本稿では、国際情勢や各国・地域の規制・政策に関するリスクを中心に、2026年の注目テーマを紹介します。
また、本記事の内容は2026年1月27日時点の情報に基づいて、作成しています。
2026年の注目テーマ
| 注目テーマ | |
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| 米中関係 | 妥協を迫られる米国 |
| 米国 | 世界を揺さぶる国内の混乱 |
| 東アジア | 不安定な日中関係 |
| ロシア・ウクライナ | 苦境の続くウクライナ |
| 欧州 | 前途多難な自律化 |
| グローバルサウス | 経済安保の要衝となるグローバルサウス |
| サステナビリティ | 一進一退のサステナビリティ施策 |
| 経済安保 | 常態化に向かう経済安全保障 |
| テクノロジー | AI進化と副作用 |
2026年注目テーマを捉える視点 ― 続・米国を巡る世界の変化
「米国が世界秩序全体を支え続ける時代は終わった」。米国のトランプ政権は、2025年12月に公表した国家安全保障戦略(以下、NSS)のなかでこう宣言しました。価値による介入を戦略の中心に置かず、米国第一主義を掲げ、国家利益と主権を最優先する国益中心のリアリズムへの転換を強調しました。これらはすでに、関税をはじめとする保護主義的な通商・産業政策、国際援助の停止、グローバルな課題における国際協調の軽視といった形で現れています。
トランプ政権は、伝統的な同盟国との協調や民主主義という価値観よりも、大国間の勢力均衡、「ディール」を通じた商業利益の確保を重視しています。2026年に入り、トランプ大統領は、計66の国際機関から米国が脱退するよう指示する覚書に署名しました。こうした米国の立ち振る舞いの変化によって、G7・G20の停滞、国際機関の機能不全への懸念が高まるなか、価値や規範、パワーを巡る国際秩序が過渡期に差しかかっています。
2026年は米国で中間選挙が控えており、政治や経済、軍事的にも米国の目線がより自国の国益に向かう事が予想されます。トランプ政権は、自国を含む西半球重視の姿勢で、国際介入を縮小するモンロー主義的な方針を掲げています。米国による「法の支配への軽視」とも受け取れる行動は国際秩序に影響を与えています。年初にベネズエラに対して行った、大規模攻撃と大統領拘束のニュースは記憶に新しいところです。中南米を含む西半球への安定と安全保障に米国が注力する姿勢を示した格好ですが、攻撃が国際法違反だったとの指摘があり、かつ軍事行動を議会に事前通知しなかった点が問題視されています。さらには、非合法を理由に指導者を排除する「危険な前例」になったとして、他国による武力行使のハードルを下げ、現状変更の動きを助長させる懸念も生じています。
トランプ政権は、国内産業優先、エネルギー生産強化、軍需産業再建の方針に加え、中国との競争を念頭に経済安全保障を国家安全保障の基盤に位置付けました。アジアを経済安全保障の確保やサプライチェーン強靭化の主戦場として捉えており、米国と同盟国・パートナーとのAI・半導体・重要鉱物といった戦略物資を巡る連携枠組みは進展するでしょう。
米国は現時点で、ウクライナ問題の解決を謳いながらも、ロシアに対しては「戦略的安定の再構築」を掲げ、外交・安保で限定的な協力関係を模索しています。また、対中関係では貿易と競争のバランスを取ろうとしています。台湾政策の現状維持の方針を示しつつ、対中抑止において、日本を含めたインド太平洋地域の同盟国・パートナーと連携して対処する旨を掲げています。2026年も中露のパートナーシップの強化や、中露は、グローバルサウスの取込み(新興国の枠組み「BRICS」等)を米国に対して優位に進めています。日本・欧米企業は、サプライチェーンの強靭化などに向けてASEAN・インドなど(中国+α)との連携を進める傾向が強まると想定されます。
米国は欧州への関与の比重を徐々に低下させ、特に安保で欧州の自律を促そうとしています。欧州側も欧州防衛に係る米国の関与をつなぎ止めつつ、安保での自立に向けた施策を強化しています。2026年は米欧の分離に一定の歯止めがかかるかに焦点があたりますが、極右の台頭や財政の問題など、欧州は内部でも不安要素を抱え情勢は予想しにくくなっています。
