多くの組織は、変化のペースとリスクのジレンマを認識してきており、他社を模倣するのではなく、自社がテクノロジーリーダーになることを目指して方向転換を図っています。概して、テクノロジーリーダーは新しいテクノロジーを導入するための構造、規律、組織としての考え方を構築し、新たな道を切り開いています。また、テクノロジーリーダーはエビデンスに基づく投資決定を目指しています。それにより、一層幅広くビジネス戦略とテクノロジー戦略とが調和し、価値創造とリスク志向のバランスもとられるようになります。

本レポートは、26ヵ国2,450人の上級管理職を対象とした調査に基づいており、調査対象は、金融サービス、テクノロジー、小売・消費財、製造、ライフサイエンス・医薬品、ヘルスケア、政府・公共部門、エネルギーの8つの業界で構成されています。

デジタルトランスフォーメーション(DX)において高いパフォーマンスを実現している組織は、調査の対象となった2,450人のテクノロジープロフェッショナルの10%未満でした。今回のレポートでは、以下に示す2つの重要な基準に基づいて、パフォーマンスの高い組織を明らかにしています。

1.テクノロジーカテゴリーの大部分で、実装が最も成熟した段階にある
2.テクノロジーカテゴリーの半数以上で、進歩に伴って収益性が増加している

1.「ハイプ」渦中での価値特定

過去1年間を通して急加速したテクノロジーの進歩により、組織の間で強いFOMO(Fear Of Missing Out:取り残されることへの不安)が広がりました。DXは数多くの恩恵をもたらす可能性があるため、進歩への野心を持つことは健全ですが、誤った投資や、イニシアティブの分断につながる可能性があるため、組織は判断をゆがめられることがあってはなりません。それでもなお多くの企業で、FOMOは投資決定に対して大きな影響を与え続けています。

78%:変化のペースに遅れないよう苦慮していると回答した割合

80%:シニアリーダーシップのリスク回避によって、自組織が競合他社に新たなテクノロジーの採用で後れをとっていることに不満を抱いていると回答した割合

【急いで追従することは、もはやテクノロジーに投資する最大の理由ではない】

KPMGグローバルテクノロジーレポート2024_図表1

テクノロジー実装の成熟度が全般的に向上し、最も増加した分野はデータアナリティクスおよびXaaS(Everything as a Service:クラウド提供型サービス)でした。また、すべてのテクノロジー分野について、積極的な実装段階に入る可能性が最も高い地域はアジア太平洋(ASPAC)であり、インド、中国がその先頭に立っています。

トランスフォーメーションを加速させたいという願望の一方で、レガシーシステムを疎かにすると、新たなテクノロジー投資を損ないかねません。事実、DXにおいて高いパフォーマンスを実現している組織にとって、未対応の技術的負債が新規アップグレードへの道を塞ぐという問題が、DXの進展を妨げる大きな課題の1つになっています。

新たなテクノロジーの進歩がもたらす潜在能力を存分に活かすため、組織は投資に対して慎重かつ戦略的なアプローチを維持しなければなりません。

【パフォーマンスの高い組織がDX進展の速度を高めるポイント】

FOMOに過度にとらわれない
  • パフォーマンスの高い組織は他の組織に比べ、変化のペースに遅れないよう苦慮していると感じている割合が23%低い。
  • 競合他社がすでに導入しているからという理由でテクノロジーを選ぶ割合が、他の組織に比べて5%低い。
軌道修正を何度も繰り返している
  • パフォーマンスの高い組織は、テクノロジーへの投資の評価に、より積極的で順応性の高いアプローチを採用。
  • パフォーマンスの高い組織では83%がすべてのテクノロジー投資のビジネス上の価値と成果を継続的に評価しており、これは他の組織よりも17%高い。
  • こうした常時継続型のアプローチによって、組織は必要に応じて介入し最適化する機会を創出。
主要な実証的証拠を活用する
  • パフォーマンスの高い組織では、投資前にテクノロジーイニシアティブの潜在的価値を予測・計算する割合が、他の組織に比べて21%高い。
外部の専門知識ソースに頼る
  • DXの意思決定を強化するために、パフォーマンスの高い組織の93%は自社のエコシステムとパートナーシップを拡大・強化する計画を立てているのに対し、他の組織では70%にとどまる。
技術的負債を認識する
  • パフォーマンスの高い組織は、他の組織とは対照的に、未対応の技術的負債を、DXの進展を妨げる大きな課題の1つとみなす。
  • 時間の経過とともにコストと複雑さが激増するのを避けるために、組織は一貫して技術的負債を解消するための投資を続けなければならない。

2.エビデンスに基づく決定による価値最適化

本調査におけるパフォーマンスの高い組織によると、テクノロジー投資から短期間で成果を得るための2つの効果的な戦略のうちの1つは、データを中心とした評価を頻繁に行うことです。データを中心としたアプローチから得られた成果は蓄積されていくため、上位2つのデータ成熟度レベルにある組織では、すべてのテクノロジー投資を通じて得られた価値に満足する傾向が高くなりました。

