“2024年第3四半期の化学業界におけるM&A取引は、引き続き減少傾向を辿った。これは主にマクロ経済の不確実性や資本市場のボラティリティに起因する。そのような状況下にあっても、化学企業は生産能力の強化、低炭素ソリューション企業の買収、地理的プレゼンス拡大のための投資を継続し、競争力維持に努めた。サプライチェーンの混乱が収束し、政治情勢の見通しが明らかになるにつれ、年度末にかけて取引は多少勢いを増すと期待される。”

CHRISTIAN KLINGBEIL
PARTNER, KPMG IN GERMANY

化学セクター概況

取引の背景

化学業界のM&A取引は、2024年上半期の減少傾向を経て、さらに落ち込みました。その主な要因は、エネルギー価格や資金調達コストの増加といった、広範囲の事業環境上の問題です。

イスラエルとパレスチナの紛争やロシア・ウクライナ戦争、米国の選挙、中国経済の減速など、足元の地政学的な不透明性も取引の低迷を助長しました。

2024年第1四半期から第3四半期においては、全体の半数以上を国内取引が占め、化学企業が国内資産の買収に注力していることが示されました。 

サステナビリティ・ESG目標に対する強いコミットメントを背景に、テクノロジー関連取引が大幅に増加する見通しです。 

加えて金融緩和が予想されることから、2024年第4四半期には戦略的投資家が市場統合、展開地域の拡大、能力強化を推し進め、取引が活性化する可能性があります。

保有期間の長いポートフォリオ企業をエグジットさせようとするプライベートエクイティによる取引も増加するでしょう。

公表案件数内訳(規模別)

図表1:公表案件数内訳(規模別)

地域別取引数および金額

図表2:地域別取引数および金額

M&A取引の推移

図表3:化学セクターにおけるM&A取引の推移
図表4:化学セクターにおけるM&A取引の推移

今後の見通し
2024年の取引は、第3四半期までは著しく減少したものの、年度末にかけては明るい見通しです。その背景として、中国では目下、化学業界の再編が進行しており、グリーンソリューションへの投資も増加しています。さらにプライベートエクイティがポートフォリオの拡大とハイリターンの獲得を目指してスペシャルティケミカル企業への関心を強めており、こうした要因がM&A取引の回復を牽引すると期待されます。


M&Aハイライト

図表5:M&Aハイライト

スペシャリティケミカル

概況

業界全体の傾向と同様に、本分野でも取引は引き続き減少し、件数は前年同期比で12%減、金額は72%減となりました。この落ち込みは市場環境全体の問題、すなわち地政学的な不安定性、インフレの継続、金利の上昇、評価額の低さに対する本サブセクターの脆弱性を浮き彫りにしており、投資家は慎重な姿勢を強めています。

なお、プライベートエクイティはこのような環境下でも投資ポートフォリオの拡大を図って活発に取引を続けました。2024年第3四半期の上位5件の取引のうち3件を占めるなど、レジリエンスの高さを発揮して戦略的長期ビジョンを遂行しています。

M&A取引の推移

図表6:M&A取引の推移

ハイライト

ハイライト

今後の見通し
スペシャルティケミカル分野における取引は、規制内容が明確化し、グリーンソリューションへの投資が増え、プライベートエクイティがハイリターンを目指して投資ポートフォリオの拡大を図るにつれて勢いを増すでしょう。


基礎化学品および石油化学品

概況

2024年第1四半期から第3四半期にかけての本分野における取引は、件数は前年同期比でわずかに増加したものの、金額は引き続き減少傾向にあります。 

一次産品および中間製品市場が再び安定化したことで、上流事業では資産売却が進みました。価格が安定し在庫調整が落ち着きを見せる中、企業は景気による変動が激しい不安定なセクターからの戦略的な撤退を目指し、事業再編を検討しています。 

また、生産能力の強化、低炭素ソリューション提供企業の取得、地理的プレゼンス強化など、競争力の維持にも注力しています。

M&A取引の推移

図表8:M&A取引の推移

ハイライト

図表9:ハイライト

今後の見通し
本分野におけるM&A取引は、エネルギー転換のさらなる進展、サステナブルなソリューションへの投資の強化、価格の安定、製品の多角化などに伴って成長が期待されます。事業再編への取り組みが進むにつれて取引はさらに活性化するでしょう。


販売事業者・その他

概況

2024年の第3四半期までの期間において、販売事業者・その他サブセクターの取引件数は前年同期比で1%減少したものの、取引金額は7%増加しました。これは、企業のM&A取引に対する関心が再び高まり、評価額が大幅に上昇したことの表れと見られます。

直近のサプライチェーンの混乱により在庫水準が上昇し在庫調整が行われていましたが、混乱が収束しはじめ、大手企業は生産能力強化、製品ラインナップの拡大、グローバル展開に集中的に取り組みました。

本分野の取引は小規模案件が中心であったものの、2024年第3四半期には11億米ドル、8億米ドルと、特筆すべき大規模案件も2件見られました。 

M&A取引の推移

図表10:M&A取引の推移

ハイライト

図表11:ハイライト

今後の見通し
本分野では、戦略的投資家が積極的に市場統合、展開地域の拡大、能力拡充を推進しているため、M&A取引は良好に推移する見込みです。 在庫調整の収束に伴って需要回復の兆しが見えれば、見通しは一層明るいものとなるでしょう。


M&A動向まとめ

2024年Q1–Q3に公開された各種ニュース・ブログ記事から抜粋した、化学産業の最新M&A動向を示すキーワード(n=383)

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2024年Q1–Q3の化学産業動向に対する意識分析(n=383)

図表13:2024年Q1–Q3の化学産業動向に対する意識分析(n=383)
  • 2024年第1四半期から第3四半期の化学業界におけるM&Aでは、力強さと楽観的な見方が継続しました。化学企業は引き続き、戦略的M&Aを通じて製品ポートフォリオを多角化し、グローバルプレゼンスを拡大するとともに、現地・地域事業者の買収によるローカルサプライチェーンの確立に努めました。
  • 新興の化学系スタートアップは、デットファイナンスおよびエクイティファイナンスの両方を活用して成長を加速させました。
  • さらに、サステナビリティへの関心の高まりは、グリーンテクノロジー、リサイクル機能、再生可能エネルギーへの投資などのM&A活動を促進し、M&Aに対する楽観的ムードを後押しするとともに、規制要件および消費者要求の充足にもつながっています。

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