2026年に入ってからも中東情勢を巡る不透明感が続く一方で、中東の地政学的意味合いに変化が生じています。中東はエネルギー供給地であり紛争・安全保障の焦点と認識されてきましたが、近年はこれに加えて、戦略投資の受け皿や先端技術(AI・データ・半導体等)の競争舞台、そして米中覇権競争の空間としての意味合いも強まっています。米国は中東諸国とエネルギー・インフラ・AI・半導体含む先端技術で投資協力拡大を進めているほか、中国側もAI・5G・デジタル分野での技術協力の検討を推進しています。
トランプ政権は、日本を含むインド太平洋地域を「主要な経済的・地政学的な戦場」と位置付けています。日本は日米同盟を基軸にしつつ、近年は欧州やアジアなどと自由貿易を結び、経済や安全保障面での協力関係を進めています。米国が同盟国に対して安保で自律を促し、国際秩序を支える意欲を失いつつあるなかで、日本としては米国のアジア関与をつなぎとめ、欧州やアジアのパートナーと連携し、法の支配や自由貿易の維持といった国際秩序の安定に貢献する役割を果たすことが求められています。
【米国 国家安全保障戦略:過去の政権との比較】
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
米中関係 ―「妥協を迫られる米国」
米中は2025年4月の米国による「相互関税」発表以降、一時は高関税の応酬に至ったものの、市場の反発や中国による対抗策で米国が窮した結果、関係が小康状態へと向かいました。中国の2025年輸出実績はトランプ関税の影響などで米国向けを減らす一方、新興国向けを拡大し、輸出は前年を上回る水準でプラス成長を維持しました。一方で米国は交渉の過程で、レアアースや造船、大豆などでの中国依存を露呈した格好です。
2026年には米中首脳会談が予定されています。米国としては、会談を控えるなかで中国を刺激する措置はとりにくいうえ、中間選挙を前に世論や市場の反発を受ける関税政策は避ける公算です。会談では一時的なディールや融和が演出される可能性がありますが、2026年もレアアースなどを巡って中国に妥協を余儀なくされるリスクは続くと思われます。米国は重要鉱物含む戦略物資確保に向けて、日本、オーストラリア、韓国といった同盟国との連携を重視する戦略へと一層舵を切ることが想定されます。
中国にとって2026年は第15次五ヵ年計画が始動の年です。デフレ懸念や不動産不況は残るものの、新エネルギーやハイテク領域で製造拠点としての地位をさらに確立しつつ、産業高度化と国外販路開拓で中長期的な成長を追求する方針です。米中双方は、ハイテク規制や重要鉱物を巡って対立の火種を残しつつも、全体としては、自国の経済やサプライチェーンの脆弱性への対処を優先する方向に向かう可能性があります。
| ビジネス上の着眼点 |
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出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
米国 ―「世界を揺さぶる国内の混乱」
2026年の米国政治最大の焦点は秋に予定される中間選挙です。中間選挙はトランプ大統領への事実上の信任投票となりますが、結果に重要な影響を与えるであろうトランプ氏の支持率は、過去最長の政府閉鎖の影響もあり年末にかけて40%を下回る結果も出ています。中間選挙で共和党が多数派を維持すればトランプ氏が勢いづく一方、多数派を失えば、政策の停滞・妥協を余儀なくされるリスクがあります。大統領所属政党が中間選挙で議席を失う傾向にあるなかで、現時点では、下院で民主党が多数を得るシナリオも指摘されています。
もともとトランプ氏に有権者が期待する項目の一つは、物価高対策などの経済対策と政治改革でした。食料品価格は高止まりし、国民の不満は残っているほか、富豪エプスタイン氏の事件についての文書を巡る問題では開示が遅れ、トランプ氏の熱心な支持層の離反が起きかねない事態となっています。中間選挙の前哨戦となった2025年11月の地方選では、物価高対策批判を追い風に民主党候補が勝利を収めました。株価やインフレ、雇用といった経済情勢が中間選挙の影響を与えると言えるでしょう。
