KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 荒尾 宗明
マネジャー 吉田 愛子
シニアコンサルタント 中畑 良丞
1.全社的に機能する遵守体制構築の必要性
取適法遵守において、単に社内規程を整備するだけでは実効性は担保されません。個別的・属人的な運用に依存していると、口頭発注や支払遅延といった違反が繰り返し発生するリスクがあります。
公正取引委員会の運用基準では、違反行為の未然防止のため、経営責任者を中心とする遵法管理体制の確立や、遵法マニュアル等の作成・社内周知徹底を図ることが求められています。したがって、全社的に機能する遵守体制の構築が不可欠です。
2.スリーラインディフェンスの枠組み
遵守体制を整理する実務フレームとして有効なのが、内部統制やリスクマネジメントで広く用いられる「スリーラインモデル」の考え方です。
- 第1線:事業部門
- 発注・検収・支払といった日常業務を通じて、違反を「起こさない」役割を担う
- 違反を起こさない業務フローを構築する
- 第2線:管理部門
全社的な規程やシステム、モニタリングの仕組みを整備し、現場を支援・牽制する
- 第3線:内部監査部門
独立した立場で体制全体の有効性を検証し、経営層に改善を提言する
この3つのラインが連動してこそ、取適法遵守が持続的に機能します。
3.各ラインに潜む典型的なリスク
各部門において、放置すれば違反につながりかねないリスクが存在します。これらをあらかじめ想定し、それぞれのラインに応じた統制策を講じることが重要です。
- 第1線:事業部門
書面の未交付、発注条件が未確定のまま着手させる運用、支払期日の超過、不当な減額・返品、運送・保管費用等の一方的な転嫁など
- 第2線:管理部門
規程の未整備・未浸透、システム上の制御不足、KPI未整備による監視不全、委託事業者・中小受託事業者向け相談窓口の形骸化など
- 第3線:内部監査部門
形式的な書面チェックに偏重し潜在的な違反リスクを把握できない、データ分析力不足により高リスク取引を抽出できないなど
4.効果的な体制構築のポイント
では、実効性のある遵守体制を構築するために、具体的にどのような対応が求められるでしょうか。
- 教育・周知の定着化
商慣習としてあたりまえに行ってきた行為が、実は法令違反に該当しているケースは少なくありません。
事業部門に対しては「チェックリスト」「違反事例集」を用意し迷いや判断のばらつきを減らします。管理職や経営層には、価格交渉対応や支払手段(手形禁止等)も踏まえたケーススタディ形式の研修を実施します。
また、事業部門の業務フローやシステムが取適法を前提として設計されていない場合、仕組みそのものが恒常的な違反を生じさせているおそれもあるため、プロセスやシステムの見直しを促すことが重要です。
- 相談・通報ルートの多層化
社内相談窓口や匿名で利用できる外部ホットラインを整備し、問題を早期に把握できる仕組みを整備します。あわせて、取適法に基づく申告先(公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁)や報復措置の禁止についても周知します。
- 模擬調査による耐性強化
公正取引委員会、中小企業庁長官または事業所管省庁による報告徴収・立入検査を想定した訓練を実施し、有事対応の手順や電子メール・取引データの保全プロセスを事前に確認します。
【取適法遵守体制の全体像】
取適法対応は、現場の実行力だけではなく、組織全体での統制・監視が不可欠です。事業部門・管理部門・内部監査部門のスリーラインディフェンスの視点から役割とリスクを整理することで、潜在的な違反を早期に把握し、公正な取引を実現する体制の基盤を築くことが可能となります。
5.まとめと提言
取適法遵守体制は、違反防止だけでなく、取引先との信頼関係やサプライチェーン全体の競争力を支える基盤です。その構築にあたっては、「規程」「システム」「教育」「監査」のバランスが重要であり、どれか1つに偏ると、現場の混乱やリスクの見落としを招きます。規程やマニュアルは現場が迷わず使える言葉で整理し、教育は短時間かつ具体事例で繰り返すこと、監査は形式チェックから一歩進めて、データやヒアリングを通じた実効性検証へと進化させることが鍵となります。
次回第3回では、スリーラインモデルの「第3線」である内部監査部門に焦点を当て、どのように取適法遵守状況を検証し、経営・現場へのフィードバックにつなげていくべきかを具体的に検討していきます。