2018年12月決算特集 実務対応報告18号等の改正に伴う在外子会社等の会計処理ポイント
旬刊経理情報(中央経済社発行)2018年12月20日増大号の2018年12月決算の直前特集にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
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この「2018年12月決算の直前特集」は、「旬刊経理情報2018年12月20日増大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
1.在外子会社等の決算処理
日本基準に基づき連結財務諸表を作成する場合、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社および子会社が採用する会計方針は原則として統一しなければならない。一方、実務対応報告18号「連結財務諸表における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、「実務対応報告18号」という)に定める「当面の取扱い」を適用した場合、在外子会社の財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)または米国会計基準に準拠して作成されている場合には、当面の間、必要な修正を行ったうえで、その財務諸表を連結決算手続上利用することができる。この「当面の取扱い」を適用した場合には、IFRSや米国会計基準の改正による影響が、在外子会社等の財務諸表を通じて日本基準に基づく連結財務諸表に反映されることになる。12月決算会社においては、当連結会計年度から在外子会社等で適用されるIFRSや米国会計基準の改正の影響についてすでに検討済みと思われるものの、本記事が決算前の最終確認に資すれば幸いである。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が所属する法人の見解でないことをあらかじめ申し添える。
2.実務対応報告第18号の平成29年改正
実務対応報告18号は平成29年3月の改正により、在外子会社だけでなく、国内子会社が指定国際会計基準(「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」93条に規定する指定国際会計基準(1)をいう。以下同じ。)または修正国際基準(以下、「JMIS」という)に準拠した連結財務諸表を作成して、金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合も同様の取扱いとされた。当該改正は平成29年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用されたため、12月決算会社では当期(平成30年12月期)から適用となる。
(1)指定国際会計基準は、国際会計基準審議会(IASB)が公表した国際財務報告基準(IFRS)のうち、公正かつ適正な手続のもとに作成および公表が行われたものと認められ、公正妥当な企業会計の基準として認められることが見込まれるものとして金融庁長官が定めたもので、金融庁告示において示される。
3.実務対応報告18号の平成30年改正
IFRSを適用している在外子会社等は、平成30年1月1日よりIFRS9号「金融商品」(以下、「IFRS9号」という)を適用している。これに対応して、企業会計基準委員会(ASBJ)が平成30年9月に公表した実務対応報告18号の改正において、「当面の取扱い」を適用するために必要な修正項目が追加された(詳細は図表1参照)。本稿では前記を踏まえ、12月決算会社が留意すべきポイントを解説する。
図表1:IFRSや米国会計基準に基づいて作成された在外子会社等の会計処理を修正しなければならない項目
1 | のれんの償却 |
2 | 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理 |
3 | 研究開発費の支出時費用処理 |
4 | 投資不動産の時価評価および固定資産の再評価 |
NEW 5 |
資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択(FVOCI指定)をしている場合の組替調整 |
在外子会社等が保有する資本性金融商品に係る実務対応報告18号等の改正
1.資本性金融商品のFVOCI指定とは
IFRS9号では、金融資産の測定方法を図表2の判定フローに従い決定することを要求している。今回の実務対応報告18号で改正の対象となった金融資産は、子会社等が保有する資本性金融商品(例:普通株式)のうち、公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する指定(Fair Value through Other Comprehensive Income(FVOCI))という例外的処理を行っている銘柄である。当該指定を行った資本性金融商品については、公正価値の変動から生じる利得や損失はその他の包括利益に計上され、売却等があった場合でも純損益への組替調整(リサイクリング)はIFRS上行われない(ただし、受取配当金は純損益に認識される)。
図表2:金融資産の分類と測定
なお、当該FVOCI指定は在外子会社等におけるIFRS9号適用上、次のような一定の要件を満たす金融資産に認められる例外的処理である点に留意が必要である(詳細はIFRS9号5.7.5項~5.7.6項、7.2.8項を参照)。
