“2024年第1四半期における化学業界のM&A取引は、件数・金額ともに前年同期を下回った。その主な要因は中国の成長鈍化と生産コストの上昇であり、企業は需要減と原料費高騰に直面し、M&Aへの投資意欲を減退させた。だが、こうした問題はあるものの、各企業は継続的にサステナビリティにフォーカスするとともに、ノンコア資産の見直しに取り組んでいることから、2024年の見通しにはわずかながら明るい兆しが見える。”

CHRISTIAN KLINGBEIL
PARTNER, KPMG IN GERMANY

化学セクター概況

取引の背景

化学セクターにおける2024年第1四半期のM&A取引は、(特にヨーロッパにおける)エネルギー価格の上昇、生産コスト高、原料コスト高に起因し、取引件数は前年比5%の減少、取引金額は同80%の減少となりました。

各種石油化学品における供給過多と、予想を下回る中国市場の成長率は、投資家心理を一層冷え込ませました。

同四半期において、10億米ドル超の大型案件が無かったことも、取引総額減少の一因です。

金融引き締め政策や資金調達のコスト高など、マクロ経済の環境悪化も
M&A取引鈍化に拍車をかけました。

M&A取引の大半は、国内資産の獲得を目的とする国内案件でした。

近年サプライチェーンが混乱しているアジアでは、国内生産への転換が進んでいます。

サステナビリティおよびESG目標達成を視野に入れたテクノロジー関連取引が大幅に増加する見通しです。

また、プライベートエクイティによる長期保有銘柄のエグジットを企図した売却が進むと見られ、プライベートエクイティ関連取引の存在感が増すと予想されます。

公表案件数内訳(規模別)

Japanese alt text:化学セクターにおけるM&A取引動向 2023年第4四半期_図表1

地域別取引数および金額

Japanese alt text:地域別取引数および金額

M&A取引の推移

Japanese alt text:

今後の見通し
業界の長期見通しは良好ですが、経済安定化の明確な兆しが見えず、2024年も引き続き慎重な姿勢が続くでしょう。米国は、地政学的変化を背景とする国内回帰の動きや、良好な投資環境、資源安定性により、M&A投資先としての魅力を増しています。加えて、ポートフォリオ最適化のためのノンコア資産の売却、また、企業に対する脱炭素化やサステナビリティ経営を求める圧力の増大も、M&Aを短期的に促進すると考えられる重要な要素です。


M&Aハイライト

Japanese alt text:M&Aハイライト

スペシャリティケミカル

概況

2024年第1四半期のスペシャリティケミカル分野におけるM&A取引は、
業界全体の傾向と同様に、件数、金額の両面において前年比で減少しました。これは、金利上昇など不安定な経済情勢に対する投資家の懐疑心に起因するものと見られます。

取引の大半を占めたのは、国際的プレゼンスの向上と、生産能力および製品ポートフォリオの拡大を目指す企業による戦略的投資案件でした。

プライベートエクイティ投資家たちは、サステナブル製品への明確な志向のシフトを背景に、サステナブル特性を備えた(ESG対応の)アセットに対する需要の高まりを示しました。

M&A取引の推移

Japanese alt text:M&A取引の推移

ハイライト

Japanese alt text:ハイライト

今後の見通し
本分野におけるM&Aは、短期的には逆風下にあるものの、その後、勢いを増すことが予想されます。エネルギー転換の時流に乗じたい投資家が、先進技術やサステナブルなソリューションへの投資に引き続き力を入れるとみられるためです。


基礎化学品および石油化学品

概況

2024年第1四半期の基礎化学品および石油化学品分野におけるM&A取引は、エチレンの供給過剰と利益率の低下、不安定な地政学情勢によるエネルギーコストの上昇により、大きく減少しました。

取引件数は前年比9%の減少、取引金額は同81%の減少と大幅な落ち込みとなりました。件数の減少は主に中南米での取引件数減少に起因し、金額の減少には全地域の落ち込みが影響しています。とりわけ、新たな石油生産能力向上に伴う供給過剰への懸念と、中国の成長鈍化による石油化学品需要の低迷に起因したアジア太平洋地域での減少が突出しました。

M&A取引の推移

Japanese alt text:M&A取引の推移

ハイライト

Japanese alt text:ハイライト

今後の見通し
主要な最終消費市場における需要の低迷、中国の低成長、供給過剰の継続などの要因により、石油化学品分野では今後数年にわたり取引の停滞が続く見込みです。


販売事業者・その他

概況

販売事業者・その他の分野における2024年第1四半期のM&A取引は、
人件費と金利の上昇により、取引件数では前年比5%の減少、
取引金額では同57%の減少となりました。

この分野で多くを占めたのは、ポートフォリオ強化や展開地域の拡大、
生産能力向上を目的とした小規模取引です。

また、同期間には、資源の国有化と重要産業における企業の保有強化を
目指した、メキシコ政府によるExportadora de Salの戦略的買収が
ありました。

M&A取引の推移

Japanese alt text:M&A取引の推移

ハイライト

Japanese alt text:ハイライト

今後の見通し
厳しいマクロ環境にあって、化学品販売事業者は成長を実現すべくM&Aや経営統合を推進しています。持続的成長の鍵は、戦略的なポートフォリオの整理や、リチウムなどのバッテリー材料への継続的な投資です。


M&A動向まとめ

2024年Q1に公開された各種ニュース・ブログ記事から抜粋した、化学産業の最新M&A動向を示すキーワード(a)(n=213)

図表12:化学産業の最新M&A動向を示すキーワード

2024年Q1の化学産業動向に対する意識分析(n=213)

2024年Q1の化学産業動向に対する意識分析(n=213)
  • 2024年第1四半期、業界ではM&Aに対する楽観的ムードが継続しました。化学企業は、成長市場における製品ポートフォリオの充実、既存市場におけるプレゼンスの強化、サステナブルなソリューションの採用に、積極的に取り組んでいます。
  • また、アーリーステージの化学系スタートアップは、デットファイナンスおよびエクイティファイナンスの両方を活用し成長機会を追求しており、それによりポジティブな心理が高められています。
  • 加えて、業務プロセスの効率化を通じて市場の変化に迅速に対応するため、技術強化やサステナブルなソリューションへの投資にも力が注がれています。

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