生成AIをはじめとするAIの活用が企業に広がるなか、人事領域でも業務効率化や従業員からの問い合わせ対応、採用、育成、配置など、さまざまな場面で活用の可能性が検討されています。一方で、AIを導入するだけでは、必ずしも人事業務の高度化や組織の成果につながるとは限りません。
KPMGコンサルティングは、こうした課題意識のもと、「AIを活用したHR業務の高度化とガバナンス」をテーマとするセミナーを開催しました。当日は、AI活用の実践事例、業務変革につなげる導入アプローチ、AIガバナンスという3つの観点から講演を行い、後半のパネルディスカッションでは、企業におけるAI活用の現在地や推進上の課題、これからの人事部門に求められる役割について、実務家や専門家が議論しました。
【登壇者】
一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 理事 菅原 聡氏
シスメックス株式会社 人事本部 人材開発部長 本庄 大介氏
SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 本部長 佐々見 直文氏
KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 真下 和孝
アソシエイトパートナー 三浦 康暢
マネジャー 小野 世紀
AIの導入から、業務と意思決定の再設計へ
セッション1では、一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 理事の菅原聡氏が「AIを活用したHR業務の高度化」をテーマに講演しました。
多くの企業では、人材データのデジタル化・可視化に加え、生成AIを活用した資料作成や情報収集、議事録作成など、個人レベルでの業務効率化が進んでいます。しかし、その先にあるのは、AIを前提として業務プロセスや意思決定のあり方を見直し、人と組織の新たな価値を生み出すことです。
そのためには、AIを単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、「効率化によって生まれた時間をどこへ振り向けるのか」「人が担うべき判断や対話は何か」といった点まで含めて、業務を再設計する必要があります。
セッションでは、現場の実態を丁寧に把握し、業務の目的やプロセスを分解したうえでAIを組み込むことの重要性が、実践事例を交えて紹介されました。数値や作業量だけを追うのではなく、成果につながる行動を明確にし、AIと人の役割を組み直すことが、組織全体の生産性向上につながるとの示唆が共有されました。
HRテクノロジーコンソーシアム 菅原氏
「AIで何ができるか」ではなく、変えたい成果から考える
セッション2では、KPMGコンサルティング マネジャーの小野世紀が「ERPの進化から考えるAI活用推進の実践アプローチ」をテーマに、AI活用を一部のアイデアや実証実験で終わらせず、実際の人事業務へ組み込み、継続的な成果につなげるための考え方を紹介しました。
AI活用を検討する際には、「この業務をAIで自動化できないか」「新しいAIエージェントを導入できないか」といった技術起点の議論になりがちです。しかし、目指すべきはAIの導入そのものではなく、AIを前提として業務プロセスをどう変革し、どのような成果を生み出すかです。
セッションでは、まず変えたい業務成果と課題を定め、その成果を阻害するボトルネックを把握したうえで、AIが担う役割、人が判断すべき領域、必要となるデータやシステム、成果を測る指標を整理するアプローチが示されました。
また、人事業務では、従業員や応募者の個人情報、公平性、説明責任への配慮が欠かせません。初めから高い自律性をAIに持たせるのではなく、人の判断を支援する領域から始め、成果とリスクを確認しながら段階的に適用範囲を広げていくことが重要であると示されました。
こうした取組みを一部門の実証実験で終わらせず、実際の業務に定着させるには、業務部門、IT・データ部門、リスク・法務・コンプライアンス部門、経営層がそれぞれの役割を担い、共通の目的と評価基準を持って進める必要があると説明しました。
KPMGコンサルティング 小野
AI活用を支えるガバナンス
セッション3では、KPMGコンサルティング アソシエイトパートナーの三浦康暢が「AI利用のガバナンス」をテーマに、人事領域におけるAI活用を支える管理のあり方について解説しました。
人事領域のAI活用では、AIがどのようなデータを参照し、どのような判断や提案に使われているかを把握することが不可欠です。特に採用、評価、配置、育成など、個人の処遇やキャリアに影響する領域では、データの品質や公平性、プライバシー、判断プロセスの透明性・説明可能性などを継続的に確認する必要があります。
セッションでは、人事AIのガバナンス領域として、「AIの利用目的」、「人事データ」、「AIの品質・公平性」、「運用・権利保護」が紹介されました。また、ガバナンスを一度整備して完了とするのではなく、AIの利用状況や外部環境の変化を捉え、リスクの評価、モニタリング、改善を継続的に行うことの重要性も示されました。
ガバナンスはAI活用を制限するためだけのものではありません。人とAIの役割や責任を明確にし、安全に利用できる環境を整えることは、AIの活用範囲を広げ、業務への定着を後押しする基盤にもなります。AIガバナンスを既存のIT、データ、セキュリティ、プライバシーに関する管理の仕組みと連携させ、組織全体として運用していく視点が必要です。
KPMGコンサルティング 三浦
AI時代に人事が担う役割とは
パネルディスカッションには、シスメックス株式会社 人事本部 人材開発部長の本庄大介氏、SAPジャパン株式会社 人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 本部長の佐々見直文氏、一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 理事の菅原聡氏が登壇し、KPMGコンサルティング 執行役員 パートナーの真下和孝がモデレーターを務めました。
左から シスメックス 本庄氏、HRテクノロジーコンソーシアム 菅原氏、SAPジャパン 佐々見氏
このパネルディスカッションでは、「HR×AIの現在地」「AI活用の難所と成功へのアプローチ」「AI時代の人事と働き方」という3つのテーマを軸に、AI活用が広がるなかで、人事部門や働き方がどのように変わっていくのかについて議論が交わされました。
議論を通じて共有されたのは、AIを使うこと自体を目的にしないという考え方です。AI活用の目的と成果指標をあらかじめ定め、小さく検証しながら業務へ組み込み、得られた時間やデータを新たな価値の創出へつなげていくことの重要性が語られました。
これまで人事担当者が担ってきた入力、集計、取次ぎなどの業務は、今後さらにAIによる支援や自動化が進むと考えられます。その一方で、企業や組織が目指す姿を描き、現場の課題を理解し、人とAIの役割を設計することは、引き続き人が担うべき重要な役割です。
パネルディスカッションでは、仕事の棚卸しを通じて本当に価値を生む業務を見極めること、AIを活用して生まれた時間を現場との対話や従業員の成長支援、経営課題の解決へ振り向けることが、これからの人事部門に求められるとのメッセージが共有されました。
KPMGコンサルティング 真下
まとめ:人とAIがともに価値を生み出す組織へ
AI活用の可能性が急速に広がるなか、企業には、AIを導入することだけでなく、自社が解決したい課題や実現したい成果を改めて問い直すことが求められています。
本セミナーを通じて浮かび上がったのは、AIによる効率化を起点に、業務プロセス、意思決定、人と組織の役割までを一体として見直すことの重要性です。同時に、安心してAIを活用できるガバナンスを構築し、成果とリスクを継続的に確認していくことも欠かせません。
KPMGコンサルティングは、今後もアライアンス企業や各分野の専門家と連携し、AIを活用した業務変革や組織の高度化に関する知見を発信するとともに、さまざまなテーマのセミナーを通じて、企業の皆様と新たな課題や可能性を考える機会を提供してまいります。
※本稿に記載されている登壇者の所属・職位等は、公開時点の情報に基づいています。