【2024年には、データ成熟度の上位2つのレベルにある組織が増加(浸透済み/影響力がある)】

KPMGグローバルテクノロジーレポート2024_図表2

※当グラフの目的は、データ成熟度が高いレベルにあると回答した組織の割合を明らかにすることであり、理解しやすくするためにデータ成熟度の低いレベルを除外しています。

回答を寄せた上級管理職によると、顧客および従業員から指摘のあったサービスの問題点にテクノロジー投資を割り当てることが、IT投資から短期間で成果を生むための最も効果的な方策になります。他方で、顧客インサイトは見逃されがちであり、上級管理職の78%が顧客からのフィードバックを効果的に利用していないと回答しています。

本調査に参加した上級管理職にとって、価値を測定する最も一般的な方法は次の3つでした。

【価値を測定する最も一般的な方法】

01:ビジネス成長の測定基準:発売した新製品の数など
02:財務の測定基準:サービス提供コストや収益性など
03:顧客の測定基準:顧客満足度や顧客基盤の拡大など

【パフォーマンスの高い組織が価値を定義して提供するうえでの行動様式のポイント】

長期的目標に沿った価値主導の決定をする
  • パフォーマンスの高い組織は、日々の決定が必ず長期の戦略的目標と組織としての成功の定義に貢献できるようにしている。
  • パフォーマンスの高い組織の半数以上(53%)がテクノロジー投資のポートフォリオを戦略的に評価して、長期的目標と連携させており、その割合は他の組織よりも12%高い。
全員が同じ考えを持つ
  • 増え続ける優先事項とステークホルダーの管理に課題が山積みであっても、パフォーマンスの高い組織は組織全体の強い団結によって、迅速な行動を実現。
  • たとえば、パフォーマンスの高い組織の90%がステークホルダーの合意を効率的に得られるのに対し、他の組織は18%低い。
パフォーマンス管理を常に実施する
  • パフォーマンスの高い組織は、意思決定に関わるデータの質と範囲を継続的に改善。
  • たとえば、定期的に市場の変化に応じて価値トラッキングの測定法を検討・更新するとともに、定性的・定量的なインサイトを活用しDX計画を評価する割合が高い。
リスクの監視とトランスフォーメーション推進のバランスをとる
  • パフォーマンスの高い組織は、テクノロジー投資の評価で最も重要な要素としてリスクとサイバーセキュリティの測定法を挙げており、87%はこれらの値を測定する能力に確信を持っている(他の組織は66%にとどまる)。
  • テクノロジー投資のポートフォリオがリスクの観点からバランスのとれたものだと確信する割合が、パフォーマンスの高い組織では他の組織と比較して21%高い。

3.レジリエント(変化に対応可能)なソリューション提供

データはDXを推進するとともに、持続させます。データの成熟度、セキュリティ、そしてガバナンスが、イノベーションを加速させるとともに、顧客体験の向上にも役立ちます。
高いレベルのデータ活用能力を実現するために、組織はより強力なコンプライアンスプログラム、フレームワーク、および役割に関する明確な分担と責任体制の構築を通して、高度なデータのセキュリティ、ガバナンス、アクセシビリティを追求しています。

【データのセキュリティ、アクセシビリティ、ガバナンスが、データ活用能力を高めるための最優先領域】

KPMGグローバルテクノロジーレポート2024_図表3

全体的に見て、調査に回答した上級管理職はサイバーセキュリティとプライバシーについて、DXを成功させるための最大の関心事として挙げています。また、デジタル経済のなかで組織が成功するために必要なトップスキルとは、そうした考えを組織のビジネスおよびテクノロジーにおける優先事項の中心に据えることのできる力であるとも述べています。

事実、サイバーセキュリティとプライバシーによって、組織は安全にかつ確信を持ってビジネス上の目標を追求し、新たな機会の獲得を可能とします。組織は形式的な研修のみに頼るのではなく、従業員が日常業務でサイバーセキュリティを簡単に担保できるよう、規制と業務上の手順を取り入れることに重点を置く必要があります。たとえば、DevSecOps(開発・セキュリティ・運用)プロセスのオートメーション化やパスワード管理プラットフォームへのアクセス提供などの戦略により、従業員の行動をより安全なものにすることが可能です。

【DXに対する脅威を克服する方法】

01:最初からセキュリティチームを参加させる
02:行動を起こさないことによるコストを明確化してリスク回避姿勢を克服する
03:ガバナンスのボトルネックを解消し、進行を加速させる

