生成AIをはじめとするテクノロジーの発展に伴い、コーポレート部門における「ヒト」の能力が必要とされています。しかし、その潜在能力はサイロ化された組織体制によって本来の実力が阻害される傾向にあります。フロントオフィスやミドルオフィス、経営者との横断的な連携を可能にし、企業全体における価値創出に貢献するコーポレート部門の実現のためには、どのようなアプローチが求められるのでしょうか。
KPMGでは、主要なCレベルの経営層やバックオフィス以外のリーダーを含め、フロントオフィスからミドルオフィス、バックオフィスに至るさまざまな業種や部門を代表する上級管理職250人を対象としたグローバル調査を実施しました。
本レポートでは、サイロ化された組織の再編を阻む要因や、他部門と異なるコーポレート部門の優先事項を探り、その可能性を引き出すための道筋を明らかにします。
目次
1.コーポレート部門の可能性を引き出す
多くの組織で、コーポレート部門はその潜在能力を十分に発揮できていません。パフォーマンス向上の取組みを続けているものの、品質や効率の面で「なんとか期待に応えている」と回答したのが全体の3分の2に上りました。また、「効率的である」と評価したのは約3分の1にとどまっています。
・効率性を阻害する業務の分断
効率性を阻害する要因の1つとして、各部門が独自の目標や業務慣行、データ、システムに沿って業務を進める傾向があることが挙げられます。
また、KPMGがCレベルの経営層を対象に実施したグローバル調査「The importance of value streams in the age of AI」においても強調されていたとおり、相当数のフロントオフィスとミドルオフィス部門、そしてコーポレート部門の回答者が、組織のコーポレート部門の機能はサイロ化されていると認識しています。
一方で、回答者は連携がもたらす効果を認識しています。64%の回答者がコーポレート部門との連携や協調により、業務効率にプラスの影響が生じると考え、変化への迅速性と俊敏性に優れた対応が可能になるとしています。
・連携の強化に向けたコーポレート部門の再編
本調査によれば、上級管理職の約半数がコーポレート部門の再編を改善策として挙げています。一方、コーポレート部門の責任者は抜本的なアプローチを避け、現状の部門モデルを改善することが前進への道であると回答しています。
また、一部の組織では、コーポレート部門が提供する価値やリスク管理への貢献度が、上級管理職によってあまり重視されていません。このような文化的な慣習が構造的な意思決定にも影響を与え、コーポレート部門の「封建化」を強化し、変革を困難なものとしています。
・人材の軽視
部門のリーダーにとっての最優先事項の1つが、新たなテクノロジーに対応したイノベーションの実現である一方で、「人材」を優先事項として挙げた回答者は少数にとどまっています。このような考え方では、スキルが高く、変革に意欲的で、エンドカスタマー(業務サービスの提供先)のニーズを把握する人材をコーポレート部門において確保できない恐れがあります。
2.コーポレート部門改革を実現する4つの重点取組み事項
(1)企業価値に焦点を当て、価値創出を推進するコーポレート部門を設計する
競争やテクノロジーの圧力に耐え、新たな価値の源泉に合わせて素早く変化できる企業の実現には、価値の創出を推進し、価値の喪失を阻止できる俊敏なコーポレート部門が必要です。84%のCレベルの経営者層がバリューストリームのマネジメントにより、組織全体のコスト効率が向上したと考えているとおり、今後のビジネスモデルや運用モデルの整合を図ることが求められています。
また、回答者の約3分の1(36%)がコーポレート部門の再編を望んでいます。デジタル成熟度の低い組織では、部門内で再編を行うことでサイロ化が続く可能性が高くなる傾向があります。デジタル成熟度が高まるにつれて、変革への意欲とその範囲も拡大していきます。
<コーポレート部門の再編でとるべき主要なアクション>
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コーポレート部門は、企業データの管理者としての役割を担いますが、データやテクノロジーに関する従来型のアプローチやインフラ(アーキテクチャ、ガバナンス、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークを含む)が、コラボレーションを妨げ、データ共有を阻害した結果、実用的なインサイトを十分に得られない状況が見られます。コーポレート部門が社内にインサイトを提供しバリューストリームを支えるためには、部門を超えてデータにアクセスできるデータアーキテクチャと、十分に訓練されたデジタルリテラシーの高い人材が必要です。
本調査によれば、各社が認識しているデジタル成熟度と実際の成熟度に差異があることが判明しています。
【デジタル成熟度に対する認識差異】
また、デジタル成熟度の高い企業は、エコシステムパートナーと自社のビジネス戦略との整合性が高くなるという回答結果も見られました。