トランプ氏は就任以降、大統領権限の拡張を進めており、選挙結果や議会の意向を無視した強硬策に出る可能性も指摘されます。予測可能性の低いトランプ氏の振る舞いは、米国でビジネスをする企業にとっては依然として懸念材料となります。また、ベネズエラへの軍事行動を巡っては、議会や国際法軽視とも言える姿勢が予測可能性を損なうとともに、与党共和党と民主党支持層の間で意見が割れている点も留意が必要です。1期目に中間選挙で敗れたトランプ氏は、議会承認を必要としない通商政策や外交政策に重点をシフトしました。米最高裁ではトランプ氏の政策の合憲性をめぐる審理が続いていますが、たとえ判決で一部の効力が失われても、大統領権限で関税政策や移民政策を維持しようとすると思われます。また、関税政策や日本企業の北米サプライチェーンへの影響視点としては、2026年に見直し期限を迎える米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の再交渉が予定されており、トランプ氏の出方が注目されます。
| ビジネス上の着眼点 |
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出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
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東アジア ―「不安定な日中関係」
高市早苗首相は2025年に実施した政権発足後、習近平氏との首脳会談では「戦略的互恵関係」の推進を確認しましたが、台湾有事に関する国会答弁が中国の反発を招き、日中関係は再び緊張しています。中国側は、自国民への訪日自粛要請や日本産水産物の事実上の輸入禁止を表明、交流イベントや興行イベント中止なども相次ぎ、観光や消費・エンタメなどを中心に影響が拡がりました。その後、日本に対するデュアルユース物資に対する輸出規制の強化が表明され、日本の製造業を中心に、影響が出る恐れが指摘されています。
今後の日中関係を考えるうえでは、米中関係が焦点となります。中国は対日政策を米中関係に応じて決める傾向があるためです。米中関係が改善したと見れば、日本に対して強く出やすくなると考えられます。米国のトランプ大統領は、2026年中に予定する米中首脳会談を見据えて、日中関係や台湾問題に深く言及せず、中国側を明確に批判することを避けています。加えて、中国と欧州諸国の関係も重要です。欧州諸国が米国への不信感を募らせるなかで、中国との関係改善に動けば、中国が日本に対して宥和的な態度を取るインセンティブはさらに小さくなると思われます。
中国にとっての台湾問題の重要性を考慮すると、日中の短期間での緊張緩和は困難とも言えるでしょう。米中関係が悪くはない状況下で、日中関係で妥協を急ぐ理由は中国側に乏しいと言えます。世論や国内経済など今後の内政状況次第では、対日姿勢をさらに強硬にすることも想定されます。ただし、中国としては、自国経済への影響波及の懸念から、長期間にわたる経済的措置は取りづらいとも考えられます。2026年には第15次五ヵ年計画が始動するなかで重点産業への梃入れを続けており、厳しい外交的姿勢の一方で、日本からの投資を促したいという考えを残しています。
| ビジネス上の着眼点 |
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【諸外国の対中直接投資額の推移】
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
ロシア・ウクライナ ―「苦境の続くウクライナ」
2022年に始まったロシアとの全面衝突で、ウクライナの苦境が続いています。すぐに衝突が終結するかは見通しにくいですが、和平交渉は活発に続くでしょう。大きな争点は欧米諸国がウクライナへの安全の保証をどう提供するかと、ロシアによる占領地をどう取り扱うかです。慎重に条件を見極めたいウクライナに対し、米国は早期に交渉をまとめようと圧力をかけています。米国に代わって欧州が中心となって軍事支援を続けていますが十分ではなく、物量で勝るロシアがじわじわと占領地を広げている状況です。ウクライナにとって望まない方向で2026年に停戦に向けた議論が進む恐れもありそうです。
