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      1.はじめに

      現在、CIOやIT部門長には、経営からの厳しいプレッシャーのもと、企業変革を推進するために投資対効果のあるDXの実現が求められています。また、日々の運用・保守対応やシステム開発に追われ疲弊する現場を支え、健全な組織へ作り変えていくことも求められています。理想と現実のはざまで、難しい舵取りが日本企業のCIOやIT部門長に迫られているのです。

      同様に、実際のシステム・AI導入現場でも日々困難に直面しています。全社改革を掲げてDXに着手するも、現行業務からの脱却に苦慮し「現行業務保証」の名目で改革が行き詰まってしまう。現行システムを運用し、また最新技術動向の理解があるにもかかわらず、業務変革の議論は事業部に譲り一歩引いた場所に立たざるを得ない。結果として複雑化した業務・システムを支えるための日々のシステムオペレーションは、担当者の暗黙知と職人的なスキルによって疲弊しながら支えられています。このような現場と無縁なIT部門は、ほとんど存在しないのではないでしょうか。

      AIエージェントが業務に入り込み始めた今、データ・システムを統べるIT部門には過去最大の追い風が吹いています。IT部門を長年縛ってきた制約から解き放たれ、IT部門が主役として企業変革を主導できる--その好機が到来しているのです。

      本稿では、2035年のIT部門が企業変革の主役を担う未来を見据えています。インターネット革命やクラウド普及の歴史を振り返ると、新しい技術は誕生から10~15年で通常業務に浸透しました。生成AIが社会に広く認知された2022年を起点とすれば、2035年にはAIが特別な存在ではなく、多くの企業において事業運営の前提として活用されていることが想定されます。

      物語の主役はCIOもしくはIT部長として組織を率いる「あなた」です。

      2.2035年、IT部門は企業変革の主役になる

      本章では、2035年のIT部門の姿を、架空のストーリーを通じて描きます。なお、本ストーリーは将来を予測・断定するものではありません。

      2035年のある月曜日の朝。出社してすぐ、スマートスピーカーからの音声報告を受ける。

      「週末に基幹システムで検知した3件のアラートはすべて自己修復済みです。うち1件は支払遅延の予兆がありましたが、調達システムの修正データを経理システムに再連携し取引先への影響が生じる前に解消しています--」

      かつて100人規模で回していたシステム運用は、いまやAIエージェント群に代わり、10人の頼れる社員がそのマネジメントを担っている。2026年当時に投資コストを圧迫していた外部ベンダーへの運用業務委託もAIと内製に置き換えた。創出効果はさらなるAI投資と社員還元に振り向けられている。毎年12月は賞与金額を確認する社員の驚き喜ぶ顔が見られ、1年で最も好きなシーズンになった。

      続けてプロジェクターに投影された進捗ダッシュボードのグリーンランプを眺める。目下の注目プロジェクトは、製品開発部とともに推し進める『人同士のリアルな絆を深める』ことを目的としたAI搭載プロダクトの新規開発案件だ。

      「競合が繰り出す値下げ競争から距離をとりたい、3ヵ月以内に対抗策を打ってほしい」

      思い出せば、このプロジェクトの発端は社長からのラフな相談だった。かつてであれば製品開発部に要求をヒアリングし、要件定義書を作成し、開発ベンダーを選定し--それだけで数ヵ月を要していただろう。

      しかし今は違う。頼れる少数精鋭の全社改革チームをアサインした。製品開発・営業・マーケティング・カスタマーサポート・製造・財務・調達--各領域の業務改革を推進してきた選りすぐりのメンバーだ。会議室で、時に居酒屋で、喧々諤々の議論を交わした。業務部門と討議した内容をAIエンジニアがプロトタイプへと落とし込み、翌朝にはAIパートナーを交えて再討議する。そんなサイクルを重ね、1週間で構想を練り上げた。

