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      モノ・サービスが豊富に選択できる環境において、企業・ブランドが機能や性能のみで明確な差別化を図ることは、すでに限界を迎えつつあります。今日、生活者が評価の軸として重視しているのは、商品・サービスを通じてどのような体験が提供されるかという点です。顧客体験は、もはや付加価値ではなく、企業・ブランドが選ばれ続けるための条件となっています。

      KPMGは、こうした顧客体験の重要性を早くから捉え、複数業界のブランドを対象に顧客体験の調査(Customer Experience Excellence Report、以下、CEE調査)を継続的に実施してきました。本調査は、KPMGが独自に定義した優れた顧客体験を構成する6つの要素である「Six Pillars」を基に、顧客体験の構築・向上におけるトレンドや、ブランドが取り組むべき課題を示唆することを目的としています。

      今回の調査は、地政学リスクやインフレの定着に加え、日本における人手不足や購買行動の変化など、環境が大きく変化するなかで実施されました。また、デジタル技術や生成AIの活用は、顧客体験や業務プロセスそのものを再設計するフェーズへと進みつつあり、生活者側においてもAI利用に対する心理的な抵抗感は低下しています。こうした環境下では、期待を深く理解し、それを超える体験を設計・提供できるかが競争優位性を左右します。

      本レポートが、こうした変化のなかで企業・ブランドが顧客体験のあり方を再考し、生活者に支持され続ける体験を実現するための一助となれば幸いです。



      1.優れた顧客体験を構成する6つの要素 “Six Pillars”

      KPMGは優れた顧客体験を構成する6つの要素「Six Pillars」を定義しています。

      Six Pillarsの包括的な向上によって顧客からの支持・ロイヤルティが高まり、それが企業・ブランドの持続的な成長につながることが確認されています。

      【Six Pillars】
      パーソナライズ顧客一人ひとりのニーズや状況に応じたサービスや体験を提供する
      誠実性企業に求められる責任を全うし、顧客に信頼される
      親密性顧客と感情的につながり、親密な関係性を築く
      期待の充足顧客の期待に応え、さらにはそれを超えるサービスを提供する
      利便性使いやすく、ストレスや労力を感じさせないサービスを提供する
      問題解決力サービス利用で生じた問題や不満を解消し、顧客のマイナス感情をプラスに変える

      2.日本における顧客体験の “今”

      • 企業・ブランドの顧客体験を取り巻く主な環境要因の変化

      今回のCEE調査は、前回に続き地政学リスクの長期化や為替変動の影響を受けた厳しい経済環境下で実施されました。日本市場では、生活者の購買行動の変化、顧客体験の向上を支える従業員の働きやすさ確保の重要性の高まり、AIのさらなる活用、ならびに倫理性・社会貢献などの企業姿勢に対する期待の継続といった要素が確認されました。

      【4つの主な環境要因の変化】
      • インフレの定着下における商品・サービス価値と価格の見直し
      • 顧客体験向上を支える、従業員の働きやすさ確保の重要性の高まり
      • デジタルのさらなる浸透と自立型AIエージェントの実装フェーズへの移行
      • 企業・ブランドに対する倫理性・社会貢献への期待の持続

      • 個人情報への懸念は残るものの、AI利用の心理的障壁は減少傾向

      企業とのやり取りにAIが使用される場合の懸念事項として、最も多かったのは「個人情報セキュリティ」でした。個人情報の漏えいや不正利用に関する報道が続くなか、AI活用の裏側で個人情報がどのように扱われるのか、生活者の関心が高まっていることがうかがえます。

      一方で、「特になし」とする回答も前回調査から大きく増加しました。生成AIの利用が日常化するなかで、AIに対する心理的な抵抗感は低下しつつあると考えられます。また、AIの応答精度や対話の質に関する懸念も全体的に低下しており、AIサービスの品質向上や企業での活用高度化が影響している可能性があります。

      Japanese alt text: 生活者に支持される顧客体験に関する調査 2025‐2026_図表1
      • 顧客体験の評価は改善傾向。今回は「利便性」が最も高い評価に

      今回調査のCEEスコアの全体平均は向上し、顧客体験の評価は改善傾向を示しました。また、優れた顧客体験を示すSix Pillarsの評価には、以下3つの傾向が見られます。


      • 日本の対象ブランドでは、引き続き「誠実性」「利便性」「パーソナライズ」が高く評価
      • 「問題解決力」を除く要素でスコアが上昇し、特に「利便性」「パーソナライズ」で伸びが見られた
      • これまで最も評価が高かった「誠実性」を、今回調査では「利便性」が上回った
      Japanese alt text: 生活者に支持される顧客体験に関する調査 2025‐2026_図表2
      • 問題解決力以外の要素にてスコアの改善がみられた

      今回の結果からは、Six Pillarsのうち多くの評価項目で改善の広がりが見られる一方で、問題解決力は伸び悩み、顧客体験における課題が示される結果となりました。

      【Six Pillarsからみる改善の要点】
      利便性商品・サービスの取引の手間削減と、ポイント等の商品・サービスに付随する価値の享受しやすさが利便性の評価を底上げ
      誠実性問題発生時の姿勢が誠実性への評価、ひいては企業・ブランド全体の信頼を左右する
      パーソナライズ生活者の“自身に合った選択”を実現する力がパーソナライズを押し上げ
      期待の充足“期待通り”と“期待超え”の両面での期待の充足が評価を押し上げ
      親密性人との温かい接点による寄り添いとさまざまな接点での積み重ねが生むブランドとの距離感の近さが親密性を強化
      問題解決力対応遅延と品質のばらつき、顧客視点の欠如が阻む問題解決力の向上

