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      短時間に降る極端な大雨は、全国平均でみると長期的に増えています。しかし、企業にとってのリスクは、自社拠点の浸水にとどまりません。電力・水・通信、従業員の移動、物流、サプライヤーのいずれかが被災すれば、拠点が無事でも事業は止まります。

      求められるのは、自社のハザード情報だけを起点とせず、サプライチェーン全体を俯瞰したうえで、激甚化する災害にどう適応するかという観点から、気候変動に起因するリスク事象による事業影響と、復旧能力・代替可能性をあらかじめ検証しておくことです。こうした変化は、従来のBCPの前提や実効性を改めて問い直す契機となっています。



      1.変化する豪雨リスク

      気象庁「日本の気候変動2025」によると、過去約130年間の全国の年降水量に、明確な変化傾向はみられません。しかし、短時間に降る極端な大雨は増えており、雨が強いものほど増加の度合いが大きくなっています。

      全国約1,300地点のアメダス観測データを同一地点数に換算して比べると、1時間降水量50mm以上の年間発生回数は、1976~1985年平均の約226回から2015~2024年平均の約334回へと約1.5倍に増えました。80mm以上は約14回から約24回へ約1.7倍、100mm以上は約2.2回から約4.0回へ約1.8倍となっており、気象庁も「増加傾向が現れている」と評価しています。

      【全国の年間発生回数の倍率(1976~1985年平均=1.0)】
      Japanese alt text: 豪雨リスクの変化が問い直すBCPの実効性_図表1 出典:気象庁・文部科学省「日本の気候変動2025」を基にKPMG作成

      将来も、極端な大雨の発生頻度は全国平均で増えると予測されており、20世紀末と比べた21世紀末の1時間50mm以上および3時間100mm以上の年間発生回数は、2℃上昇シナリオで約1.8倍、4℃上昇シナリオで約3.0倍です。ただし、都道府県など空間スケールが小さくなるほど、予測の不確実性は高まります。

      2.災害を超えて共通する事業停止の構造

      近年の豪雨・水害を企業の事業継続の観点から比べると、災害の種類は異なっても共通する構造が見えてきます。以下では、近年発生した代表的な豪雨・水害の4つの事例を概観します。

      災害災害の特徴インフラ事業継続上の示唆
      2018年7月
      豪雨
      西日本
      広域・同時多発の豪雨、浸水・土砂災害中国地方の東西を結ぶ幹線道路・鉄道など物流の大動脈が寸断自社の拠点が無事でも、出荷・入荷は止まりうる。輸送手段をまたいだ代替ルートの確保が欠かせない
      2019年10月
      東日本台風
      長野
      河川氾濫による浸水北陸新幹線の車両センターで新幹線10編成が浸水重要な資産を一ヵ所に集めていないかに加え、事前避難、設備のかさ上げ、他拠点での代替検査、予備品の備えが復旧の早さを左右する

      2023年9月
      台風13号
      日立

      局地的な記録的大雨と浸水市本庁舎1階と地下電源設備が浸水し停電。メールに支障、災害対策本部を消防庁舎へ移設建物が無事でも、地下の電源設備が止まれば、指揮・通信・業務の継続が同時に制約される
      2024年9月
      豪雨
      奥能登
      線状降水帯。地震被災域と大雨域が重複断水・停電、道路通行止め、港内への土砂流入、下水道ポンプの停止などが同時に発生復旧の途上にある地域では、代替先や交通手段、要員がすでに限られていることがある

      これらの事例に共通するのは、被害の大きさを決めるのが災害の強度だけではないという点です。短時間強雨が排水能力を超えると、浸水に加えて、道路・鉄道、電力・通信、上下水道の機能が低下します。その結果、従業員が出勤できない、原材料が届かない、製品を出荷できない、外部委託先が稼働できないといった形で、被害は依存関係をたどって広がります。

      局地的なハザードが必ず広域の事業停止に至るわけではありませんが、多くの拠点が同じインフラや経路に依存していれば、その可能性は高まります。したがって、気象リスクによるハザードを洗い出すだけでなく、それによって失われる可能性のある経営資源を、拠点の外側まで含めて広域に把握することが重要です。

