“2024年上半期は、経済的・地政学的な不確実性の増大がもたらしたインフレ圧力を主な要因としてM&A取引が減速した。全サブセクターにおいて取引が減速する中、企業は資産価値を高めるため、革新的かつ持続可能なケイパビリティをポートフォリオに組み込むことに資金を振り向けた。主要中央銀行が金融緩和政策を行うと予想されるため、2024年下半期にはM&A活動が再び活発化するとともに、融資環境が改善し、資本市場での調達が容易になる可能性がある。”
化学セクター概況
取引の背景
2024年上半期の取引件数・金額の減少の要因として、事業環境全体における不確実性の高まりを投資家が不安視していることが考えられます。
エネルギー価格の高騰、厳格な金融政策、インフレの継続、資金調達コストの高さといった厳しいマクロ経済環境が、取引の減速を一層助長しました。
2024年上半期は、国内資産の獲得を重視する企業の動きを反映して国内取引が大半を占めた一方、大規模なクロスボーダー取引も多数行われ関心を集めました。
また、革新的かつ持続可能なケイパビリティを既存ポートフォリオに組み込んで資産価値を高めようとする動きも顕著でした。
主要中央銀行が金融緩和政策を行うとの予想から、2024年下半期にはM&A活動が活発になるとともに、融資環境が改善し、資本市場での調達がしやすくなる可能性があります。
公表案件数内訳(規模別)
地域別取引数および金額
M&A取引の推移
今後の見通し
2024年上半期は取引が低迷しました。しかしフィナンシャルバイヤーの資金が潤沢であることと、サステナビリティ・ESG目標への強いコミットメントの影響でポートフォリオ再編の必要性が増していることから、今後は勢いを増すでしょう。ただし市場の変動、高金利、長引くエネルギーコストの高騰が投資意欲に水を差す可能性もあります。
M&Aハイライト
スペシャリティケミカル
概況
業界全体の傾向と同じく、本分野でも取引件数・金額の減少が続き、それぞれ前年比で20%減、86%減となりました。
地政学的な混乱とインフレ継続が、買い手の興味と売り手の事業売却意欲を減退させています。
技術革新、地政学的同盟関係の絶え間ない変化、サステナビリティに対する関心の高まりなど、変化の激しい環境において、企業は戦略的にポートフォリオを見直し成長する機会を模索しています。
M&A取引の推移
ハイライト
今後の見通し
スペシャリティケミカル分野のM&A取引は、コスト削減シナジーおよび戦略的資産の取得を目指す動きを受けて緩やかに回復していく見込みです。この動きは、高金利環境においてM&A投資を下支えすると期待されます。
基礎化学品および石油化学品
概況
基礎化学品および石油化学品の分野でも取引の減少傾向が続き、件数は前年比で5%減、金額は22%減となりました。減少の要因として考えられるのは、最終用途産業における需要減と、金利およびエネルギーコストの高騰です。
企業はノンコア資産の売却に注力し、ポートフォリオの最適化、地理的拡大、生産力の増強を図りました。
取引金額はほとんどの地域で前年同期を下回ったものの、ヨーロッパではメガディール1件の影響で増加しました。これはアブダビ国営石油会社がCovestro AGを125億米ドルで買収するという提案で10月に合意に至りました。
M&A取引の推移
ハイライト
今後の見通し
本分野は短期的には逆風を受けるものの、炭素排出削減ソリューションの需要に対応する新製品の発売を受けて、取引が増加する見込みです。在庫調整による足元の逆風は、市場が通常の在庫水準で安定するにつれて弱まるでしょう。
販売事業者・その他
概況
販売事業者・その他の分野も全体の傾向をなぞり、取引件数・金額ともに引き続き減少しました。
これは、地政学的な不透明感に対する投資家の懐疑心に加え、対象会社に対し保守的な価格を提示した中小販売事業者の存在が影響したものと見られます。
この分野では、小規模取引や金額非開示の取引を行う傾向が続いており、業界統合が進行していることが示唆されます。また注目に値する案件として、標準的な取引規模を大きく上回る19億米ドルの取引が1件ありました。
M&A取引の推移
ハイライト
今後の見通し
販売事業者・その他分野の市場は、不安定な状況が続く可能性があるものの、革新的なケイパビリティの獲得および製品ラインナップの拡大を目的とした戦略的なM&Aによって成長が期待されます。
M&A動向まとめ
2024年上半期に公開された各種ニュース・ブログ記事から抜粋した、化学産業の最新M&A動向を示すキーワード(n=337)
2024年上半期の化学産業動向に対する意識分析(n=337)
- 2024年上半期の化学業界におけるM&Aでは、引き続き楽観的な見方が大勢を占めました。化学企業は積極的に取引を行い、製品ラインナップの拡大、グローバル展開、サプライチェーンの現地化を図っています。
- さらに、業界におけるグリーン技術への移行と、アジア太平洋地域での事業展開を強化する動きが、楽観的な見方を一層強めています。
- ただしサプライチェーンの混乱や市場競争の懸念から、一部で悲観的な見方も見られました。