事業成長における資本政策 - ゴールはIPOだけではない

資本市場は荒れ模様

本年のグローバルの資本市場環境は荒れ模様であり、本邦でもIPOの件数は、過去最高水準の125社であった昨年(上半期で53件)と比較し減少している。例年、下半期は上半期と比べ件数は多く、本年はまだ期は終わってはいないが、昨年との比較では低調となっている。

2019年以降のIPO市場の概況

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Source:日本証券取引所グループ、Capital IQ

またテクノロジー銘柄などの資本市場におけるバリュエーションの調整の影響もあってか、公募価格を割り込む企業数の割合も29.7%と過去4年の中で最も高かった。

平均騰落率と公募価格割れ企業数

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日本証券取引所グループ、Capital IQ

コロナ禍が継続していることに加え、ウクライナ情勢、金利環境、物価上昇、大幅な円安とマクロの地政学要因から、金融市場要因まで波乱含みであり、説明要因に事欠かない。

これまでも資本市場は様々なショックを経験し、時間をかけて克服してきたが、今回は、幅広い、かつ大きいリスク要因が顕在化しているだけではなく、一時的とは言い切れないリスク要因が多いことが大変悩ましい。
これまでにIPOをキャンセルすることを正式に発表した企業数も、コロナ禍に突入した2020年程ではないが、昨年より多い。昨今のIPO予定企業にはSaaSモデルの企業が多いが、前年と比較してPSR(申請期の予想売上高をベースとした売上高倍率が大幅に低下していることも影響していると言えよう。

IPO以外の資本政策の検討価値

こうした中、IPOを準備してきた企業およびIPOを将来のゴールとして考えてきた企業の経営者・株主にとって、IPOを引き続き目指すべきなのかどうかという問いは、今まさに意義のあるものになっているのではなかろうか。

東証の上場区分見直しの影響は既上場企業にとっては当初想定していたほどの影響が直ちに出たわけではなかったものの、新規上場企業は新しい上場区分が求めるものを意識せざるを得ない。主幹事証券会社にとっても上場に関する事務負担の増加や株価推移に対する責任も増したことも斟酌されることとなる。

また当然のことながら企業にとってIPOを成し遂げて終わりということではない。継続開示義務があることに加え、昨今、それほど規模の大きくない上場企業においてもアクティビストが株主となる事例は出てきている。アクティビストの主張は投資家の論理として筋道が立っているものであることが多いが、事業会社の事業目線とはものの見方が大きく異なることがある。これまで資本市場で外部株主と向き合う経験をしてこなかった事業会社にとっては無視できない重い課題となる。

環境関連やディープテックなどで大きい特徴や強みのある企業でグローバル市場も目指す企業は引き続きIPOを検討することが有効な場合も多いであろう。

他方、伝統的な業種であっても優良企業であれば、オーナーとしては自分の会社の一つの到達点として、もしくは会社を次の成長ステージに導くために、IPOを目指す以外の資本政策も十分に検討の価値があるのではないか。

信頼できる事業会社への持ち分売却による新たな事業成長という道もあるし、PEファンドを活用し成長資金や経営人材を確保した上で成長を加速させるという道も有力な選択肢である。

PEファンドは通常、バイアウトを前提としており、マジョリティー持ち分の取得が基本線であるが、オーナーとJV化し、オーナーとともに事業成長を企図するストラクチャーなど、今後の成長意欲が旺盛で、経営に対する関与諦めたくないオーナーにフィットする選択肢を持つ先も存在する。

見通しを立てにくい市場環境において、事業を成長させるため、IPOを大きい目標としてきた企業であっても、冷静に状況を判断すると、他の資本政策を検討する意義も高いことをお伝えしたい。

※本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをお断りいたします。

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