ESGに配慮した企業活動への社会的要請が高まり、非財務情報の開示項目が拡充される中、虚偽記載により規制当局から制裁を受けるリスクやグリーン・ウォッシュ/SDGsウォッシュなどの社会的な批判を受けるリスクは、企業にとって重大なリスクになりつつあります。

EUでは2024年からサステナビリティに関する情報開示基準の適用が予定されております。米国では2024年から気候関連開示に関する限定的保証、2026年から合理的保証の第三者保証の導入が予定されています。

日本も2023年6月提出(2023年3月期)の有価証券報告書から非財務情報の開示項目が拡充され、2025年3月期以降から非財務情報の開示基準の適用が検討されています。いずれ第三者保証(外部監査)制度が導入されることも検討されると考えられます。

このように、非財務情報の虚偽記載リスクへの対応体制を含む非財務情報の開示内容の信頼性を確保するための内部統制の確立は、待ったなしの状況にあるといえます。

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非財務情報に関する情報インテグリティ体制の構築の必要性

近年、ESG投資・サステナブル投資がグローバル規模でトレンドとなっています。特にEUにおいては、2000年代初頭から活発に議論され、ESGに配慮した投資を奨励する法律や規制が導入され、ESG投資市場が急速に成長しました。そのため非財務情報を積極的に開示する企業が増える一方で、グリーン・ウォッシュ/SDGsウォッシュと呼ばれる「見せかけの開示」が問題となっており、関連する法規制の強化や、多額の罰金が科される事案なども増えています。

日本においては、ESG投資市場は2010年代から急成長し、関係各所において様々な議論がなされていますが、グリーン・ウォッシュに対する直接的な法規制や罰則などは整備されておりません。

今後、企業は、企業価値を正しく評価するための非財務情報の積極開示がますます求められます。そのためには、各企業にとって非財務情報の情報インテグリティ体制を構築することが重要な経営課題の1つと言えるでしょう。

非財務情報の開示に対する社会からの要請と、事実に即さない開示へのレピュテーションリスク

非財務情報を開示することについて、ステークホルダーが要求する水準はますます高まっています。

投資家 中長期的な価値創造につながる重要課題(マテリアリティ)と戦略を理解するためには、財務情報だけでは中長期的な企業の「稼ぐ力」の判断が困難のため、非財務情報を従前以上に重視している。
取引先 自社だけでなく仕入先・委託先なども人権侵害、法令違反などを起こしていないことや、そのための管理体制を正しく開示しないと、適切な取引先の評価ができない。
役員・従業員 自社の企業が高い意識を持って法令遵守、環境対策等を行っているという開示内容を信じて、自負をもって業務に従事している。
顧客・社会 商品・サービスが、環境や社会に配慮したものであることを開示情報から判断するため、開示情報が正しくないと適切な商品・サービスの選択ができない。
規制当局 グローバルで開示基準を統一し、比較可能性・透明性と信頼性を確保しようという動きが高まっている。

このように非財務情報に係る社会的要求水準がますます高まる中で、実態とかけ離れた虚偽情報の開示が発覚した場合や、非財務情報の収集・集計等の管理体制の不備により背伸びした表現や誤解を招くような開示が発覚した場合には、企業に対する社会的な信頼の失墜、レピュテーションの悪化など、会社の事業継続に重大な影響を及ぼすリスクが懸念されます。

日本における非財務情報開示のロードマップと海外規制の動向

金融庁は、我が国におけるサステナビリティ開示(非財務情報開示)について、以下のような取組みを進めていくことを示しています。

我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ(案)

出典:金融庁 金融審議会 「我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ(2022年12月公表)」に基づき、KPMGが作成



内部統制報告制度の改訂と第三者保証の導入

非財務情報に係る開示の進展やCOSO報告書の改訂を踏まえ、企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準・実施基準」が改訂(2025/3期から適用)され、内部統制の目的の1つである「財務報告の信頼性」が「報告の信頼性」に変更されたことで、非財務情報の報告の信頼性の確保も内部統制の目的の1つとして明記されました。

また、この内部統制の基準の見直しを審議していた企業会計審議会・内部統制部会において、相当数の委員から「非財務情報の信頼性を確保するための内部統制も評価範囲に含めるべき」という意見が出されました。

このことから、日本も、米国・EUのように、開示基準の導入後に第三者保証制度が導入されることが予想されます。

企業が抱える非財務報告に関する悩み

非財務情報の開示内容の第三者保証(外部監査)の制度が導入された場合、内部統制が確立していることを前提として、非財務情報の適正性に関する意見表明を行うことが予想されます。しかし、現時点においては、多くの企業では、下記のような「非財務報告に係る内部統制」は必ずしも十分には確立していない状況にあることが懸念されています。

  1. 電子メール等で各部門・グループ各社から開示に必要なデータを収集しているが、収集したデータをチェックする体制が十分に機能しているか、データの信頼性を十分に担保できているか、自信がない。
  2. 非財務情報の開示に必要なデータの種類・対象範囲は広く、必要データも頻繁に更新されるため、今後も作業工数が増加傾向になることは想定できるものの、作業工数をどのように効率化していけばよいのか分からない。
  3. 非財務情報の報告に係る集計作業は、一部の部署・担当者が主となって行われており、他部署・他の担当者のチェック等の内部牽制が十分には機能していない。