こうしたなか、空路、航路の制限などによる物流の乱れやコストの高止まりが引き続きビジネスに影響を与える可能性があります。欧州ではドイツなどに不審なドローンが相次いで飛来して空港の一時閉鎖などが起きており、類似の事案が頻繁になれば保険料を含めて物流コストに値上げ圧力がかかりそうです。
エネルギーについては、ウクライナ問題を起点にした2022年のような価格高騰が起きる可能性は高くないとの分析が一般的ですが、予想を難しくする要素もいくつかあります。1つ目は米国がインドなど他国にロシア産エネルギーを購入しないよう働きかけている点で、ロシア産エネルギーが行き場を失えば市況には価格の上昇圧力がかかる可能性があります。2つ目が欧州の需要動向で、寒波などでLNG(液化天然ガス)需要が急増すれば世界のLNG相場に上昇圧力がかかります。欧州はパイプライン経由のロシア産天然ガス購入からの脱却を目指し、世界でLNGの確保競争が起こりやすくなっています。日本にとっても無関係ではいられませんが、伝統的に日本のLNG契約は7~8割が原油価格連動の長期契約とされていて、LNGの急激な価格変化に比較的強いとされることは把握しておく必要があります。
【米国と欧州のウクライナ支援額推移】
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
| ビジネス上の着眼点 |
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欧州 ―「前途多難な自律化」
欧州連合(EU)は米中露とそれぞれに緊張が高まり、自律性を高めなければいけないとの危機感を強めています。2026年も防衛産業の振興、サプライチェーンの強靭化などに重点的に取り組むと思われます。防衛については、EUの牽引役であるドイツとフランスのほか、ロシアと地理的に近いポーランド、バルト三国といった東欧諸国で投資や連携が中長期的に活発になると考えられます。サプライチェーン強靭化では、重要鉱物、半導体、クリーンエネルギー技術といった分野に特に関心が高く、各国政府は支援を継続・拡大するでしょう。一方でポピュリスト的な政権が誕生したり、極右政党が議席を大幅に伸ばしたりといった事象が各国で起き欧州政治は不安定になっています。こうした政権や政党はEUに懐疑的で、EU全体での産業政策などについて意思決定が遅くなる恐れにも注意が必要です。
なお国別にみると、フランスでのビジネス環境の推移に注目です。コロナ禍やインフレ対応などを受けて財政が悪化していますが、現マクロン政権は議会で少数与党であるため有効な財政再建策が打ち出せていません。仏国債の格付けも下がっており、財政の余裕がなくなればビジネス支援も遅れる可能性があります。2027年の大統領選を控えて各党が存在感をアピールしており、予算成立も遅れ気味になっています。
【欧州を取り巻く内的・外的環境】
出所:KPMG作成
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グローバルサウス ―「経済安保の要衝となるグローバルサウス」
新興国を中心とした国家の総称「グローバルサウス」は今後、供給網・資源・地政学の結節点であり、国家間の競争が集中的に及ぶ地域=「経済安保上の要衝」としての注目度がますます高まっていくでしょう。貿易・デジタル・経済安保等で存在感を増す国が多いなか、東南アジア・アフリカは米中双方から投資が流れ込んでおり、鉱物取引も多様化しています。欧州はグローバルサウス諸国とのFTA締結を急いでおり、日本も、インドからアフリカを新たな重要経済圏に位置付けています。
BRICS+は10ヵ国体制で、グローバルサウスが存在感を強める枠組みとして注目されています。BRICS拡大はG7のカウンターウェイトとしても注目されますが、多くのグローバルサウス諸国はG7や中露・BRICSとも同時に関係を持つ戦略的曖昧性を採用するなど、明確な陣営選択を避け、自国の利益最大化を志向しています。トランプ関税の影響で明暗が分かれており、グローバルサウスが結束を強めるかたちでBRICS加盟国が増える事態となる可能性もあります。