      「そろそろかな」

      そう思ったところで奥の会議室から社長が出てくるのが見えた。この頃は毎日のようにコーヒーブレイクに誘われる。

      「そろそろコーヒーにしないか。新規事業案件で相談があるんだ」

      相談というが半分は家族の自慢話だ。思わず苦笑いしながら「ええ、ぜひ」と応じる。オフィスを出る前に振り返ると、AIを交えてディスカッションするチームメンバーの姿が目に入る。10年前、周囲の冷たい視線と一時的な品質低下に対する批判を浴びながらもAI×内製に舵を切った自分の判断を思い出す。

      少しの達成感とともに社長を乗せたエレベーターに乗り込んだ。もはやIT部門はシステムを作る部門ではなく、AIと共に企業の未来を描き、改革をリードする部門になっているのだ。

      3.生成AIがIT部門の構造課題を解消する

      2026年に戻りましょう。先ほどの未来像とのギャップ分析からはじめます。これまでIT部門が企業変革を主導できなかった原因は、技術力やスキルの不足ではありません。企業変革を阻む構造的な障壁にあったのです。その一つひとつが、今、生成AIによって外れようとしています。

      【IT部門を縛ってきた制約(一例)】

      これまでの問題

      なぜ起きていたか

      生成AIによる解消

      変革後の業務像(To Be)を描けず、要望に応じるだけの対応になってしまう。

      業務部門は販売・現場・業務プロセス・商習慣を知り尽くす一方、IT部門は技術に詳しくとも業務の機微を捉えきれない。業務知識の非対称性により、業務のあるべき姿の議論は業務部門に譲り、IT部門はシステム構築を担う側であり続けた。

      AIにより業務理解のハードルが大幅に下がる。事業部と対等にTo Beを構想できるようになる。

      定常業務に人・予算・判断が割かれ、攻めのDXに転換できない。

      システム運用保守は業務を止めないために不可欠であり、人手を要する。運用保守を守りながら変革を進めるという相反の要求に板挟みになり、現場は疲弊していった。

      AIにより定常業務が解消される。解放した余力(人材・工数)を攻めのDX・AXへ振り向けることが可能になる。

      開発案件が肥大化・長期化し、変革スピードに追いつけない。

      失敗が許されないシステムやプロジェクト運営には柔軟性が犠牲になりがちで、後戻りを許容しない前提で設計せざるを得ない。結果として案件は肥大化し開発は長期化していった。

      AIにより開発が高速化・低コスト化される。小さく速く、変革を進められるシステムの実現が可能になる。


      特に本質的な課題は、現場の業務知識の非対称性であったと考えています。業務部門は販売・現場・業務プロセスなどを知り尽くしている一方、IT部門は技術に詳しいにもかかわらず、「業務のあるべき姿」の構想では常に業務部門に一歩を譲りがちです。

      しかし生成AIによって、状況は変わります。AIはデータを用いて個人や特定部門に閉じていた業務知識を可視化し、組織で扱える資産へと変えます。IT部門はその業務知識を武器に持ち、事業部と対等に構想できるようになるのです。全体を俯瞰しながら具体的な業務検討の場でも議論をリードする--そのような存在へと変わる可能性が広がります。

      4.AI時代に求められるIT部門の新たな役割

      制約から解かれたIT部門は、何を担う組織になるのでしょうか。私たちは、その役割を次のように定義します。

      AI時代のIT部門の役割:経営に問いかけ、意思を企業能力へ変換する

      これまでのIT部門は、経営や業務部門から示された要求をシステムに落とし込む役割を担ってきました。今後価値の重心は「正しく作る」ことから、その手前の「何を実現すべきか」を構想することへ移ります。

      経営が実現したい状態を読み解き、そのために企業がどのような能力を持つべきかを構想する存在。さらには、現状を見渡し経営に問いかけを行う存在。課題を提起し、人・組織・ルール・業務プロセス・システム・データ・AI・社外ステークホルダーを組み合わせ、企業全体として継続的に成果を生み出す存在です。

      ただ、この好機を前に手をこまねいていると、失われていくのは時間だけではありません。社内の事情、システムの成り立ち、運用の勘所を知り尽くした人材の退職こそ最大のリスクです。時間の経過とともに、IT部門にとって価値の高い暗黙知や専門人材が社外へ流出しかねません。一度空洞化してしまうと、いざAIという武器を手にしても使いこなすことが難しくなります。