- 資本性金融商品(例:普通株式)のみ指定可能であり、負債性金融商品(貸付金や債券)は指定できないこと(負債性金融商品にもFVOCI区分はあるが、適用要件や会計処理(リサイクリングが行われる)等、異なるものである)
- 売買目的保有やIFRS3号が適用される企業結合における取得企業の条件付対価ではないこと
- 当初認識時またはIFRS9号適用開始日時点で指定を行ったものであること
2.平成30年改正により追加された修正処理
実務対応報告第18号の平成30年改正では、前記のFVOCI指定した資本性金融商品について、親会社における日本基準の連結財務諸表作成にあたり次の修正を要求することとした。
- 資本性金融商品の売却を行ったときに、連結決算手続上、取得原価と売却価額との差額を当期の損益として計上するよう修正する。
- 企業会計基準10号「金融商品に関する会計基準」の定めまたは国際会計基準39号「金融商品:認識及び測定」(以下、「IAS39号」という)の定めに従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する。
3.IAS39号の金融商品の減損規定
IAS39号はIFRS9号に差し替えられているため、本実務対応報告においては、削除される直前のIAS39号における金融資産の減損の定めに従うこととされている。削除される直前のIAS39号のうち、資本性金融商品の減損に関連する規定(58項~61項)について、概要は次の通りであった。
- 企業は資本性金融商品に対する投資について、報告期間の末日ごとに金融資産の「減損の客観的証拠」の有無を検討する。
- 「減損の客観的証拠」には、発行体の重大な財政的困難等の他、経営環境の重大な悪化等で、投資の取得原価が回収できない可能性を示すもの、資本性金融商品の公正価値の著しい下落または長期にわたる下落等が含まれる。
なお、IAS39号では、前記の「公正価値の著しい下落または長期にわたる下落等」が定量的には示されていなかった。
平成30年改正に係る在外子会社等とのコミュニケーションにおいて、IAS39号の規定が削除されていること、「公正価値の著しい下落または長期にわたる下落等」における判断等に留意が必要である。
4.平成30年改正の背景
ASBJは、平成18年の実務対応報告18号の公表後、本改正実務対応報告の検討時点までの間に新規に公表または改正されたIFRSおよび米国会計基準を対象に、修正項目として追加する項目の有無等について検討を行った。この検討は、我が国の会計基準に共通する考え方(2)と乖離するか否か、実務上の実行可能性、子会社における取引の発生可能性や連結財務諸表全体に与える重要性の観点等が考慮されている。
本改正実務対応報告の公表にあたっては、主に図表3に示した会計基準の検討が行われた。その結果、FVOCIの資本性金融商品に係る組替調整を、5つ目の修正項目に加えている。
なお、平成30年改正の時点ではIFRS16号「リース」、IFRS17号「保険契約」および米国会計基準更新書第2016 - 02号「リース」等は検討対象に含まれていない点に留意が必要である。
(2)我が国の会計基準に共通する考え方としては、当期純利益を測定するうえでの費用配分、当期純利益と株主資本との連携(いわゆる、Clean Surplus関係)および投資の性格に応じた資産および負債の評価などが挙げられる。
図表3:実務対応報告第18号の改正の検討対象となった主な会計基準
IFRS |
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(1)IFRS9号「金融商品」 (2)IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」 |
米国会計基準 |
(3)ASU2016-01号「金融商品-総論(Subtopic 825-10):金融資産及び金融負債の認識及び測定」 (4)ASU2014-09号「顧客との契約から生じる収益(Topic 606)」 (5)ASU2016-13号「金融商品-信用損失(Topic 326):金融商品に係る信用損失の測定」 |
在外関連会社等に関する実務対応報告24号の改正
在外子会社等に関する実務対応報告18号において、FVOCIの資本性金融商品に係る組替調整を修正項目に追加したことを受け、在外関連会社等に関する実務対応報告24号も実務対応報告18号に準ずるよう改正された。
また、在外関連会社等においては在外子会社等と異なり、実務対応報告18号の当面の取扱いに定める5項目の修正のために必要な情報の入手が極めて困難と認められる場合も想定される。そこで、「統一のために必要な情報を入手することが極めて困難と認められるとき」と同様に、これら修正のために必要な情報の入手が極めて困難と認められる項目についても修正を行わないことができる旨が明記された(実務対応報告24号(注2))。
適用時期等
1.適用時期
実務対応報告18号および24号の平成30年改正の適用日は、次のとおりである。
- 原則として平成31年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。
ただし、次の例外的取扱いを認めている。 - 平成30年改正の公表日(3)以後、最初に終了する連結会計年度および四半期連結会計期間における早期適用
- 平成32年4月1日以後開始する連結会計年度の期首
- 在外子会社等が初めてIFRS9号を適用する連結会計年度の翌連結会計年度の期首(4)からの適用。なお、平成31年4月1日以後開始する連結会計年度以降の各連結会計年度において、平成30年改正実務対応報告を適用していない場合、その旨を注記
(3)平成30年9月14日