グローバルサウスは、企業の海外戦略においても「成長フロンティア」であると同時に「戦略リスクの集中地域」になっている点には留意が必要です。サプライチェーンの争奪や資源確保競争が激化するなど、グローバルサウスを巡る綱引きは活発化していくでしょう。加えて、これまでの単純な経済協力だけでなく、安全保障政策との連動が顕著にあらわれるほか、グローバルサウス発の地政学リスクにも注目が集まることも想定されます。各地域や国レベルの政治・政策リスクの高まりが、外資投資や協力関係の形成に直接影響する可能性があります。
【グローバルサウスを巡る経済施策一覧】
出所:公表資料を基にKPMG作成
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サステナビリティ―「一進一退のサステナビリティ施策」
世界のサステナビリティ施策は理想よりも現実を重視した調整局面に入っており、2026年は一進一退となる可能性があります。自国産業強化を優先するなどして後退する政策が出る一方、ますます深刻化する気候変動への危機感などから前進する分野も残ります。
地域別に見ると、米政権はこの分野に消極的で、これまでも気候変動の枠組み「パリ協定」から離脱を発表するなどしてきました。「1つの大きく美しい法(One Big Beautiful Bill Act, OBBBA)」により、再生可能エネルギー普及にかかわる補助金の縮小も決めています。2026年も環境政策を担う米環境保護局(EPA)は排ガス規制緩和など脱炭素に逆行する施策を検討していると報じられています。
一方で地方レベルでは、カリフォルニア州など環境意識が相対的に高い民主党優位の州は連邦政府の圧力を受けつつも温暖化対策などで政策の推進を目指すと思われます。中間選挙で民主党が下院過半数を取ればこうした傾向は勢いづく可能性があり、米国で全面的にこの分野が衰退するわけではないことに注意が必要です。
欧州連合(EU)は米国との関係悪化や中国・ロシアの影響を受けて防衛力や産業競争力の強化を最優先課題としており、サステナビリティ政策の優先度は劣後しそうです。従来は意欲的な規制を作ることで、世界のルール作りをけん引する戦略を取っていましたが、厳しすぎる規制が欧州企業の競争力を阻害するとの見方が優勢になっており、軌道修正を急いでいます。企業負担を下げるため、内燃機関新車販売禁止の事実上撤回など関連規制の見直しや延期が相次いでおり、流れは続きます。
【米欧のサステナビリティ関連規制動向】
出所:KPMG作成
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経済安保 ―「常態化に向かう経済安全保障」
トランプ政権下で、米国が経済安保で新たな震源地となり、企業の施策検討に大きな影響を与えています。トランプ政権は関税・通商交渉とセットで、日本に対しては5,500億ドル規模の対米投資を要件としたほか、欧州にはデジタル規制緩和を求めています。対ロシア対応などを理由にインドに高関税を賦課し、中国からの「迂回輸出」を防ぐため、東南アジア諸国にも高関税を課しました。経済安保の現在地は、もはや対中リスクや有事対応に留まらず、通商・投資・技術・サプライチェーンに常時組み込まれる前提条件になったとも言えます。
米中間の重要物資を巡る戦略的競争の影響も世界に拡がっています。特にAIを巡っては、米国が技術力と投資でリードするも、中国も政府主導の国家戦略と豊富な人材で猛追しています。2026年は、(首脳会談で合意した休戦期限を迎える)米中間選挙前後のタイミングで、半導体などのハイテク規制や重要鉱物を巡り、米中の経済安保問題が再浮上する可能性があります。重要鉱物については、中国発の供給不安がくすぶるうえ、中国は重点産業の国産化の検討を進めると思われます。米中双方の「経済の武器化」を背景に、事業継続の観点から調達や生産の複線化がさらに進むことも想定されます。
国家資本主義的な産業政策強化の潮流が強まるなかで、各国・地域は安保上重要な技術への戦略的投資も強化しています。他方、重要鉱物など重要物資確保を巡っては、2国・多国間連携の動きが見られます。直近では、AIに必要な半導体や重要鉱物での多国間枠組みである「パックス・シリカ」を立ち上げており、2026年も同盟国・パートナー国間の連携施策の検討が前進するでしょう。
