新規事業人材に求められる変化

これまでの新規事業人材育成は、優れたリーダーの発掘に力点が置かれる傾向が強かったと言えます。優れたリーダーによる新規事業開発の推進は大きな成功を収める確率が高いものの、属人性が高くなることから、取組み自体が継続しないケースが多く見受けられました。また、取り扱うテーマの専門性の深化や複雑性から、もはや1人の優れたリーダーの存在だけでは、プロジェクトを成功に導くことが難しくなっていることも事実であり、チームや組織として取り組むための、個人の強みを発揮できるチーミングや組織でのナレッジ蓄積による体系的な人材育成が必要になっています。

事業環境が目まぐるしく変化する昨今、対応すべき課題も従来よりも複雑化しています。つまり新規事業の検討においては、1人の優れたリーダーの存在だけではプロジェクトを成功に導くことは難しく、改めてチーム(組織)力が問われています。

本稿では、新規事業開発を推進する人材の育成におけるポイントや育成のプロセスについて解説します。 

新規事業人材育成のアプローチ_図表1

1.新規事業開発を推進する人材の育成における3つのポイント

新規事業開発を推進する人材育成のポイントは3つあります。

1つ目は「チーム単位の取組みによる組織力の育成」です。新規事業開発は「優れたリーダー」1人で進める必要はなく、「優れたチーム」で推進する必要があります。属人化が進むことを防ぐために、チームや役割の要件を明確にし、組織として対応できる環境を整備することが重要です。

2つ目は「実務を題材としたプログラム設計」です。人材育成は新規事業開発を推進するための手段であり、ゴールは新規事業開発の成功にあります。したがって、実務をベースとしたプログラムの設計は欠かせず、OFF-JTとOJTのサイクルを適切に回せるようにする必要があります。

3つ目は「自社主導で進めるための自立を促す進め方」です。検討のすべてを自社で行うのは難しい側面があり、必要に応じた外部パートナーの活用は有効です。

新規事業人材育成のアプローチ_図表2

2.新規事業開発を推進する人材の育成プロセス

新規事業開発を推進する人材の育成を短時間で進めていくにあたっては、「人材要件の明確化」「育成計画の策定」「育成計画の実行」のステップで検討することが望ましいと言えます。

新規事業人材育成のアプローチ_図表3

(1)人材要件の明確化:検討フェーズによる整理の例

代表的なチーム機能としては、新規事業開発を推進するメインであるプロジェクトチーム、プロジェクトチームが円滑に検討を進められるよう専門性を含めた業務およびチームメンバーのケアを行う伴走チーム、事業化検証を終えた内容を収益の柱に育てていく事業部門、そして、各種ゲートにおいて、適切に検討推進の是非を判断する意思決定チームが挙げられます。

  役割の例 必須スキルの例

プロジェクトチーム

  • 新規事業シーズの発掘とアイデアの具現化
  • メンバー相互の巻き込みとプロジェクトの推進
  • リーダーシップ・オーナーシップ
  • アイデア創出力
  • ビジネスプラン策定力

伴走チーム

  • プロジェクトチームの補佐を行う社内コンサルティングチーム
  • 社内外の関係者との調整役
  • フォロワーシップ
  • コンサルテーション
  • プロジェクトマネジメント

事業部門

  • 事業化検証を終えた新規事業の市場化推進
  • 具体的な市場展開
  • コミットメント
  • マーケティング戦略
  • 問題解決力

意思決定チーム

  • 各種ゲートの基準設定
  • 定期モニタリングの実施
  • プロジェクト推進/中止に関する意思決定
  • Thought Leadership
  • 意思決定・判断力
  • 計数マネジメント

(2)育成計画の策定:実際のプロジェクトを題材とした設計

育成計画は実効性の高い内容とするため、「実際のプロジェクト」を題材とする必要があります。実務を題材にすることで、現場での実践や効果測定のサイクルを回しやすくするだけでなく、対象者の負荷を軽減することが可能になります。人材要件を明確化した後は、具体的な育成計画の策定を行っていきます。

新規事業人材育成のアプローチ_図表4

(3)育成計画の実行:標準的なプログラムの進め方の例

策定した育成計画の実行では、OFF-JTとOJTを効果的に組み合わせていくことが必要と言えます。KPMGでの標準的なプログラム設計の例では、大きくインプットセッションとプログレスセッション、ファイナルセッションといった集合セッションと、実際の課題やアクションプランの実行中のサポートを行う個別セッションから構成されます。

各集合セッションの内容と個別セッションのフォロー内容は、育成計画によって異なりますが、PDSサイクルを効率よく回していく点で、モニタリングとフォローアップの体制を組み込んでいます。

新規事業人材育成のアプローチ_図表5

3.おわりに

従来の新規事業人材育成は、優れたリーダーの発掘に重点を置くことで、結果的に属人性を高め、組織としての再現性に課題を残していました。現在では、専門性の深化や複雑性が増していることから、チームや組織として取り組む体系的な人材育成(チーム単位の組織力育成、実務を題材としたプログラム設計、自社主導の自立促進)を進める必要があります。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 岡 智諒

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