今後の数年間で「非財務報告に係る内部統制の確立」は急務であり、「待ったなし」の状況にあるといえるでしょう。

非財務報告に係る内部統制の構成要素

非財務情報の虚偽記載リスクに対応するには、連結決算の財務報告に係る内部統制に準じた内部統制プロセスの確立が必要になります。KPMGでは、具体的には下記の取組みが必要になると考えます。

非財務情報に係る
グループ方針の明定
  • 全体戦略と整合したESGに関する戦略・方針の理解・明確化
  • 自社グループに適用される法規制の理解
リスク評価と
リスク対策の実施
  • 優先度を明確化するためのESG関連の主要リスク評価
  • 骨太なリスク対応の方針の決定、全社的リスク管理活動との連携・統合
業務プロセスの確立
  • 各部署における業務プロセスへの反映
  • 行動規範、関連する規程・手順書などの整備・改訂
信頼性を確保するための
「3線モデル」の確立
  • 経営推進体制、推進部署の役割の明定、各部署の責任者・担当者の配置
  • 推進部署による第2線機能、内部監査部門の第3線機能の明定
報告プロセスに係る
IT統制の確立
  • グループ各社・取引先等からの情報収集のパッケージ化
  • 情報を機械的・適時に収集・作成できるシステムの整備・運用
  • 非財務情報の網羅性・正確性・正当性・アクセス管理の確保状況の検証と改善
教育研修
  • 役員・従業員の教育・スキルアップ
計画管理とモニタリング
  • 経営計画管理への反映、KPI等の指標への反映
  • 内部監査
  • 内部通報、従業員コンプライアンスサーベイなどの結果・内容の吟味
  • 取締役会等によるESG関連情報開示のガバナンス体制の総括評価

【参考】海外で見受けられる非財務情報における虚偽記載の事例と、関連する法規制・取組みなど

非財務情報における虚偽記載の事例

  • 資産運用会社が、サステナブル投資の取組みを誇張
  • 自身のESG基準に準拠して投資しているファンドの一部の投資が、当該ESG基準に反している
  • 企業が事業内容や虚偽広告を誇張(排ガスの排出量削減などを誇張)
  • 企業の報告におけるESGに関する虚偽記載
  • 国連グローバルコンパクト(UNGC)などに署名申請しているが、準拠した活動を行っていない

グリーンウォッシュに関連する法規制・取組みなど

  • オーストラリア証券投資委員会(ASIC)によるグリーンウォッシュを防ぐための指針
  • 米国証券取引監査委員会(SEC)によるタスクフォース(Climate and ESG Task Force)の設置
  • フランスの消費者コードの改正(グリーンウォッシュと認定された場合の罰金額の増加など)
  • EUの Green Claims Directive発表
  • EUのSustainable Finance Disclosure Regulationの枠組み
  • UKの Green Claims Code発表 など

KPMGの支援内容

非財務情報の虚偽記載リスク(グリーンウォッシュリスク)に対応するためには、リスク評価・分析で重要なリスクを特定する体制とともに、適切な統制環境の整備及び倫理観の醸成を含むガバナンス体制の確立が重要です。ガバナンス体制の構築後には、定期的なモニタリングの実施、問題発生時の緊急時対応とともに、非財務報告に係る内部統制の高度化が必要になります。特に、早期のリスク検知とその高度化に向けて、関連データのモニタリング手法の高度化やホットライン(内部・外部からの相談窓口)の活用なども重要です。
KPMGは、下記のような支援業務を提供することができます。

現状の短期診断と管理体制の高度化の設計・導入の支援サービス <例>
  • ESG関連情報開示のガバナンス体制の構成要素の整備・運用状況の診断
  • 診断結果に基づく高度化のための計画策定支援
  • 上記の過程で、ステークホルダーの要求水準の整理と対応方針の検討の支援
リスク評価・分析の支援 <例>
  • 全社的なESG関連リスクの評価の支援
  • 収集データの信頼性に係るリスク評価・情報分析の支援
非財務情報の収集・集計等の
データ管理体制の構築サービス
<例>
  • 関連する規制などをもとに必要と思われる情報の洗い出しの支援
  • 企業に存在する非財務情報の把握・収集支援
  • データの品質、データ収集におけるガバナンス体制の理解
  • 上記に基づき、追加データの収集の支援
  • 非財務情報の把握・集計のためのダッシュボード作成、報告パッケージのフォーマット作成などの支援
  • データ偽装リスク対応策の構築の支援
モニタリングの支援 <例>
  • 評価指標の設定、ホットラインの設置等を含むモニタリング方法の検討・確立の支援
  • ESG関連開示情報の規制準拠性の内部監査や特定テーマの内部監査の支援
  • ESG関連情報開示のガバナンス体制の総括評価の支援
調査・訴訟・緊急対応 <例>
  • ホットラインへの通報や、疑義が生じた事象に対する調査・緊急時対応
  • 規制当局への対応の支援

主要メンバー

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