日本も高市政権下で経済安保を重視し、国内では戦略分野への投資を重点的に進める方針です。対外的には、経済安保領域を中心とする対米投資の検討や、EUともデジタルや宇宙、エネルギーといった分野で連携を強化するなど、経済安保を巡っては官民が連携して対応を進める傾向が強まると思われます(注:1月19日執筆時点。2月の衆議院選挙の結果によって変動する可能性)。
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【経済安全保障上の課題に対応するための経営上の視点(例)】
出所:ページ末尾の公表資料を基にKPMG作成
テクノロジー ―「AI進化と副作用」
2026年は、生成AIやAIエージェントの技術普及が進み、企業は戦略的なAI活用の方向性を明確にする必要性に迫られるでしょう。先進国を中心に業務の自動化やデジタル化が進むなか、今後ますます高まるであろうAIによる雇用への影響を踏まえると、業務再設計や人材育成を通じた変化に対応する施策設計が求められます。ただし、国やセクター・職種別に異なる影響が生じ得ると見られるため、採用やスキル開発の優先順位を慎重に判断する必要があります。
一方で、AIの普及は国家間・国内の格差拡大リスクも伴います。米中企業が支配的であるAI技術の優位性は拡大傾向にあり、他国の技術格差を広げる可能性があります。日本を含む中堅国は、米国など外国製AIへの依存が課題として意識されるなかで、データ基盤整備やAI人材育成を通じて、技術インフラの構築を戦略的に進めることが予想されます。
AI規制を巡って米国では、トランプ政権下で規制緩和と競争力強化に舵を切ったほか、欧州でも規制負担への考慮などから、競争力を維持しつつリスクを管理する現実路線へと移行しています。
AIの進化については、複数タスクをこなし、一定の自律的に判断を下す「AIエージェント」が今後普及していくことが想定されます。生成AIについては、その急速な進化と普及の一方で、副作用として選挙介入や世論操作、知財侵害、有害コンテンツの生成といったリスクが拡大しています。AIガバナンスの未整備は企業リスクに直結します。企業はルールの変化に加え、AIの進化や副作用を踏まえながら、自社AIの透明性・安全性・説明責任を確保する施策を講じる必要があるでしょう。
AIを巡っては、中東諸国が重要な競争空間となっています。石油依存からの脱却を掲げる中東産油国は、巨額の余剰資本、大規模・安定的な電力供給などを背景に、AI関連インフラへの投資を積極的に進めています。産油国のAIプロジェクトを巡っても米中間の競争が拡大しています。米国は管理された技術供与を通じて主導権を維持しようとしていますが、産油国企業は中国製ソフトウェアの活用や中国AI企業への出資などを通じて中国との関係を深める動きも散見されます。従来の米中競争に加え、今後中東産油国がAI市場で米中に次ぐ存在となれば関連サービス市場での競争は激化する可能性があります。こうした国際競争環境の変化に対応する戦略構築も今後の重要な経営課題と言えそうです。
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【米国・中国・EU・日本のAI政策比較】
出所:ページ末尾の公表資料、新聞等を基にKPMG作成
- Gallup「Presidential Approval Ratings — Donald Trump」
- 米国労働省「Consumer Price Index Summary」
- 米国労働省「Employment Situation」
- 中国国家統計局「査数」
- 独キール世界経済研究所「Ukraine Support Tracker」
- 経済産業省「経済安全保障経営ガイドライン(第1版)」
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 新堀 光城
マネジャー 白石 透冴
スペシャリスト 原 滋
シニアコンサルタント 岡本 紀笙
コンサルタント 前田 桃子