      • CEEスコアにおける各要素の重要度は定着しつつある

      パーソナライズは過去5年間、CEEスコアにおいて最も重要度の高い要素であり、さらに今回は重要度が上昇し、期待が高まっていることがわかります。AI活用の進展により、より精緻な体験提供が可能になったことで、生活者の期待水準が上昇しています。

      誠実性は2022年以降、CEEスコアで2番目に重要な要素とされ、今回調査では全要素のなかで最も高い伸びを示しました。透明性や一貫性、約束を守る姿勢は、商品・サービスが選ばれ続けるための必須要件になりつつあります。

      また、顧客体験のデジタル化・自動化が進むAI時代でも、生活者に情緒面で寄り添う親密性は重要です。オンライン・オフラインを問わず、温度感のある顧客体験が求められています。

      Japanese alt text: 生活者に支持される顧客体験に関する調査 2025‐2026_図表3

      「CEEスコアにおける重要度」は、Six Pillarsの各要素がどの程度ブランドのCEEスコアに影響しているのかを示した数値です。重要度は全体を100%とし、Six Pillars各要素の影響度の大きさを統計的手法により算出しています。

      • トップブランドは外部環境に左右されることなく高評価を維持

      今回調査の日本のトップ10ブランドには、エンターテインメントリゾートや自動車メーカー、スポーツブランドなどがランクインしました。うち7ブランドは前回調査でもトップ10に入っており、顧客体験の質を継続的に高めてきた企業・ブランドが、変化の大きい環境下でも高い評価を維持していることを示唆しています。

      • 利便性は前提条件、期待の充足が競争優位性の鍵となる

      CEEスコア上位10ブランドと11位以下のブランドを比較すると、「利便性」は最も差が小さく、デジタル化やサービスの標準化により一定水準まで底上げされているため、差別化要素になりにくいと考えられます。

      一方で、最も差が大きかったのは「期待の充足」であり、トップブランドは生活者や自社サービスへの理解を基に、期待通り、さらには期待を超える体験を提供することで差別化に成功していると考えられます。

      Japanese alt text: 生活者に支持される顧客体験に関する調査 2025‐2026_図表4

      3.業界ごとの顧客体験

      今回調査においては、「娯楽・レジャー」が顧客体験に対して最も高い評価を得ました。「娯楽・レジャー」は前回調査では2位でしたが、今回1位に返り咲きました。2位は前回1位だった「自動車」、3位は1つ順位を上げ「小売(食品以外)」となりました。「公共サービス」と「物流」は前回と入れ替わる形となり、それぞれ9位と10位という結果になりました。

      Japanese alt text: 生活者に支持される顧客体験に関する調査 2025‐2026_図表5

      1位:娯楽・レジャー

      「娯楽・レジャー」はCEEスコアが前回より上昇し、Six Pillarsの全要素でも改善が見られました。特にアミューズメントパークでは、アプリ活用による来園前後を含めた一貫した体験提供が高評価につながっています。また、ストリーミングサービスではAIを活用した視聴体験の最適化が進み、「利便性」や「パーソナライズ」の評価向上に寄与していると考えられます。

      2位:自動車

      「自動車」のCEEスコアは前回と同水準でしたが、「誠実性」「期待の充足」は上昇しました。販売店での接客品質や商品への満足度、安全性への安心感、事故・故障時の真摯な対応が評価されていると考えられます。一方で、「親密性」「問題解決力」は低下しており、対面チャネルでの親しみやすさやアフターサービスの待ち時間などに課題があることが想定されます。

      3位:旅行・ホテル

      「旅行・ホテル」はCEEスコアが上昇し、Six Pillarsの全要素で改善しました。航空会社では、予約やチェックインなどをウェブサイトやアプリで完結できるオンライン接点の拡充が、「利便性」の向上につながっているといえます。一方、鉄道は「問題解決力」「親密性」に課題が残っています。改善傾向にあるものの、サービスの複雑さや情緒的価値の不足があると考えられます。

      4.変革への視点

      今回調査の結果を踏まえると、生活者はAI等のテクノロジーが提供する利便性やスピードを享受しながらも、その先にあるブランドの誠実さや親しみやすさを求めています。デジタルとリアル、機能面と情緒面と一見相反する要素を生活者一人ひとりの文脈に合わせて最適に構築・提供するという高い次元の期待があると想定されます。

      【Six Pillersからみる変革への視点】
      利便性ハイパーパーソナライズの構想および実現
      誠実性AI活用の透明性を高めて信頼を構築する
      パーソナライズデジタルにおける人間味の演出と対面チャネルの有効活用
      期待の充足生活者の「期待を超える」
      親密性より高度な利便性を求めたオンライン・オフラインのシームレス化の促進
      問題解決力顧客に不要な手間をかけさせず、早期に問題解決可能とする一貫した顧客体験

      企業が顧客に支持され続けるには、透明性や信頼性を基盤に、倫理性や社会貢献、AI活用における個人情報保護の姿勢をわかりやすく示すことが重要です。また、データやAIを活用して顧客の行動や潜在ニーズを捉え、期待を超える体験を提供することが求められます。利便性が一定水準まで高まるなかでは、デジタル・対面の両接点で人間味のある配慮やブランドらしさを表現し、顧客体験全体で一貫した価値を届けることが継続的な支持獲得に寄与します。

      ※レポートの全文はPDFからダウンロードできます。本稿で解説した以外にも、セクター別の詳細な結果を紹介していますので、ぜひご覧ください。

      生活者に支持される顧客体験に関する調査 2025‐2026

      生活者に支持される顧客体験に関する調査2025‐2026

      Customer Experience Excellence Report

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