かつては、管理職は、社会的な評価につながる役割とされ、多くの社員が目指すポジションでした。しかし近年、状況は大きく変わっており、管理職を志向する社員は少数派となっています。
さらに、少子高齢化による労働人口減少や人材流動化の加速といった構造的な変化が進むなか、管理職人材を確保し続けることは難しくなっています。結果として、管理職候補の計画的な育成がこれまで以上に重要だと言えます。
本稿では、管理職を志向する社員が少数派となっている背景にある構造的な要因を整理したうえで、管理職不足解消に向けたアプローチについて提言します。
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1.管理職志向を押し下げる構造的要因
管理職志向が少数派になっている背景には、管理職業務の複雑化・高度化による「負担の増加」と、共働き世代の増加による「仕事と家庭の両立志向の高まり」があると考えられます。
(1)管理職業務の複雑化・高度化による負担の増加
ダイバーシティの進展によるマネジメントコストの増大
従来、多くの日系企業では、男性社員を中心とした同質性の高い職場が一般的で、暗黙の了解で業務が進んでいました。しかし近年、女性活躍推進、外国籍人材の採用、中途採用の増加、非正規から正社員への登用などにより、組織内の多様性が高まりました。その結果、価値観・働き方・スキルが異なるメンバーが同じチームとして働くことがあたりまえになり、業務の進め方や品質の基準などをすり合わせるコミュニケーションにかかる時間や労力がこれまで以上に増えていると考えられます。
コンプライアンス意識の高まりによる指導の難しさ
近年、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の施行を背景に、管理職が部下を指導する際の言動には、これまで以上に配慮が求められるようになりました。そのため、「指導がハラスメントと受け取られるのではないか」という心理的なハードルが生まれ、メンバーに対して必要な指導・フィードバックに踏み込みにくい場面が増えています。
指導が十分に機能しない状態が続くと、「ミスが再発しやすくなる」「メンバーに任せられる範囲が広がらない」などの問題が起きやすく、本来はメンバーへ任せるべき業務が管理職に滞留しやすくなっています。
働き方改革の推進による管理職のプレイングマネジャー化
働き方改革が進み、一般社員の労働時間は厳格に管理され、働きやすさは向上しました。しかし、部門全体の業務量は以前と大きく変わっていないため、メンバーに割り振れない業務の受け皿として管理職に業務が集中し、本来のマネジメント業務に加え、プレイヤーとしての業務も兼任する傾向が強まっています。
(2)共働き世代の増加による仕事と家庭の両立志向の高まり
近年、共働き世代が増加し、管理職に昇進しなくとも、世帯としての経済的な安定を確保できるケースがみられます。また、家事の分担を男女ともに担うことが一般的となるなか、管理職へ昇進に伴う業務負担の増加を引き受けにくい状況も生じています。こうした背景により、昇進によるメリットの捉え方にも変化がみられるようになっています。
2.管理職不足解消に向けたアプローチ
前述した要因を踏まえ、企業が取るべきアプローチは次の3点です。
- 管理職の役割・業務の再設計
- 管理職のウェルビーイングの向上
- 管理職の能力開発機会の提供
(1)管理職の役割・業務の再設計
第一に着手すべきは、「管理職が本来果たすべき価値」を再定義し、業務を再設計することです。具体的には次の3ステップで実施します。
ステップ1:管理職が担うべき役割(コア業務)を明確にする
管理職が果たすべき中核的な役割としては、一般的に「仕事のマネジメント」と「人のマネジメント」の2つに大別されます。しかし現状、多くの企業では、管理職の役割が曖昧なまま業務が積み上がり、プレイヤー業務や事務処理など管理職が本来担うべきではない業務まで抱え込んでしまっているケースも散見されます。こうした状況を改善するためには、管理職が担うべき役割(管理職でなければ価値を発揮できないコアな業務)は何かを明確にし、それを職務記述書等に明文化し、組織全体に共有・浸透させることが重要です。
ステップ2:現在の業務実態を棚卸し、コア/任せる/やめるに分類する
役割の再定義の次に必要なことは、管理職が実際に担っている業務を可視化することです。形式的な職務記述でなく、実働ベースで業務内容・所要時間・頻度・組織成果への影響度を洗い出します。そのうえで、棚卸した業務は、「コア業務」「任せる業務」「やめる業務」に分類します。
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ステップ3:分類した業務を再配置する
業務の棚卸し結果を基に、業務を再配置し、管理職がコア業務に集中できる環境を整備します。「任せる業務」のなかでも、AI、ワークフローなどのデジタルツールで代替可能な業務は、積極的に自動化し、作業の負荷を大幅に減らすことが可能です。一方でデジタル化が難しい領域については、メンバーへの権限移譲や役割付与により、管理職が担う必要のない業務を削減します。
特に、近年では定年年齢の延長を背景にシニア人材の活用価値が高まっています。長年培った専門知識、顧客との関係性、若手育成のスキルを活かし、既存領域の深耕や担当領域の方針検討のアイディア出し、人材の育成など本来管理職が担っていた業務の一部を任せることも可能です。このように、自動化・権限移譲・シニア/専門人材の効果的な活用を組み合わせることで、管理職が本来の役割である「仕事のマネジメント」と「人のマネジメント」に集中できる体制を実現します。
(2)管理職のウェルビーイングの向上
第二に、役割の再設計と並行して、管理職が仕事と家庭の両立をできる環境を整えることも重要です。
特に、育児・介護などのライフイベントと管理職への昇進時期が重なる場合、「管理職=長時間・常時出社」というイメージが強く、昇進をためらうケースも少なくありません。こうした状況を解消するためには、働き方の柔軟性(時短・リモート)を管理職でも可能にすることがポイントです。時短勤務については、役割や成果を基準に評価し、時間ではなくアウトプットを重視する設計へ転換することが必要です。また、リモートワークについては、「どの業務に対面が必要か」という観点から業務を整理し、設計を見直すことが求められます。
さらに、ライフステージに合わせたキャリアの選択肢を用意することも、昇進への心理的ハードルを下げるうえで効果的です。一度管理職に就いたら役割が固定されるのではなく、ライフイベントに応じてキャリアを選択できる環境を整備することも一案です。
(3)管理職の能力開発機会の提供
管理職の負担を減らしたうえで、管理職に対する能力開発の機会を提供することも重要です。
多くの企業では、管理職へ昇格するタイミングで、マネジメントに関する基礎的な研修を実施しています。しかし、研修で得た知識を現場で定着させるための継続的な支援体制が整っておらず、実践は各管理職に任されているのが実情です。また、プレイヤーとしての業績や専門性を基準に登用されるケースも多く、マネジメント適性や育成力を十分に見極めないまま任用されている実態があります。従って、役割の再設計と並行し、管理職が持続可能に職務を遂行できる環境整備が不可欠です。
3.おわりに
管理職不足は、単に志望者が少ないという表層的な問題ではありません。その本質は、制度・業務・育成などを時代変化に適合させ、構造的課題として捉え直す必要がある点にあります。本稿で整理したとおり、まずは管理職の本来業務を再定義し、実際に担っている業務を再配置することが出発点となります。そのうえで、柔軟な働き方の確保や体系的なマネジメント人材の開発、役割に見合った報酬制度の整備を一体的に進めることが不可欠です。
管理職不足への対応は組織競争力を左右する経営課題です。管理職を再度多くの人々にとって魅力あるキャリア選択の1つとして示すことが持続的な組織成長につながります。
今回紹介した内容以外にも、KPMGはさまざまな企業を支援してきた事例と知見を有しています。ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 志間 静香
コンサルタント 河野 恵輔