生成AIの急速な普及に伴い、多くの組織が業務効率化や新たな価値創出に向けた活用を進める一方、AIガバナンスやデータ管理、セキュリティリスクへの対応も重要な経営課題となっています。
KPMGでは、日本国内の企業・公的機関に勤務する2,788人を対象に、16業種における職場でのAIの利活用およびガバナンスに関する調査を実施しました。その結果、約半数の回答者が業務で生成AIを活用している一方、AI利用環境やガバナンス体制には業種による差が存在することが明らかになりました。また、AI利用に関するルール整備や利用状況の管理が、業務効率化の実感と相関する傾向も確認されています。さらに、ソブリンAIへの関心の高まりや、シャドーAI・バイブコーディングに起因する新たなリスクも浮き彫りとなっています。
本レポートでは、企業におけるAI活用の現状と課題、今後のAI戦略を検討するうえで押さえておきたいポイントを紹介します。また、AI活用の現状分析に加え、AI社会を支えるTMT業界の役割や、AIエコシステムのなかで企業に求められる戦略・ガバナンスの方向性についても考察しています。
<注目すべき調査結果>
1.回答者の約49%が生成AIを業務に活用 2.AIによる業務削減効果はガバナンス体制構築と相関関係がみられる 3. AIによる職業代替への懸念はいまだ顕在化せず 4.データ主権(ソブリン性)へのニーズは業種によっては顕在化の兆し 5.シャドーAIやバイブコーティング(生成AIを活用したプログラミング)による懸念が高まる |
1.新たなフェーズを迎えた生成AI活用
調査では、回答者の48.8%が勤務先で生成AIを業務利用していると回答しました。そのうち半数超である約51%が少なくとも1日1回以上活用しており、生成AIは一部の実証実験や限定利用の段階を超え、日常業務に浸透し始めていることがうかがえます。 一方で、回答者の41%は「利用可能なAIサービスがない」と回答しており、組織や業界によって活用環境に大きな差が生じています。
【生成AIサービスをどの程度業務利用しているか】
TMT業界に属する通信業・情報サービス業・製造業(電機機器等)は、指定されたAIのほか、申請によってその他のAIも利用可能との回答が約30%にのぼり、他業界と比較して高い割合であり、安全性と柔軟性を両立した活用が進んでいる傾向がみられました。
一方、主にフィジカルな業務が多いと思われる業界や官庁・自治体では「アクセス可能なAIサービスがない」との回答が過半数を占めました。
2.「AI導入」ではなく「AIガバナンス」により生み出される成果
生成AIを十分に使いこなせていると感じる人は約23%にとどまる一方で、業務で生成AIを利用したことがある回答者は約40%に達しました。
【生成AIを業務で使いこなせていると思うか/生成AIの導入により既存業務の業務量は減少したか】
AIサービスを利用できる環境が整備されている組織のうち、約67%でAIの積極的活用が推奨されています。また、約43%の組織がAI利用に関する全社的なガイドラインやルールを定めており、方針策定やガバナンスへの組込みは着実に進展していることがうかがえます。
【勤務先でのAIサービスの活用は推奨されているか/勤務先でAIサービスの利用についてのガイドラインやルールはあるか(全体)】
特に、TMT業界に属する通信業・情報サービス業・製造業(電機機器等)や金融・不動産業では、約6割の組織が全社的なAIガイドラインやルールを整備しており、リスク管理体制の構築が進んでいるとみられます。一方、サービス業(医療・福祉)や農林水産・建設業では、65%以上がガイドラインやルールは存在しないと回答しており、AI活用に関するガバナンス面では課題があると見受けられました。
さらに調査結果からは、AI利用に関するガイドラインやルールを整備している組織、利用状況を可視化・管理している組織ほど、高い業務効率化効果を実感している傾向が確認されています。
【生成AIの導入により既存業務の業務量は減少したか(AIのガイドライン・ルールの有無で分析)】