【パフォーマンスの高い組織が確実なDXのためにとる行動の傾向】

投資を価値に結び付ける
  • パフォーマンスの高い組織は、データシステムへの投資を重要なビジネスステークホルダーの優先事項に合わせることを上位2つの優先事項としている。
  • 一方で、他の組織では優先事項のトップ3に入っていない。
データハイジーン監査を習慣的に実施する
  • パフォーマンスの高い組織の80%は習慣的にデータハイジーン監査を実施して、データ整合性に関する不備に対応するとともに、データオーナーシップの枠組みを構築。
  • 他の組織では、これを戦略の基礎部分に含める割合が31%低い。
市場リスクに対応するためにデータおよび内部知識共有を利用する
  • パフォーマンスの高い組織は、データ中心の意思決定(61%)および内部知識共有(48%)によって、DX戦略を、増大する市場リスクに対応させることが可能(他の組織では、それぞれ43%38%)。
  • データインサイトによってリスクに対するレジリエンスを高めることができる一方で、内部の知識共有も非常に重要。
  • 従業員を教育して成果を伝え続けることで、組織は従業員に対して、プラスの方向への変化に適応し、それに貢献できる力をもたらす。
データセキュリティを優先させる
  • パフォーマンスの高い組織では、セキュリティが今後12ヵ月の間に向上させるべき重点領域であると回答した割合が、他の組織より9%高い。

4.確信的なAI活用の拡大

AIの導入は加速しており、それによって得られる利益も増加しています。また、生成AIがテクノロジーの領域にもたらす新たなリスク、たとえば、「ハルシネーション」「ジェイルブレイク」「敵対的プロンプト」などを考慮して、新たなテクノロジーの利用規模を拡大する場合、組織は新たなリスクに対処できるガバナンスとプロセスを用意しなければなりません。

加熱するAIの一時的なブーム(ハイプ)のなかでは、拙速な決断をしてしまいがちですが、AIの導入を成功させるためには、組織全体を通じた分野横断的な取組み、組織全域の明確な連携、そしてAIの役割とその潜在能力に対する共通の理解が必要になります。

AIの価値を、ビジネスゴールの枠組みのなかですべてのステークホルダーに対して明確に定義して伝え、思慮深いコラボレーションを通じてそれを実行できる組織であれば、組織全体でその影響を最大化できる大きなチャンスに恵まれるでしょう。

【AIを本番環境までスケールアップすることに成功している組織は3分の1のみ】

KPMGグローバルテクノロジーレポート2024_図表4

【AIの潜在能力を活用するための5つの重点領域】

1.AIから価値を生み出す  2.AIの力を引き出す 3.AIに対する信頼を構築する
4.確信を持ってAI利用の規模を拡大する 5.AIトランスフォーメーションを設計する

【パフォーマンスの高い組織がAIへの投資から最大の価値を引き出す3つのポイント】

幅広い従業員に対してAIの実験に参加するよう勧める
  • パフォーマンスの高い組織の約半数(47%)は、AI実験の拠点となる専門組織(CoE)を作ることによって、AIの専門知識とイノベーションを統合。これらの作業グループは、組織の各部署に所属する従業員で構成されている。
AIでスキルギャップに対応する
  • パフォーマンスの高い組織の89%は、AIを活用して知識労働者のスキルギャップを埋めており、これは他の組織より18%上回る。
AIを利用してパフォーマンスを分析する
  • パフォーマンスの高い組織の93%は、AIまたは予測分析を利用してテクノロジーのパフォーマンスを測定しており、これは他の組織より23%上回る。

5.パフォーマンスの高い組織の姿勢と行動:7つのヒント

本レポートに示されたパフォーマンスの高い組織の姿勢と行動は、テクノロジーイノベーションから価値を確保する方法について、以下のようなヒントを与えてくれます。

01 FOMO(Fear Of Missing Out:取り残されることへの不安)の罠に陥らない
周囲に流されることなく、組織の戦略目標に基づいた意思決定を行い、進むべき正しい道を示す具体的な根拠を見極めることが重要。
02 価値の定義と実現を実証的に行う
ステークホルダー間で具体的な測定基準に落とし込まれた明確な成功の定義を共有する。内外の変化に応じて測定基準を継続的に監視・調整する手順によって、組織は確信を持って決定を行い、約束された価値を生み出すことができる。
03 技術的負債を軽減する
構造化された技術的負債管理を採り入れる。明確な改善計画と堅牢なアーキテクチャの原則を確立し、テクノロジー環境を適切に制御し、最適化する。
04 パートナーシップの力を最大限に活用する
選んだパートナーと連携し、共同投資を行い、リスクを分担する新たな方法を模索する。パートナーのネットワークを利用することで、世界中の最新テクノロジーと革新的なアイデアにアクセスが可能。
05 信頼とセキュリティを最優先事項とする
ソリューション開発にセキュリティ・バイ・デザインを導入し、最初から信頼とセキュリティを組み込む。AIおよび最新テクノロジーのソリューションを、責任ある倫理的方法で設計、構築、展開、活用することで、組織は確信を持って価値の創出を加速できる。
06 強固なデータ基盤を構築する
データ、人材、プロセス、ポリシーを組み合わせた、堅牢なデータ管理体制を確立し、信頼性と関連性を持った情報が適切に使用されるようにする。組織全体で、迅速かつ十分な情報に基づいた意思決定を支援するために、データをより効果的に活用する方法について共通認識を醸成する。
07 知識共有を通じてAIの活用能力を高める
従業員のAIに関する能力と意見を把握し、その情報を利用して知識のギャップを埋める最適な方法を決めるとともに、継続的な学習および部門間協力を促進する。

※調査結果の全文はPDFよりご覧いただけます。

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