KPMGは、2025年10月、ProFuture株式会社が主催する「HRエグゼクティブコンソーシアム」の第3回分科会にて、「企業価値を高めるこれからのウェルビーイング」をテーマとしたセッションを開催しました。
前回は、社員のパフォーマンス向上につながる「具体的なウェルビーイング施策」と、その推進役である「人事部の役割」についてディスカッションを通して深めていきました。最終回となる今回は、個人のウェルビーイングを軸に、自社が目指すウェルビーイングのゴール、それを阻害する要因を深掘りし、解決に向けたアクションを明確にします。
1.自社のウェルビーイング推進に向けて
第1回・2回の分科会では、「日本企業のウェルビーイングの現在地」「企業担当者が抱える課題」「ウェルビーイング施策」について議論しました。多くの企業が、自社のウェルビーイングの定義が曖昧であることから、まずは自社にとってのウェルビーイングを言語化し、社内外に明確なメッセージを発信することが重要であるという点が共通認識となりました。
また、人的リソースの不足により、ウェルビーイング推進の取組みが一過性に終わってしまうケースがあることも明らかになりました。ウェルビーイングは若手の定着率の向上につながるため、現場にとっても重要なテーマとなります。そのため、経営層はこの課題を「コスト」ではなく「投資」と捉える視点が必要です。
ウェルビーイングを戦略的に推進することは、企業文化を進化させます。そして、人材の価値を最大限に引き出すことへとつながり、人的資本経営の実現に近づくことができます。人的資本経営の前提は、「人材の価値が持続的に発揮されること」です。ウェルビーイングが実現されることで、心身・心理的な土台が安定し、新しい挑戦やスキル向上などの人的資本の価値発揮につながっていくと考えます。
分科会で共有された課題のなかには、「ウェルビーイングに対する経営方針の不在」も挙げられました。経営層がウェルビーイングを“経営課題”として捉え、語ることができれば、推進の方針が明確になり現場での施策も円滑に展開されていきます。
こうしたウェルビーイングの現状・課題の把握を踏まえ、第3回の分科会では、自社のウェルビーイング経営の実践を推進するための準備に焦点を当てました。具体的には、個人・自社のウェルビーイングについて改めて考え、自社のウェルビーイングの向上に向けた課題を深掘りしてもらい、社内のウェルビーイング経営を推進するための議論のポイントとアクションプランを明確にしていきました。
2.自社のウェルビーイングを考える前に、自身のウェルビーイングが必要
自社のウェルビーイングのアクションプランを検討するにあたり、まず整理しておきたいことは「自身のウェルビーイング」です。「会社のウェルビーイングを考えるのに、なぜ個人のウェルビーイングが必要なのか?」と疑問に思うかもしれません。その理由は、自身のウェルビーイングを明らかにすることで、自社のウェルビーイングを「自分ごと」として捉え、社内での説得力を高めることにつながるからです。目指すべきは、自社のウェルビーイングを自分の言葉でナラティブに(主観的な意味付けを行い)語れる状態です。
自身のウェルビーイング検討の最初のステップは、これまでの人生で価値観が形成された原体験を整理することです。どのような体験を通して、どのような感情を抱き、どのような学びを得たのかを振り返ります。そのうえで、原体験に基づき「大切にしている価値観」を明確にしながら、自身のウェルビーイングを考えていきます。
さらに、個人のウェルビーイングの観点として、主に以下が挙げられます。
- キャリアウェルビーイング
- ソーシャルウェルビーイング
- ファイナンシャルウェルビーイング
- フィジカルウェルビーイング
- コミュニティウェルビーイング
価値観に紐づくウェルビーイング指標を選定し、指標ごとに整理することも有効です。
分科会のワークでは、個人のウェルビーイングを考え、それを踏まえた自社のウェルビーイングを検討しました。個人と自社のウェルビーイングを無理に結び付ける必要はありません。「ウェルビーイング」が自身のなかで明確なものとなり、社員から「ウェルビーイングとは何か」「なぜ大切なのか」「エンゲージメントとの違いは?」と問われた際に、ナラティブに答えられる状態を目指します。
実際のワークでは、「健康」「お金」「時間」「人間関係」「家族」等のキーワードが共通して挙がりました。普段、自分自身が「心地よい」と感じる状態や行動に焦点を当てると、上記以外にもさまざまなキーワードが出てくると思われます。
【個人のウェルビーイングのキーワード(ワーク内議論より一部抜粋)】