      3.拠点単位の評価では見えないサプライチェーンリスク

      ハザードマップは、地域の水害リスクを把握し、避難や浸水対策を検討するうえで欠かせない基礎情報です。ただし、拠点ごとの浸水深や被害額からレジリエンスの検討を始めると、重要度の異なる資産が同じ尺度で並んでしまい、拠点の外にある依存関係が見落とされがちです。

      評価の出発点は、顧客や社会への提供を維持すべき重要事業、重要製品・サービスに置きます。次に、どこまでの中断であれば許容できるのかを明確にし、必要に応じて最大許容停止期間や目標復旧時間に落とし込みます。そのうえで、逆向きに遡って依存関係をたどっていきます。

      具体的には、自社の拠点・設備だけでなく、電力、水、通信、IT、従業員の移動、原材料・部品、上流のサプライヤー、倉庫・物流センター、道路・鉄道・港湾・空港、外部委託先までを一連のつながりとして整理します。この整理が、重要事業に必要な経営資源を洗い出す土台になります。

      経営資源への影響は、設備や物流だけでなく、人員にも及びます。近年は豪雨と猛暑が同時期に発生しやすく、熱中症や労働生産性の低下といった慢性的な影響も想定されます。そのため、従業員が出社困難な場合を前提としたテレワーク主体の初動体制や、被災後のメンタルケアを初動対応に組み込む必要があります。環境省の「民間企業の気候変動適応ガイド」でも、従業員(欠勤・通勤困難)、建物、インフラ、物流の区分で、気温上昇に伴う労働災害リスクがBCPの見直し対象に位置づけられています。

      また、2社購買を行っていても、両社が同じ工業団地、変電所、工業用水、物流センター、港湾、幹線道路に依存していれば、同じ豪雨シナリオで同時に停止する可能性があります。所在地が離れていても、同じ港湾や中継倉庫を利用しているケースは少なくありません。逆に、同じ地域にあっても、電力系統や物流ルート、復旧手段が独立していれば、実質的な分散度は高まります。

      分散の実効性は、地理的な距離だけでは測れません。確認すべきは、サプライヤーの数や所在地ではなく、どのサプライヤーが同時に停止し得るかという組み合わせです。

      こうした相互依存関係は、一度整理すれば終わりではありません。調達先や物流経路は日々変化するためです。近年は、IoTセンサーによる操業状況の常時監視や、Tier2・Tier3以降のサプライヤーまで含むデータに基づく可視化など、静的なマッピングを継続的に更新する取り組みが重要な補完手段となっています。勘や経験だけに頼らず、サプライチェーン全体を客観的に把握し続ける体制を整えることで、相互依存関係を「見える・比べられる・説明できる」状態に保つことができます。

      4.BCPの整備と事業継続力は同じではない

      KPMGが実施した日本企業のレジリエンスおよびBCPに関する実態調査「レジリエンスサーベイ2026」では、回答企業127社のBCP策定率は92.9%と、調査開始以来の最高水準でした。一方で、重要業務に紐づく経営資源を特定している非金融企業は48.8%(n=84)にとどまります。計画の整備が進む一方、その計画が前提とする経営資源と依存関係の可視化は道半ばであることがうかがえます。実務上の課題としても、情報更新の負荷やエンドツーエンドでの業務フローの把握、相互連関性のマッピングが課題として挙がっています。

      これは従来のBCPが不要になったということではありません。緊急対応や安否確認、代替拠点の確保、復旧手順は、いずれも欠かせない基盤です。問われているのは、計画があるかどうかではなく、重要事業を止めうる依存関係を特定し、その影響が許容範囲に収まることをシナリオテストで確認できているかどうかです。

      あわせて留意したいのは、事業が止まる原因は災害の種類によって決まるわけではない、という点です。電力、通信、要員、設備といった経営資源が失われれば、豪雨であれ地震であれ、あるいはシステム障害やサイバー攻撃であっても、重要事業は同じように停止します。したがって、災害種別ごとに計画を作り分けるのではなく、失われ得る経営資源を起点に、どの事象でも機能する備えを設計するという「オールハザード」の発想が有効です。

