“2025年第1四半期、化学業界のM&A取引件数・取引金額はいずれも前年同期比で増加した。中国企業の統合に加え、借入コストの低下と事業再編が進んだことが増加の主な要因である。10億米ドル超の大型案件も6件成立し、投資家心理の急改善に寄与した。地政学的な不透明感が続いているものの、化学業界のM&Aの今後の見通しは明るい。ポートフォリオの再編、プライベートエクイティファンドによる取引の増加と、アジア太平洋地域での増加がM&A取引をけん引するだろう。”

CHRISTIAN KLINGBEIL
PARTNER, KPMG IN GERMANY

化学セクター概況

取引の背景

取引件数:2025年第1四半期、化学業界の取引件数は前年同期比で15%増加し、取引金額は241%もの著しい伸びを示しました。  

変革:増加を後押しした要因としては、借入コストの低下、リミテッドパートナー(LP)による資本リターン要求の高まり、中国における統合の動き、一般化学品企業による事業再編のほか、次世代テクノロジーを通じた変革に対する関心の高まりも大きく貢献しました。  

取引金額:10億米ドル超のディールが6件成立と、高額取引の件数は大きく増加しました。前年同期は大型案件が0件であったことに鑑みれば著しい伸長です。  

M&Aの目的:戦略的M&Aが中心で、全体の半数以上を占めました。強靭、急成長を遂げている、または収益性が高い事業領域へのシフトを狙ったカーブアウトや事業再編を通じて、ポートフォリオの最適化を図る動きが継続しました。  

M&Aの促進要因:米国の新たな関税措置やサプライチェーンの問題を背景に、企業が国内資産の取得を進めた結果、国内取引が全体の71%を占めました。 

公表案件数内訳(規模別)

図表1:公表案件数内訳(規模別)

地域別取引数及び金額

地域別取引数及び金額

化学セクターにおけるM&A取引の推移

図表3:化学セクターにおけるM&A取引の推移
図表4:化学セクターにおけるM&A取引の推移

今後の見通し
市場環境の改善や、PEファンドによる買収に至っていない優良資産の増加、投資家心理の向上、ノンコア資産の売却を通じたポートフォリオ再編などが、今後数四半期にわたって本分野の取引を下支えするでしょう。これらに加え、国内需要の増加やインフラ投資、米国・欧州経済の安定化、アジア太平洋地域の著しい成長も追い風です。企業のポートフォリオ見直しが進む中、中小・中堅企業によるM&A案件が継続的に発生すると予想される一方、潤沢な資金を持つPEファンドによる大型案件も期待されます。

M&Aハイライト

図表5:M&Aハイライト

スペシャリティケミカル

概況

M&A動向:2025年第1四半期のスペシャリティケミカル分野では、取引件数が前年同期比で22%、取引金額が164%増加しました。これは、サステナブルで高機能な製品への需要に応えるため、顧客志向のソリューション提供を目指してポートフォリオを再編する動きが強まっていることを示しています。

取引の特徴:展開地域の拡大や収益面のシナジー効果の最大化を目指す企業が戦略的投資を進め、本分野の取引をけん引しました。PEファンドでもサステナブルな資産を中心に活発な取引が続き、取引金額上位5件のうち3件をPEファンドの案件が占めています。また当四半期の取引の75%は国内案件であり、国内市場への強い注目がうかがえます。

M&A取引の推移

図表6:M&A取引の推移

ハイライト

図表6:ハイライト

今後の見通し
企業が中核資産に集中すべくポートフォリオを見直す中、スペシャリティケミカル分野の取引は医薬品、パーソナルケア、農業などの分野を中心にさらに勢いを増すでしょう。投資家は、革新的・顧客志向で、付加価値の高い化学品を生産するターゲットの獲得に注力すると見られます。


基礎化学品および石油化学品

概況

M&A動向:基礎化学品および石油化学品サブセクターでは、2025年第1四半期の取引件数は前年同期比で22%、取引金額は342%増加しました。この増加は、企業が市場における地位の強化や技術力の向上、サステナビリティの取り組みの強化、グローバル展開の拡大を狙って事業再編に積極的に取り組んだことが主な要因と見られます。

取引の特徴:アジア・オセアニア地域が取引をけん引しましたが、特にインドと中国における取引が活発で、当四半期に世界で実施された本分野の取引の28%を占めました。その背景には、急速な産業化、消費者需要の増加に加え、政府による国内製造支援政策があります。

M&A取引の推移

図表7:M&A取引の推移

ハイライト

Japanese alt text: ハイライト

今後の見通し
基礎化学品および石油化学品サブセクターにおけるM&A取引は、戦略的再編などを追い風に成長が期待されます。投資家は本分野に対する需要拡大を受けて、再生可能エネルギーの統合や、代替燃料の活用、技術革新の推進を手掛ける企業に注目しています。


販売事業者・その他

概況

M&A動向:販売事業者・その他サブセクターにおける2025年第1四半期の取引件数は前年同期比で5%減少した一方、取引金額は138%増となりました。後者は、取引意欲の再燃によりバリュエーションが著しく上昇した影響によるものです。小規模案件が中心であったものの、19億米ドルのメガディールも1件成立しました。

取引の特徴:展開地域の拡大やケイパビリティの強化、新市場への進出を目指す戦略的投資家の動きがこの増加を後押ししています。またPEファンドにおいて、高付加価値のサービスを提供し、安定した収益・強固な顧客基盤を有する専門販売事業者への関心が高まっていることも、取引の活性化に貢献しています。

M&A取引の推移

図表10:M&A取引の推移

ハイライト

図表11:ハイライト

今後の見通し
本分野の買い手企業は、今後の市場需要を見越したポートフォリオ再編や、AIの本格導入による主要業務の効率化を進めており、M&Aは成長基調にあります。 また、 堅調な北米市場に注目したクロスボーダーM&Aも活発に行われています。