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      「海外事業管理に関するトレンドと実務上のポイント」と題して、海外事業管理における課題や管理強化のポイント、近年のトピックを踏まえたグループガバナンスの在り方について、全3回にわたり、事例も交えて解説します。

      第1回の本稿では、日本企業の海外事業展開に関するリスクや課題について、現在の社会状況も踏まえて概観し、改めてグループガバナンスの在り方やその必要性について考察します。
      なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

      1.海外事業管理に関するリスクの多様化

      近年、日本企業を取り巻く環境はますます複雑化しており、不確実性が高まっていることにもはや異論の余地はないと言えるのではないでしょうか。ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立の激化、中東地域における紛争などにより、地政学リスクは、各社の経営上の重要アジェンダとして急浮上しています。急速に進行する地球温暖化を背景に、気候変動リスクや脱炭素化への対応も喫緊の課題です。さらには、仕入先や取引先などのサードパーティにおけるインシデント発生時において、自社のレピュテーションに影響が生じるケースもあり、各社はこうしたサードパーティ管理についても対応を求められています。

      海外子会社管理は、多くの日本企業にとって従来から存在する課題でしたが、このように複数のメガトレンドが相互に影響を及ぼす状況においては、グループおよびグローバルの連携に基づく対応がますます重要なものになっています。本社側・現地側の体制・責任者の明確化や、意思決定・報告プロセスの再整備、さらには設計した手順に基づき適切に業務が実施されていることを確認するモニタリングフローの構築など、各社の海外事業管理やグループガバナンスの在り方の見直しの必要性が高まっています。

      【図表1:近年、特に注視が必要な課題・リスクと主要論点】

      地政学・経済安全保障

      • 各国の規制動向・カントリーリスク等を踏まえた、リスクの特定と評価
      • リスク顕在化に備えたシナリオ分析と対応策の検討 等

      気候変動・脱炭素

      • 気候変動リスクの特定とGHG排出量の削減目標の設定
      • GHG排出量のモニタリング体制・プロセスの整備 等

      人権

      • 自社における人権課題の特定と、対応方針の策定
      • サプライチェーン全体を対象とした、人権デューデリジェンスの実施
      • 苦情処理メカニズムの設計 等

      テクノロジー・データ

      • データの利活用促進に向けた体制・プロセスの整備 等

      サードパーティ管理

      • サードパーティリスクの評価と管理態勢の整備 等

      為替変動・物価

      • 価格戦略の見直しとコスト削減策の検討 等

      2.駐在員頼みの管理の限界

      これまで日本企業では、主要な海外拠点に対して日本人駐在員を派遣し、駐在員が本社とのリエゾン業務や現地における重要な意思決定等の中核的な役割を担うことで、グローバル経営を拡大してきました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、一部の企業では駐在員を一時的に日本に帰国させる対応も取られましたが、その結果、現地における業務遂行に影響が生じたケースもありました。これは駐在員任せの管理が常態化した結果、現地採用スタッフの育成や登用が進まない状況の表れと言えます。このような状況を打破するには、現地による自助努力だけでは限界があり、本社主導による抜本的な対応が不可欠です。

      KPMGの主催セミナー(「ポストコロナ時代の海外子会社管理 ~グループガバナンスの高度化に向けて~ 」)の参加者を対象に実施したアンケート(有効回答数:276)では、海外事業管理に関する課題として、「子会社管理に関する本社各部の責任が曖昧」(32.5%)や「グループ内の業務標準化不足と属人的な運用」(27.9%)との回答が多数を占めており、上記の状況を裏付ける結果が得られました。また、近年ではコロナ禍の渡航制限の影響による「海外子会社の現地訪問機会の不足」(12.2%)との回答も見られました。

      【図表2:海外事業管理の課題に関するアンケート結果】

      3.グループガバナンスとは

      ここで改めて、「グループガバナンス」とは何かという点について解説します。従来のコーポレートガバナンスの議論では、法人単位としての機関設計や取締役会の役割、社外取締役の在り方等を対象としていましたが、実際の経営はグループ単位、連結ベースで行われています。グループ全体としての企業価値の向上やリスク管理の取組みを強化し、持続的な成長に結び付けるためには、企業集団全体を対象としたグループガバナンスの実効性の確保が課題と言われています

      グループガバナンスの議論においては、本社のみでも、子会社のみでもなく、本社と子会社(地域統括会社を含む)の役割・責任や権限体系の設計、両社間の指揮・命令系統やレポートライン、報告・モニタリングの在り方等について検討を行います。これらの検討を通じて、「攻め」と「守り」の両面からガバナンスを機能させることで、グループ全体としての持続的な成長を実現することが肝要です。

      ※ 「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」(経済産業省)

      【図表3:コーポレートガバナンスとグループガバナンスの違い】

      区分

      コーポレートガバナンス

      グループガバナンス

      対象範囲

      法人(単体)

      企業集団(連結)

      主体

      株主

      経営者

      目的

      経営者の監視・監督と規律

      グループの企業価値向上およびリスクの最小化

      関連法令等

      会社法、金商法、コーポレートガバナンス・コード、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)

      グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)

      4.いま、求められるグループガバナンスの考え方

      地政学リスクの高まりを背景に、グループガバナンスの前提としての世界観についても急速な変化が見られます。資本や労働力の移動の自由を背景としたグローバル化とフラット化の時代が終焉を迎え、ブロック化と保護主義へのシフトが進んでいます。また、急速な円安の進行と新興国の台頭は、日本企業の競争力の低下を招き、各社はグローバル戦略の再考に迫られています。

      こうした世界観の変化を踏まえ、グループガバナンスに求められる考え方についても見直しが求められています。すなわち、従来のように日本の本社を中心に据え、日本から世界中のすべての拠点をコントロールするのではなく、日本を1つの地域・機能として捉え、グループおよびグローバルのガバナンスの在り方をフラットに見つめなおすことが必要です。また、ブロック化の時代においては、各地域や拠点に必要となる業務や機能を配置し、自律分散型の管理を検討することもますます重要と考えられます。

      5.まとめ

      本稿では、日本企業の海外事業展開に関するリスクや課題を概観し、いまなぜグループガバナンスの検討が求められているか、どのようなグループガバナンスが必要となるかという点について、解説しました。

      本連載の2回目以降では、グループガバナンスの強化に向けた具体的なポイントについて、KPMGの最新の支援実績を踏まえつつ紹介します。
      本連載が、貴社の海外事業管理やグループガバナンス強化に向けた取組みの一助となれば幸いです。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      マネジャー 米国公認会計士
      小杉 洋介

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