      【従来型BCPから気候変動への適応を織り込んだBCPへの高度化】
      観点従来型BCPの基盤高度化の方向

      リスク前提

      過去実績・既存想定を基礎に計画

      観測された変化、将来シナリオ、不確実性を併記

      評価起点

      拠点・部門ごとの被害と復旧

      重要事業・製品・サービスと、顧客・社会への提供水準

      ハザード分析

      主要ハザードを個別に確認

      洪水・内水・高潮・土砂等の複合災害

      評価範囲

      自社施設・把握可能な取引先を中心

      人・設備・IT・インフラ・物流・サプライチェーン上流まで

      サプライチェーンの分散評価

      サプライヤー数と所在地の分散

      共通インフラ・物流・上流工程を含む依存関係

      リスク指標

      浸水有無・想定被害・復旧目標

      停止時間・最低供給水準

      5.BCPの実効性のチェックポイント

      すべてを一度に可視化する必要はありません。たとえば、重要事業・製品を2~3つに絞り、次の問いに答えられるかを確認するだけでも、優先して補うべき情報と対策が見えてきます。

      • 止めてはならない重要事業・製品・サービスと、許容停止時間・最低供給水準を、経営として合意していますか。
      • 各重要事業を支える拠点、設備、人・スキル、IT、電力・水・通信、物流、外部委託先を、サプライチェーンの上流までたどれますか。
        それぞれの情報について、管理している部署と更新日、確度は明確ですか。
      •  洪水だけでなく、内水氾濫、高潮、土砂災害、浸水継続時間など、拠点と周辺経路に必要なハザード情報を確認できていますか。
        ハザードマップで色が塗られていない理由が、未調査なのか、リスクが小さいのかまで説明できますか。
      • 拠点が無被害でも、従業員の通勤、道路・鉄道、受電、通信、上下水道の停止で操業できないシナリオを検証していますか。
      • 複数のサプライヤーから調達していても、変電所・工業用水、港湾・物流拠点、幹線道路、特殊工程まで含めて、同時には止まらない構造になっていますか。
      • 在庫日数、サプライヤーの復旧時間、代替調達のリードタイム、代替生産の可否を時系列でつなぎ、許容停止時間内に収まることを説明できる材料がそろっていますか。
      • 最新のハザード情報、設備・拠点の変更、新製品の追加、サプライヤーや物流の変更をBCP/BCMに反映するきっかけ(更新トリガー)が定められ、部門横断のシナリオテストが定着していますか。

      6.おわりに

      これまでの一般的なBCPは、発生した災害からいかに早く復旧するかに重点を置いてきました。一方、気候変動に伴い気象災害が激甚化するなかでは、将来想定される気象の変化をあらかじめ見据え、事業停止の可能性そのものを低減する発想が欠かせません。

      そのために求められるのは、BCPの改定回数を増やすことではありません。変化するハザードを、重要事業を支えるサプライチェーン上の依存関係と結び付け、停止時間、供給能力、復旧の見通しといった具体的な指標で示すことが出発点です。

      特に見落とされやすいのが、一見分散しているように見えるサプライチェーンの背後にある、共通の変電所、港湾、道路、物流拠点です。こうした共通の依存先を特定し、許容停止時間を超える経路から順に対策を講じれば、「想定した災害から復旧する計画」は、「想定が変わっても重要事業を提供し続ける力」へと近づきます。気候変動への適応は、新しい仕組みを一から構築することではありません。既存のBCM/BCP、サプライチェーン管理、設備・拠点戦略に織り込む取り組みです。まずは、ハザードデータと自社の事業・依存関係に関する情報を重ね合わせ、どこで目詰まりが生じるのかを診断することが重要です。


      本稿は以下の公表資料を参考にしています。

      執筆者

      KPMGコンサルティング
      シニアマネジャー 荒尾 宗明
      シニアコンサルタント 脇屋  新

      令和8年熊本地震を踏まえ、企業に求められるレジリエンスやBCPのあり方について、サプライチェーン対策や複合災害への備えの観点から考察します。

      気候変動が深刻な経営リスクになり得る今、企業が進めるべき「適応」について、攻守両面から取組みのポイントを解説します。

      KPMGは、クライシスマネジメント態勢の構築や、BCM/BCPの策定に加え、危機が発生した場合の対応までをワンストップで支援します。

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      KPMGコンサルティング

      戦略策定、組織・人事マネジメント、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス、リスクマネジメントなどの専門知識と豊富な経験から、幅広いコンサルティングサービスを提供しています。

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