      社内の文脈を理解しAIをパートナーとして企業変革を力強く進められる人に光を当て、彼らに挑戦の喜びと十分な報酬を与えられる環境の実現が求められます。追い風が続くのは、業務と技術をつなげる人材が社内にいる間に限られることに注意が必要です。

      5.IT部門が企業変革を主導するための3つのステップ

      最後にこの追い風を掴みにいくための3つのステップを示します。

      【IT部門の進化の3ステップ】
      Japanese alt text: 生成AIがもたらすIT部門の再構築_図表1

      ステップ1:自らがAI導入の先駆者になる

      まず自らの業務を徹底的にAI化します。ここで生まれる創出効果と挑戦機会こそが、人材をつなぎとめる環境の第一歩になります。大変な苦労を伴うでしょうが、この経験なくして他部門にAI変革を語る説得力は生まれません。

      まずは過去の知見の蓄積が多いシステム運用の問合せ対応や障害対応から始めるのを推奨します。その後、そもそも問合せや障害が発生しないシステムへと、AI主導で作り変えていきます。システム開発管理でもAI活用が可能です。

      本ステップの具体的な手法は、当連載の過去記事(第1回、第2回、第3回)で解説しています。

      • ゴール:定常業務をAI前提で再設計し、変革へ振り向けられる余力を創出する
      • KPI例:導入AIエージェント数、定常業務の工数削減率、AIエージェントによる業務完結率 など

      ステップ2:余力を業務部門の変革へ投資する

      ステップ1で生まれた余力を、人員削減ではなく、業務部門のDX・AX変革へ振り向けます。事業部の業務担当者とともに問いを設定し、解を導く。この活動で得た業務知識やノウハウを再利用可能な組織知として蓄積し、一部門での成功を他部門へ横展開します。ステップ2は業務改革の試行と人材育成の場でもあります。現場で汗をかいて1次情報を集め、解くべき問いを立て、経営・現場・技術の言葉をつなぐリーダーを育てるのです。

      • ゴール:変革経験を蓄積し、成果事例を創出する
      • KPI例:業務部門との共同変革案件数、他部門へ横展開されたユースケース数、創出した事業効果 など

      ステップ3:経営アジェンダ実現の最初の相談相手になる

      変革経験と成果が積み上がると、IT部門は「このシステムを作ってください」という依頼の受け口ではなく、「この経営課題をどう実現すべきか」という相談が最初に持ち込まれる組織になります。

      ステップ3が目指すゴールで、このときIT部門は経営の意思を企業能力へ変換する中核組織になったと言えるでしょう。

      • ゴール:経営・事業戦略の構想段階から参画する中核組織として認知される
      • KPI例:構想段階から参画した経営アジェンダ数、最初に相談を受けた案件数、共同オーナーとして成果責任を持つ案件数 など

      6.おわりに

      2035年。IT部門という部門名は別の名称へと変わっているかもしれません。そこにいるのは、システムを管理するだけの部門ではありません。経営と現場のパートナーとして経営の意思を企業能力へ変換し、企業変革の中心に立つ組織です。

      この3ステップは時間がかかり、成功が保証されているわけでもありません。その成長を実現するパートナーとして、KPMGコンサルティングは今後も企業の変革を支援していきます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      マネジャー 兼子 恭輔
      スペシャリスト 堀川 裕史

      「IT部門における生成AI活用」第3回

      障害対応や問い合わせ対応を例にとり、生成AIを業務フローへ組み込むことで得られる効果を整理し、IT運用部門がQCDを高めていくための示唆を提示します。

      企業の業務・システム環境に応じた生成AIの導入から、ツールの活用効果を着実に高め、導入成果の最大化実現まで支援します。

      企業価値向上に向けた生成AIを活用したトランスフォーメーションを支援し、各企業のさまざまなプロジェクトをサポートします。

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