(4)たとえば、IFRS17号「保険契約」の適用対象となる在外子会社等であって、IFRS9号「金融商品」の適用が2018年1月1日以後最初に開始する事業年度より遅くなる場合が想定されている。
図表4:12月決算会社の平成30年改正実務対応報告の適用時期の選択例
2.適用初年度の取扱い
平成30年改正実務対応報告18号を初めて適用する年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更とする原則的な方法に加え、次の例外的取扱いを認めている。
- 会計方針の変更による累積的影響額を、当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができる。
- 1.の選択を行い、かつ、在外子会社等においてIFRS9号「金融商品」を早期適用している場合には、遡及適用した場合の累積的影響額を算定するうえで、次の取扱いを認めている。
・在外子会社等においてIFRS9号を早期適用した連結会計年度から平成30年改正の適用初年度の前連結会計年度までの期間において資本性金融商品の減損会計の適用を行わず、平成30年改正実務対応報告の適用初年度の期首時点で減損の判定を行うことができる。 - 1.の選択を行い、かつ平成30年改正実務対応報告の公表日以後最初に終了する四半期連結会計期間に平成30年改正実務対応報告を早期適用する場合には、次の取扱いによる。
・会計方針の変更による累積的影響額を、早期適用した四半期連結会計期間の期首時点ではなく、連結会計年度の期首時点の利益剰余金に計上する。
・早期適用した連結会計年度の翌年度に係る四半期連結財務諸表において、早期適用した連結会計年度の四半期連結財務諸表(比較情報)は平成30年改正実務対応報告の定めを当該早期適用した連結会計年度の期首に遡って適用する。
なお、平成30年改正実務対応報告24号においても、適用時期等について平成30年改正実務対応報告18号と同様の改正が行われている。
開示
1.注記
実務対応報告18号および24号の「当面の取扱い」を適用し、IFRSや米国会計基準により作成された連結子会社および持分法適用会社(以下、「連結子会社等」という)の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合においては、重要性に基づき企業会計基準24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に基づく開示要否を検討する(同基準10項~12項参照)。
- 当該連結子会社等が会計方針の変更を行った場合、会計方針の変更の注記
- すでに公表されているもののいまだ適用されていない新しい会計基準等がある場合、未適用の会計基準等に関する注記
2.新たに適用される主要なIFRSおよび米国会計基準
前記「開示」の対象である、在外子会社等に新たに適用される主要なIFRS及び米国会計基準には、それぞれ図表5、6のような項目が含まれる。「顧客との契約に基づく収益」等の会計基準であっても、IFRSと米国会計基準とでは強制適用時期は異なり得ること、更に米国会計基準ではPublic Company(5)とPublic Company以外では強制適用時期は異なり得るため(6)、各基準の適用時期および早期適用の確認・検討に留意が必要と考えられる。
(5)Public companyの範囲はFASB ASC GlossaryおよびASU2013-12等参照。
(6)図表6のとおり、Public Company以外の企業では、強制適用時期が1年程余裕をもって設定されている。
図表5:新たに適用される主なIFRS(注)
2018年12月期から適用 |
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2019年12月期から適用 |
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2020年12月期から適用 |
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(注)詳細はKPMGウェブサイト「New IFRS Standards:Are you ready?」参照
図表6:新たに適用される主な米国会計基準(注)
基準書 | Public company | Public company以外 |
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2017年12月15日以降開始する事業年度および期中報告期間 | 2018年12月15日以降開始する事業年度、および2019年12月15日以降開始する事業年度の期中報告期間 |
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2018年12月15日以降開始する事業年度および期中報告期間 | 2019年12月15日以降開始する事業年度、および2020年12月15日以降開始する事業年度の期中報告期間 |
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(SEC filer) 2019年12月15日以降開始する事業年度および期中報告期間 (Non SEC filer) 2020年12月15日以降開始する事業年度および期中報告期間 |
2020年12月15日以降開始する事業年度、および2021年12月15日以降開始する事業年度の期中報告期間 |
(注)詳細はKPMGウェブサイト「Quarterly Outlook(2018年9月版 米国基準)」巻末参照
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
土間 航輔(どま こうすけ)