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      本連載は、「IT部門における生成AI活用」と題して、生成AIを起点にIT部門の価値創出を支援する実践知についての解説記事です。

      第1回目となる本稿では、要件定義書の作成およびレビューの業務を対象に、生成AIをどのように位置付け、活用の可能性を検討できるかを整理します。まずは要件定義書に関連した業務を取り巻く背景を簡単にまとめ、作成支援・レビュー支援に関する施策を提示したうえで、最後に構築・検証に向けた考え方を解説します。



      1.背景:要件定義書関連業務における課題

      IT部門における要件定義書は、システム開発や業務改善において、満たすべき業務要件や制約条件を明確にするための重要な文書です。業務のデジタル化が進む現在においても、こうした要件定義書の作成やレビューは、自動化や単純な効率化が難しい業務として残っています。業務要件の整理や前提条件の置き方、関係者間の認識を揃えるための記述など、人の判断や文脈理解が強く求められるためです。

      要件定義書の作成においては、過去の検討経緯や前提条件を整理しながら、業務要件やシステム要件を構造的に定義し、関係者の理解や合意を意識した形で記述することが求められます。一方、レビューでは、限られた時間のなかで要件の整合性や網羅性を確認し、不足や曖昧な点を整理して指摘する必要があります。いずれの工程も、検討と文章化を行き来しながら進めることが避けられず、正解が1つに定まらない判断を伴います。このため、要件定義書の作成やレビューは、作業を単純に分解したり自動化したりすることが難しい業務となっています。

      近年、生成AIは文書生成や要約、表現の言い換えといった言語処理を得意とする技術として、さまざまな知的業務への適用が検討されています。報告書の下書き作成や文書レビューの補助などにおいては一定の活用事例も見られます。こうした生成AIの特性を踏まえると、要件定義業務に含まれる要件整理や構造化、記述の言語化といった工程が、どの程度業務代替や高度化の対象となり得るのかが、検討すべき論点として浮かび上がります。

      そこで本稿では、生成AIによって要件定義書業務の変革を成功に導くための基本方針を提示します。

      2.施策(1):要件定義書の作成業務での生成AI活用

      要件定義書の作成業務では、整理すべき情報が多く、あらかじめ項目やフォーマットが定められていることが一般的です。一方で実務の現場では、「何をどの粒度で定義すべきか」「業務要件や制約条件をどのように整理すればよいか」がわかりにくく、形式は満たしているものの、前提や検討の背景が十分に整理されないまま文書が作成されるケースも少なくありません。その結果、レビュー段階で追加の説明やヒアリングが必要となり、手戻りが発生します。

      この要件定義書作成業務に対する施策として、生成AIを業務部門との「対話型ヒアリング役」として位置付けることが考えられます。業務部門とAIが対話するなかで、背景、業務課題、制約条件、想定される要件を段階的に言語化していくことで、定義すべき事項が整理されます。AIはその対話内容をもとに、フォーマットに沿った構成へ落とし込み、要件定義書のたたきを生成します。

      このアプローチのポイントは、生成AIに完成した要件定義書を作らせることではなく、人がAIとの対話を通じて要件を整理し、定義の精度を高めていく点にあります。結果として、初期段階から前提や要件が明確な文書となり、後続のレビューや追加ヒアリングの負荷を抑えることが期待されます。

      【施策(1):要件定義書の作成業務での生成AI活用イメージ】
      Japanese alt text: 生成AIを活用した要件定義書作成・レビュー高度化のポイント_図表1

      3.施策(2)要件定義書のレビュー業務での生成AI活用

      要件定義のレビュー業務では、要件定義書から必要な情報を読み取り、要件の整合性や網羅性を確認し、フィードバックを行うまでに相応の時間を要します。要件内容には案件ごとのばらつきが大きく、どの観点で確認すべきかが明文化されていないケースも少なくありません。その結果、レビューの多くがベテラン担当者の経験や勘に依存しやすくなります。こうした状況では、レビュー品質にばらつきが生じやすく、また経験の少ない担当者にとっては「どのようにレビューすればよいのか」を学ぶこと自体が難しくなります。

      これに対する施策として、まずチェック観点の言語化・標準化を行います。続いて標準化した観点を生成AIに与え、要件定義書の内容を確認させます。生成AIは、記載が不足している箇所や、整合性の観点から追加検討が必要な箇所を抽出し、フィードバックのドラフトを作成します。これにより事前に論点を整理し、フィードバック案を用意することで、レビュアーは重要な判断や意思決定に集中できるようになります。その結果、レビュー品質の均一化とともに、資料の読み込みやフィードバック作成にかかる工数の削減が期待されます。

      【施策(2):要件定義書のレビュー業務での生成AI活用イメージ】
      Japanese alt text: 生成AIを活用した要件定義書作成・レビュー高度化のポイント_図表2

      4.構築・検証:アプリケーションの構築と検証

      生成AIを活用したアプリケーションの開発では、プロンプトによって回答が大きく変化する「出力の不確実性」がある、開発者が想定した「答え」が現場のユーザーにとって役立つものであるかどうかがわからないといった課題を抱えています。また、開発中に次々と高性能なモデルや便利なライブラリが登場し、あるべき「システム像」が変化する可能性があります。そのため、初期計画に縛られず柔軟にシステムを更新することができるアジャイル開発を選択することが一般的です。

      アジャイル開発を成功させる鍵は、最初から完璧なシステムを目指すのではなく、AIの回答が「実務で役に立つか」を現場の視点で素早く検証し、改善を繰り返すことです。理想的な回答を追うのではなく、対話を通じて精度を上げるサイクルこそが開発の核心となります。まずはプロジェクトチーム内での検証を行い、確かな手応えを得られたら、次は特定の部署や先行ユーザーグループへと対象を限定して公開し、現場特有の多様な入力パターンやニーズを段階的に吸収していきます。

      このように小さな成功と改善を積み重ねながら適用範囲を拡大していくことが、最終的に組織全体への価値を定着させる近道となります。

      5.まとめ

      ここまで要件定義書業務に対する生成AI適用方針を示してきましたが、重要なのは「いかにAIに任せるか」ではなく「AIと人間の役割を明確化すること」です。単なる業務の自動化ではなく、要件定義書作成とレビューの業務構造を見直し、人間が本来向き合うべき検討や判断に時間を使える状態を作ることがポイントだと考えられます。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアコンサルタント 堀川 裕史

      企業価値向上に向けた生成AIを活用したトランスフォーメーションを支援し、各企業のさまざまなプロジェクトをサポートします。

      企業の業務・システム環境に応じた生成AIの導入から、ツールの活用効果を着実に高め、導入成果の最大化実現まで支援します。

      企業が求める迅速なDX推進に対し、KPMGが保有するさまざまな知見を活かし、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援します。

      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

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