【自社のデジタル成熟度はエコシステムパートナーとの整合性と連動する】
デジタル成熟度の高い組織では半数以上が、バリューストリームに対応するために組織全体のプロセスを改善し、コーポレート部門の再編を重視していると回答しています。
【価値創出の強化に向けて、コーポレート部門を再編しますか?】
<コーポレート部門のデータ活用でとるべき主要なアクション>
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【テクノロジーへの投資から期待されるROI】
<コーポレート部門における生成AI導入でとるべき主要なアクション>
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・人間味が加わってこそ発揮される生成AIの価値
生成AIの価値を引き出すには、これまで十分に自動化できなかったタスクを特定し、強化するための新たなアプローチを定義する必要があります。主体的なアプローチと明確な成功基準がなくては、労働力の効果的な変革と強化は困難でしょう。
KPMGでは、AIへの投資価値を高めるためのヒト中心の3段階のアプローチを推奨しています。
・生成AIの導入に先立ち、従業員にとっての機会を特定する:自動化が従業員に及ぼす影響と機会を評価しモデル化する
・生成AIの導入と並行して、人材を強化する:再構想されたエクスペリエンスを確立し、従業員のスキルアップと採用を促進する
・生成AIの従業員への影響を受けて、労働力を再構築する:人材と運用モデルを変革し、組織にとっての価値を創出する
【生成AIの導入における8つの重点領域】
1.エクスペリエンス | 従来とは異なる考え方と働き方を取り入れ、望ましいビジネス成果として、生成AIを活用したエクスペリエンスを優先的に最適化します。 |
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2.ROIとビジネス価値 | コスト削減やカスタマーエクスペリエンスなどの要素を考慮し、ビジネス価値とROIを評価します。 |
3.データの品質と可用性 | データの完全性、精度、セキュリティを考慮し、AIによる予測について学習し、これを正確に実行します。 |
4.変革の促進 | 信頼や不安、認識される文化的考慮事項に対応しつつ、業務およびキャリア面での潜在的なメリットを強調し、AIの迅速な導入に向けた意識を高めます。 |
5.テクノロジーとインフラ | 現状のテクノロジーソリューションとERPプラットフォームを評価し、追加投資とロードマップへの影響を判断します。 |
6.生成AIの知見を有する人材 | 社内のAI人材やパートナーを評価します。人材の強化を進めるには、AIの影響が及ぶ人材とサポートを担う人材のスキルアップが必要となります。 |
7.運用モデルの影響 | プロセス、システム、文化への運用モデルの影響を管理します。人材への影響についても管理し、変更管理をシンプル化します。 |
8.リスクとコンプライアンス | 倫理的かつ合法的で、サイバーリスクの軽減を盛り込んだ責任あるAIシステムを設計します。 |
【各部門と組織全体との優先事項の整合性】
【高度なスキルと意欲を持った従業員の育成は、自部門の変革にとって優先事項である】
<コーポレート部門の変革でとるべき主要なアクション>
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3.デジタルリテラシーが高い、ヒト中心で価値重視のコーポレート部門を構築する
・スキルを継続的にチェックしアップグレードする
テクノロジーの有効性について評価し、共通の「デジタルリテラシー」と包括的なスキルアップ戦略を備えた、全社規模のスキルフレームワークを構築することが求められます。
・「ヒト」のスキルを重視する
テクノロジーへの適応が従業員に求められる一方で、「ヒト」のスキルの重要性はこれまで以上に高くなると考えられます。バリューストリームとの整合性が確保されるように、従業員は特に生成AI 関連の活動に対して影響力を発揮し、監視を強化する必要があります。
・俊敏で好奇心溢れる マインドセットを奨励する
従業員には、新しい働き方や変化するプロセスを前向きに受け入れることが求められます。そのためにリーダーは、従業員が自由に試行を繰り返し新たなテクノロジーとの適切な付き合い方を見いだせるように配慮する必要があります。
・変化に伴う不安に対処する
テクノロジーが推進する働き方の変化に懐疑的にならないよう、リーダーが変化に対して全力で取り組み、今後に向けた明確なビジョンを提示し、コーポレート部門全体のコミュニケーションを管理していく必要があります。
KPMGは、DXにおける豊富な知見を通じて、優れた成果を人々や全世界にもたらすことができる、先進的で、インテリジェントかつレジリエントなビジネスの構築に向けた支援が可能です。常に進化し続けるテクノロジー主導のサービスポートフォリオを活用し、クライアントと緊密に連携しながら継続的な変革の実現とそのための一貫したサポートを行います。