キーワード | 個人のウェルビーイング |
|---|---|
健康 |
|
笑顔 |
|
このように、まずは難しく考えず、素直な気持ちで自分自身のウェルビーイングに向き合ってみるとよいでしょう。自分にとっての理想的な状態を言語化することで、ウェルビーイングの解像度が高まり、自社のウェルビーイングを検討する際に、より具体的で説得力のある議論が可能になります。
3.ウェルビーイング向上への真の課題は、社員の“共感”
今回のワークで議論するなか、共通する課題が見えてきました。それは「社員の主体性」です。せっかく制度や施策を整えても、実際にはあまり使われなかったり、なかなか社内に浸透しなかったりすることがあります。これは、人事担当者がよく直面する悩みの1つではないでしょうか。
【ウェルビーイング施策推進上の課題(ワーク内議論より一部抜粋)】
キーワード | 課題感 |
社員の主体性不足 |
|
経営と現場間のギャップ |
|
多様な属性間のギャップ |
|
制度や施策が社員に使われない理由は大きく2つあると考えます。1つは、施策が社員のニーズと合っていない場合で、もう1つは、社員自身が「なぜ必要なのか」を理解していない場合です。
前者は、現場の声を反映しながら改善できますが、後者はより深い問題です。社員一人ひとりが、自分にとってのウェルビーイングを考え、主体的に取り組む“自分ごと化”が不可欠なのです。
このような課題感を踏まえ、最後のグループワークとしてウェルビーイングを推進するためのアクションプランを検討しました。日々の業務に追われ、ウェルビーイングについて考える時間をなかなか確保できない社員の主体性を引き出すには、何が必要なのでしょうか。
まずは、社員が自然にウェルビーイングに触れる機会を作ることが必要と考えます。たとえば、経営層や管理職が「自らのウェルビーイング」を語り、社内報やメールマガジン等を活用し、実現に向けた行動を示すことで、社員が知る/考える/共感を抱くきっかけを提供することが効果的です。
また、関心を抱いた社員に向けて、日常から離れ自身の人生・キャリアを見つめ直す機会(ワークショップ等)を開催し、そこで社員が感じたこと、行動したことを、社内報等のツールを活用して社員自ら発信していくことも有効です。これらはアクションプラン例ですが、こういった取組みによって徐々に社内にウェルビーイングを考える機運が高まり、「会社」ではなく「個人」に主体を置いた共感の積み重ねが、企業文化そのものを変えていくと、筆者は考えます。
4.企業に求められるウェルビーイング経営とは
これまで、全3回にわたり、「ウェルビーイング経営とは何か」、その推進のために必要なことを考えてきました。改めてウェルビーイング経営とは、従業員一人ひとりが「心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態で働けるようにすること」を経営の中心に据える考え方です。
繰り返しになりますが、ここで重要なのは、“従業員一人ひとり”に焦点を当てることです。なぜなら、企業価値を支えているのは、まさにその一人ひとりのパフォーマンスだからです。
従業員が満たされた状態で仕事に向き合うことで、生産性や創造性が高まり、業績やイノベーション、顧客満足度の向上につながります。さらに、人材確保やリテンションの改善によって企業ブランドが強化され、従業員の自律性が養われることで、企業の持続的成長やレジリエンスの強化にもつながるのです。経営視点から見ても、ウェルビーイング経営は多くのポジティブな効果をもたらします。
こうした企業カルチャーの変革やデザインを描く主体は人事にあります。人事は、自身も従業員の1人でありながら、同時に従業員一人ひとりと経営をつなぐ唯一の組織です。だからこそ、従業員が安心して成長し挑戦でき、互いに支え合えるカルチャーを描き、実現していく役割を果たすことができます。そして、そのカルチャーづくりの起点となるのが、ウェルビーイングへの理解です。
本稿を通じてウェルビーイング経営に関心を持たれましたら、まず自分自身と向き合い、“自分にとってのウェルビーイングとは何か”を考えることから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな内省と気付きが、組織の未来をつくる大きなヒントになり得ます。
KPMGは、企業のウェルビーイング推進における豊富な支援実績とナレッジを有しています。ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 栗村 愛美
コンサルタント 二村 薫