用していない場合、トピック606と合わせて本ASU案を適用することが提案されている(2019年12月15日より後に開始する事業年度及び2020年12月15日より後に開始する事業年度の期中期間から修正遡及アプローチ又は完全遡及アプローチにより適用する)。一方で、企業が既にトピック606を適用している場合、本ASU案を2020年12月15日より後に開始する事業年度及びその期中期間から適用することが提案されている。この場合、トピック606が適用された日より遡及して適用することが提案されている。

コメントの締切りは2020年11月5日である。

上記のほか、以下の最終基準の公表があった。
ASU第2020-07号「非営利企業(トピック958):非金融資産の拠出を受けた非営利企業による表示及び開示」の公表(2020年9月17日 FASB)

KPMGの関連資料:Defining issues(英語)

米国基準についての詳細な情報、過去情報はあずさ監査法人のウェブサイト(米国基準)



 

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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