本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。
今回は、KPMGが毎年行っている調査レポートである「グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2023」から、自動車の構造材料(マグネシウム、鉄鋼、アルミニウム、銅)を取り上げ、資源の現況を解説します。

自動車の構造材料における現況

マグネシウム
マグネシウムは、主にドロマイトと呼ばれる鉱石や海水などから生産されます。マグネシウムは、ロシア、スロバキア、中国、オーストラリア、ギリシャの5ヵ国で確認埋蔵量の約60%、鉱石生産量の約70%を占めています。純マグネシウムとしてはコスト面の優位性から中国の生産量が圧倒的に多く、83%を占めています。中国で2021年に起きた電力逼迫に伴う製錬工場の操業停止措置は、マグネシウムの供給不足による世界的な価格高騰を招きました。これに対して、欧州の関連団体が、中国政府への供給を増やすような働きかけや、地域としての長期対応を求めました。

マグネシウムは、アルミニウムの強度向上を目的とした添加剤用途が一番多く、次いで軽量を生かしたマグネシウムダイキャスト部品として使用されています。自動車では、アルミニウム合金への添加剤用途以外に内装部品や大型電装品の構造材料など、軽量化を目的としてマグネシウム合金を使用している車両もあります。

【マグネシウムの生産量】

自動車向け構造材料の資源のシェアから見える市場動向と課題_図表1

出典:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成

鉄鋼
鉄鋼は、鉄鉱石に含まれる酸化鉄を還元して製造され、また磁石による選別が容易なことからリサイクルも進んでいる材料です。確認埋蔵量および鉱石生産量ともにオーストラリア、ブラジル、中国、インド、ロシアの上位5ヵ国で70%以上を占めている一方、2023年の粗鋼生産量の半数以上は中国であり、この材料においても中国のシェアは高くなっています。

鉄鋼は製造工程で大量の二酸化炭素を排出しますが、一方で、経済発展に伴う需要の増加が引き続き予想されるため、環境負荷の低減と需要増加を両立させることが課題となっています。そのため、再生可能エネルギーを利用して製造した水素を利用した製鉄法などへの技術開発や、バイオ資源のさらなる活用などの計画が進められています。

【鉄鋼の生産量】

自動車向け構造材料の資源のシェアから見える市場動向と課題_図表2

出典:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成

アルミニウム
アルミニウムは、主にボーキサイトと呼ばれる赤褐色の鉱石中にアルミナ水和物として含まれ、埋蔵量の推定値は現在の生産量の100年分以上あるとされている材料です。アルミニウムは、まずボーキサイトからバイヤー法と呼ばれるアルカリ溶液を用いた湿式製錬にて不純物を除去し、アルミナ(酸化アルミニウム)を製造します。次いでホール・エルー法と呼ばれるフッ化物を利用した電解製錬法にてアルミナを還元して一次アルミニウムを得ます。アルミ地金の生産量は中国が世界全体の50%以上を占めています。

中国では一次アルミニウムに15%の輸出税がかけられているため、製造業者のなかには板材や押出材として加工した後に輸出する例もありますが、欧州や米国からアンチダンピング措置を講じられています。

環境面においては、アルミニウムは製錬工程で大量の電力を消費するため、間接的な二酸化炭素の排出量が多いことが問題となっています。このため、再生可能エネルギーを利用したグリーンアルミニウムが注目され、製造工程において二酸化炭素の排出量の削減を保証することによりブランド化および高付加価値化している材料メーカーもあります。製造工程における二酸化炭素の排出量が少ないという環境価値を金銭価値に変える取組みとして、注目される動きであると言えます。

【アルミニウムの生産量】

自動車向け構造材料の資源のシェアから見える市場動向と課題_図表3

出典:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成


銅は、硫化物や酸化物として地中に存在し、高い導電率を生かして電線等に用いられるなど、電動化に必要不可欠な材料です。銅鉱石は南米のチリやペルー、カッパーベルトと呼ばれる銅鉱床が存在するコンゴなどで世界の鉱石生産量の約50%を占めますが、その鉱石の製錬は中国が多く、世界の銅地金生産量の約45%となっています。

銅の用途としては、セクター別の使用比率が高い順番で並べると、建築(電線など)、次いでインフラ(電線や信号線など)となります。自動車には車両の電線やハーネスとして用いられており、船舶含む輸送分野に多用されています。

【銅の生産量】

自動車向け構造材料の資源のシェアから見える市場動向と課題_図表4

出典:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成

まとめ
前述のとおり、第2回のテーマであるEVバッテリー材料と同様に、中国は世界の生産シェアで1位もしくは2位を占める材料が多く存在します。しかし、その材料の原料となる鉱石の生産国は必ずしも中国とは限りません。さらに、鉱石生産国と資源埋蔵国が異なる場合もあります。つまり、材料は資源埋蔵国と鉱石生産国および製錬国が異なるという3つの偏在性を有しており、災害や地政学的な事変に対して大きな影響を受ける可能性があります。これに対して、欧州や米国では材料のサプライチェーンレジリエンスを強化するための取組みが始まっています。

次回(第4回)は、世界各国のサプライチェーン強化の取組みについて紹介します。

本文のおよびグラフの数値は下記資料を参考にしています。また、参考値は2024年4月12日時点のものとなっています。

執筆者

KPMGコンサルティング
スペシャリスト 伊藤 登史政

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本調査では、グローバルの展望、パワートレインの未来、デジタル消費者、脆弱なサプライチェーン、新たなテクノロジー、という自動車業界の5つの領域に対してエグゼクティブの考える将来展望を分析しました。
また、独自に日本の消費者約6,000名を対象にした調査を行い、BEV(バッテリー電気自動車)や自動運転の商用化、消費行動に関するデジタル化について、グローバルの経営者の見解と比較しました。

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