AI活用の成果を最大化するためには、ツール導入そのものではなく、利用方針の明確化やルール策定、モニタリング体制の構築といったガバナンス整備が重要であることが示唆されています。AIを安全かつ継続的に活用するためには、技術導入とガバナンス強化を一体で推進することが求められています。
3.AIによる職業代替リスクの認識
AIによる職業代替リスクを懸念している回答者は約18%にとどまり、大多数は現時点で自身の業務や職業がAIに置き換えられることを強く懸念していない結果となりました。
海外ではAI導入に伴う人員削減が課題となるなか、日本では慢性的な人手不足が続いており、AIによる業務代替は労働力不足を補完する手段として現時点では好意的にみられている可能性があります。
一方、映像・音声制作業、製造業(電機機器等)、小売業、専門サービス業(法律等)といった一部業種では相対的に職業代替のリスク認識が高い傾向がみられ、今後のAIの高度化が雇用に与える影響に注視が必要と考えられます。
【「自分の職がAIに奪われる」ことにリスクを感じるか】
4.AI時代の競争力を左右する「データ主権(ソブリン性)」への関心
「AIに入力した情報がサービス提供企業に意図せず利用されること」に対して、全体の約35%がリスクを感じていると回答しました。
特に金融・不動産業や電気・ガス・運輸業ではその割合が高く、重要データを保有する組織ほどデータに対する主権に対する意識が高いことがうかがえます。
こうした結果は、単なる生成AIの活用にとどまらず、今後このような業種を起点としてAIのソブリン性に対する需要が広がっていく可能性を示唆しています。また、今後は、AI性能だけでなく、データの保管場所や利用方法、ガバナンス体制といった観点がAI選定の重要な評価軸になると考えられます。
【「AIに入力した情報が、そのAIサービス提供企業などに意図しない形で利用される」ことにリスクを感じるか】
5.シャドーAIとバイブコーディング(生成AIを活用したプログラミング)による新たなリスク
生成AIの普及に伴い、組織が管理していないAI利用に起因するリスクも浮き彫りになりました。調査では、約14%が業務関連情報を私的な生成AIに入力する「シャドーAI」を経験していると回答しています。
また、生成AIを活用したプログラミング(いわゆるバイブコーディング)において、処理内容を十分に理解しないまま利用した経験を持つ回答者は約65%に上りました。
【「シャドーAI」および「バイブコーディング」の経験があるか】
こうした行為は、情報漏えいやシステム障害、セキュリティ脆弱性の発生につながる可能性があります。生成AI活用の浸透が進む一方で、セキュリティリスクへの対応の重要性が一層高まっています。生成AI活用を拡大するためには、利便性を追求するだけでなく、利用者教育やルール整備を通じたリスク管理の高度化が不可欠です。
6.AI社会の実現を支えるTMT業界の役割:AI活用とガバナンス整備の先行市場
生成AIの高度化やAIエージェントの普及が進むなか、AI社会の実現には、AIモデルだけでなく、半導体、クラウド、データセンター、ネットワーク、通信インフラ、セキュリティなど、多様なプレイヤーが連携するエコシステムの構築が不可欠となっています。
本調査では、通信業や情報サービス業などのTMT業界において、他業種と比較してAI活用環境やガバナンス整備が進展している傾向がみられました。こうしたTMT企業は、自らAIを活用するだけでなく、日本企業や社会全体のAI活用を支える基盤提供者としての役割も担っています。
今後は、AIモデル、データ、通信、クラウド、セキュリティ、アプリケーションをつなぐエコシステム全体の競争力が重要となるなか、TMT企業には、ソブリンAIの実現や新たなAIサービス創出を牽引する役割が期待されています。
KPMGは、TMT業界を取り巻く事業・技術・規制・リスクの変化に対し、戦略策定から事業変革、テクノロジー導入、リスク管理まで総合的な支援を通じて、TMT業界をはじめとする企業のAI活用と価値創出を支援します。
※下記からダウンロードいただけるPDFでは、調査結果の一部のみを掲載しています。業界・企業規模別の詳細分析や、調査結果から導かれる示唆について関心がございましたら、ぜひお問い合せください。